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第三章 侯爵令嬢としての心得
奴隷たちの花蜜(3)
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「……すまないが、水と、果物を持ってきて貰えないかい……? たしか、籠がガラス扉の裏に置かれているよ……。そちらも、身体の自由が少ないみたいだけど、僕たちは拘束されたままだったから、水分を摂らないと起き上がれないんだ」
「わかりました、すぐに持ってきます」
ガラス扉が留められている反対側に向かうと、大振りの瓶に冷えた水が入っており、細かな木で織られた籠の中にはたくさんの果物が収められていた。
セレンティアは手枷に取り付けられた鉄棒を上手く使って押し出し、数分かけて青年の前まで瓶と籠を移動させた。
「手枷さえ外せれば瓶は持てるけど、この格好では果物を手渡すくらいしか出来そうにもないわ。
あの、初めて会った方にこんな事をするのは憚れてしまうのですが、口移しで水を飲ませてもお許しになって下さいますか?」
藍色の髪の青年が微笑んで答えたので、セレンティアは何度か躊躇いながらも、顎と首を使って瓶を口に当てて水を含んだ。自分からこんな事をするなんて、今までであれば有り得ない行いに身が震えてきたが、何とか青年の膝に手枷を置いて、甘く香ってくる唇に触れていった。
一度、二度口移しで青年に水を送り込むと、ようやく肌に水分が行き渡って来たらしい。吹き抜けからくる日差しに彼の深い藍色の髪が照らされ、極上の宝石箱のようにキラキラと光った。
―――こんな美しい男性と、二回も口づけてしまうだなんて。
一目で心を奪われるような美麗さに、セレンティアは酷い眩暈さえも忘れ去り、同時に拘束された自分の身体がペットか小動物のようなみすぼらしい姿で恥ずかしくなってきた。
「ありがとう。可愛いお嬢さん。出来れば、果物も口移しで送り込んで貰えると助かるよ。
僕たち花奴隷は、安息日以外はここで過ごさなくてはならないから、拘束された身体をすぐには動かせないんだ」
「何て、酷い扱いをするのでしょう……。すぐに差し上げますから、どうぞ召し上がって下さい」
ガラス扉に閉じ込められ、足を拘束される日々を過ごす花奴隷たちの扱いに同情したものの、果物を見るだけで涎が溢れてしまった。
(彼らを元気にさせれば、少しだけでも果物を分けて貰えるかもしれない……)
籠の中から食べやすそうな山葡萄の実を咥え、セレンティアはぎこちない動きで舌を使って、葡萄の実を青年の中に送り込んでいく。
ずっと拘束されているのは本当の事らしく、うまく咀嚼が行えない彼の咥内に舌を差し入れ、そっと押し潰しながら嚥下させる。
甘い味と蜜がセレンティアの口の中にも広がっていき、飢えていたこちらの喉も潤されていく。
山葡萄から棗、無花果と一度咀嚼してから口移しで青年の中に送り込んでいくと、ようやく元気を取り戻してきたのか、彼の舌先がセレンティアの咥内で絡み合ってきた。
食事に酷く飢えていたセレンティアに、深い口づけは堪らなく癒される行いだった。舌先を合わせ、唾液を啜り合い、顔を寄せ合って唇を舐め合う。
しばらく貪り合っていると、セレンティアのお腹が鳴ってしまった。思わず恥ずかしさに震える彼女の髪を、ようやく動き出した青年の指先が優しく撫でて、籠の中から大振りの果実を取って、口に入れてくれた。
甘い香りと酸味の利いた味わいにうっすらと涙を流しながら、セレンティアは二日ぶりの食べ物を飲み込んだ。
「初めて屋敷に訪れた貴族の令嬢に、丸一日食事を抜くだなんて……。公爵家の侍女は、随分な扱いを君にするんだね」
「私も、舞い上がっていたんですわ。何も知らない無知な娘だったから、反対していた父の真意も分からず、こんな場所に来てしまった」
「セレンティア。未来の公爵夫人となる貴方なら、この場所を変えられるかもしれないよ。僕は花奴隷のクレロデンドルム。庭師はそのままデンドルムと名付けて、僕を呼んでいるよ」
デンドルムは器用に枷と鉄棒の金具を取り外し、セレンティアは自由になった四肢に安堵した。
寄り添っていた二人の女性も金具を外す音で目を覚まし、黄金の瞳の女性がニンファエアテトラ。薄桃の瞳がアドリクラレッテとそれぞれ名乗った。嫁いだ貴族の女性と同じく、花奴隷となってからは名前の後ろを名乗るのが作法らしい。
「セレンティア・リグレットと申します。お二人への無礼な行いを、どうかお許しになって下さい」
