婚約令嬢の侍女調教

和泉葉也

文字の大きさ
上 下
23 / 65
第三章 侯爵令嬢としての心得

カースティ補佐官のレッスン(3)

しおりを挟む
「——カースティ補佐官、お呼びでしょうか?」

 2回丁寧なノックをしてから、薄茶色の髪を短く切り揃えた侍女が執務室に入ってきた。
 知らない間にベルを鳴らして、呼んでおいたらしい。

「これからセレンティア様に、掃除やお手入れのレッスンを行います。酷く緊張しておられるので、グロウはまず、深い口付けの仕方から教えてあげて下さい」
「かしこまりました。セレンティア様のような高貴なお方のお相手を務められるとは……」

 グロウと呼ばれた侍女は、腰を落としたままのセレンティアを支えて立たせ、深々とお辞儀をした。

「初日に、他の者達とお会いして以来となります。マリールシュラ・グロウと申します。どうぞ、マリーとお呼び下さい。
 この度は当家の侍女と料理長が、セレンティア様にご無礼を働き、申し訳ございませんでした」

 マリーは貴族としては少し高めのセレンティアより背が大きく、二人で並んでみるとダンスの練習相手にも最適だった。相手役となる事は本当に嬉しいようで、クロームファラ達のような愛想笑いとは違う、心からの微笑みをセレンティアに見せた。

「グロウは異性よりも女性を好む、少し変わった侍女です。テオルース様に懸想をする心配は一切ございませんので、安心して指導役を任せられます。それに、侯爵家の者ですから、他の侍女よりも遥かに格上ですので、諫言に惑わされる心配もございません。
 私は監督役として、セレンティア様が落ち着くまで手を出さずにおります。…グロウ、セレンティア様は空腹でいらっしゃるから、何かお腹が満たされるように、指導しておあげ」

「かしこまりました。セレンティア様が女主人としてお勤め出来るまで、精一杯お仕え致します」

 マリーは執務室から一度出て、黒い菓子箱や蜂蜜。水にタオルといった物を持ってきた。
 まだ硬直して上手く話せないセレンティアの顔に濡れタオルを当て、髪に櫛を通して背中をさすっていく。

 菓子箱を開けて、マリーは宝石のように小分けされて包まれた大粒のチョコレートを手に取って、口にそのまま含んでから、セレンティアの咥内に舌を差し入れた。

「……んっ、ぁ……んんっ…」

 マリーの赤い舌を通して、甘い味が口の中に広がっていく。大きくなってからは、母親違いの弟や妹たちに取られてしまい、決して与えられる事など無かった、深い苦さと甘み。
 嗜好品は義母が抑え、家格を考えない豪奢な茶会に使われていった。

「……甘い、美味しい。チョコレートって、こんなに心を震わせるお菓子だったのね」
「菓子箱はたくさんございますので、私と取り合いをしながら深い口付けを覚えて参りましょう。ご無礼を働くのを、どうかお許しください」

 執務室の堅いソファーに座らされ、膝立ちのマリーによって二粒目のチョコレートが咥内に差し込まれた。女性同士という抵抗感は有ったが、甘い匂いと味わいに押し出され、セレンティアは自らマリーの舌を少しずつだか撫で始めた。

 頭の奥が痺れてきて、鼓動が熱くなるのを感じる。さっきから訪れる眩暈は、花奴隷のクラレッテが言うには欲情によるものらしいが、女性相手にこんなにも心を捕らえられている自分が、どうにも信じられない。

「……どれだけ舌を使えば、よりチョコレートを味わえるのかを考えながら舌先を絡ませるのです。喉の奥や頬の裏側。自分がどこまで責め立てられたら苦しくなるのかを学んで、……それを、相手に返す。単なる逢瀬ではなく、お互いを理解して味わい合うのが貴族同士の深い口付けです」

 二粒の大ぶりなチョコレートで、乾き切ったお腹が満たされると、身体の中から喘ぎや飢えが訪れてきた。
 マリーの舌が喉奥や顎の下、頬の裏から唇の端と執拗に責め立て、痛みや苦しさを感じる手前までセレンティアを追い詰めていく。口の中の広さはそんなに変わらない物なので、セレンティアも何処まで舌を伸ばせば良いのかすぐに理解し、そして、すぐにマリーを追いかけた。

「その調子で舌を這わせて、時には吸い上げて責め立てる事で、お掃除の仕方も上手になります。蜜に酔われたセレンティア様のお姿を、早く見たいですわ…」

 新しいタオルではしたなく溢れた涎を拭かれ、髪や肩を撫でられながら息継ぎをする時間を貰える。他の侍女たちの指導もしているのか、置かれた手の圧や動きは非常に繊細なものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

処理中です...