女性相手に口づけるのは初めてだったので少し躊躇したが、デンドルムに促される形でセレンティアは同じように、口移しで二人へ水と果実とを分け与えた。
三人の花奴隷が元気を取り戻すと、庭園そのものが輝き始めたかのように活気づいていく。
「わかりました、すぐに持ってきます」
ガラス扉が留められている反対側に向かうと、大振りの瓶に冷えた水が入っており、細かな木で織られた籠の中にはたくさんの果物が収められていた。
セレンティアは手枷に取り付けられた鉄棒を上手く使って押し出し、数分かけて青年の前まで瓶と籠を移動させた。
「手枷さえ外せれば瓶は持てるけど、この格好では果物を手渡すくらいしか出来そうにもないわ。
あの、初めて会った方にこんな事をするのは憚れてしまうのですが、口移しで水を飲ませてもお許しになって下さいますか?」
藍色の髪の青年が微笑んで答えたので、セレンティアは何度か躊躇いながらも、顎と首を使って瓶を口に当てて水を含んだ。自分からこんな事をするなんて、今までであれば有り得ない行いに身が震えてきたが、何とか青年の膝に手枷を置いて、甘く香ってくる唇に触れていった。
一度、二度口移しで青年に水を送り込むと、ようやく肌に水分が行き渡って来たらしい。吹き抜けからくる日差しに彼の深い藍色の髪が照らされ、極上の宝石箱のようにキラキラと光った。
―――こんな美しい男性と、二回も口づけてしまうだなんて。
一目で心を奪われるような美麗さに、セレンティアは酷い眩暈さえも忘れ去り、同時に拘束された自分の身体がペットか小動物のようなみすぼらしい姿で恥ずかしくなってきた。
「ありがとう。可愛いお嬢さん。出来れば、果物も口移しで送り込んで貰えると助かるよ。
僕たち花奴隷は、安息日以外はここで過ごさなくてはならないから、拘束された身体をすぐには動かせないんだ」
「何て、酷い扱いをするのでしょう……。すぐに差し上げますから、どうぞ召し上がって下さい」
ガラス扉に閉じ込められ、足を拘束される日々を過ごす花奴隷たちの扱いに同情したものの、果物を見るだけで涎が溢れてしまった。
(彼らを元気にさせれば、少しだけでも果物を分けて貰えるかもしれない……)
籠の中から食べやすそうな山葡萄の実を咥え、セレンティアはぎこちない動きで舌を使って、葡萄の実を青年の中に送り込んでいく。
ずっと拘束されているのは本当の事らしく、うまく咀嚼が行えない彼の咥内に舌を差し入れ、そっと押し潰しながら嚥下させる。
甘い味と蜜がセレンティアの口の中にも広がっていき、飢えていたこちらの喉も潤されていく。
山葡萄から棗、無花果と一度咀嚼してから口移しで青年の中に送り込んでいくと、ようやく元気を取り戻してきたのか、彼の舌先がセレンティアの咥内で絡み合ってきた。
食事に酷く飢えていたセレンティアに、深い口づけは堪らなく癒される行いだった。舌先を合わせ、唾液を啜り合い、顔を寄せ合って唇を舐め合う。
しばらく貪り合っていると、セレンティアのお腹が鳴ってしまった。思わず恥ずかしさに震える彼女の髪を、ようやく動き出した青年の指先が優しく撫でて、籠の中から大振りの果実を取って、口に入れてくれた。
甘い香りと酸味の利いた味わいにうっすらと涙を流しながら、セレンティアは二日ぶりの食べ物を飲み込んだ。
「初めて屋敷に訪れた貴族の令嬢に、丸一日食事を抜くだなんて……。公爵家の侍女は、随分な扱いを君にするんだね」
「私も、舞い上がっていたんですわ。何も知らない無知な娘だったから、反対していた父の真意も分からず、こんな場所に来てしまった」
「セレンティア。未来の公爵夫人となる貴方なら、この場所を変えられるかもしれないよ。僕は花奴隷のクレロデンドルム。庭師はそのままデンドルムと名付けて、僕を呼んでいるよ」
デンドルムは器用に枷と鉄棒の金具を取り外し、セレンティアは自由になった四肢に安堵した。
寄り添っていた二人の女性も金具を外す音で目を覚まし、黄金の瞳の女性がニンファエアテトラ。薄桃の瞳がアドリクラレッテとそれぞれ名乗った。嫁いだ貴族の女性と同じく、花奴隷となってからは名前の後ろを名乗るのが作法らしい。
「セレンティア・リグレットと申します。お二人への無礼な行いを、どうかお許しになって下さい」
女性相手に口づけるのは初めてだったので少し躊躇したが、デンドルムに促される形でセレンティアは同じように、口移しで二人へ水と果実とを分け与えた。
三人の花奴隷が元気を取り戻すと、庭園そのものが輝き始めたかのように活気づいていく。
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