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第二章 従う事への教育
燃やされたバスケット(1)
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「セレンティア様。どうなさったのです、そのお衣装は……? それに、手足も擦り傷だらけですし、布の手枷や首枷まで取り付けられて…」
昼食用のカトラリーを乗せた給仕カートを手に、扉をノックしてレイン侍女長が入ってきた。
どうやら彼女はこの状況を異常と感じているようで、セレンティアに着させられた丈の短いエプロンドレスを検分し、不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
「クロームファラ様と、レミエール様が、これが私の制服だとおっしゃられて…」
「そんなはず有りませんわ。これでは、街頭に立つ娼婦のようなお姿ではないですか。貴方様は公爵家の侍女ですのに……。いえ、セレンティア様。私、良からぬ噂話を耳にしました。昨晩は、貴方様がテオルース様と一夜を共にしたと…」
「……テオルース様と、その」
セレンティアは婚約予定者の名前を出されただけで顔を赤らめ、昨晩の行いを素直に告げた。
頭を抱えてため息を漏らすレイン侍女長は、給仕カートを部屋の隅に置いて、手にしていたナプキンを整えた。
「それでは、その制服を着させられても仕方ありませんわ。セレンティア様はご存知ないのかもしれませんが、公爵位以上のお屋敷に勤める侍女には貞淑さが求められます。
将来、王位を継ぐ可能性のある子女に、淫らな行いを教えるようであっては、身の回りのお世話は任せられませんもの。他の働く者たちも、お屋敷では常に清廉さを保たなくてはなりません」
「私は、テオルース様にとって、罪な行いをしてしまったのですね」
侍女としての決まり事は知らなかったが、正式な婚約前にベッドを共にする事は淫らな行いだとセレンティアも知っていた。
それが、ここまで責めを受けるような扱いになるとは…。
「決まりを破った侍女は実家に帰されるか、任期を終えるまでの間、他に働く者たちの共同の慰み者となります。しかし、正式なものは一年後とはいえ、セレンティア様はテオルース様の婚約者です。
当面は公爵家の慰み者の侍女として過ごして貰い、一年後に二人が結ばれた事にでもしようと思ったのでしょうね」
「私が、共同の慰み者となるのですか…?」
「規則を守れなかった侍女を、奥様方の前にお見せする事は許されませんもの。例え、従僕や小間使いと戯れのキスを交わす事が有っても、その身を捧げて一晩を共にするのは罪な行いです。
相手に夢中になって、本来の職務を忘れてしまい、その間に公爵家の子女に何かあったらどうしますか?」
「ですが、私は知らなかった! そのような行いが罪である事は、何も聞かされては居ませんでした」
「それはそうかも知れませんが、私。昨晩に客間で茶器を片付けた侍女のカーラから、セレンティア様の方からテオルース様を誘惑したと、伝え聞いておりましてよ…。何をされようとも咎められない、そんな言葉でテオルース様の手を引いたと」
————
「——私は、貴方様の者ですわ。何をなさろうとも、咎められる事は有りません。どうかテオルース様、私にご指導なさって…」
————
確かに、そんな言葉を告げた。それは事実ではあるが、先に部屋を訪れたのはテオルースの方であり、こちらが責められるような話でも無かったはずだ。
セレンティアは何とか弁解の言葉を見つけようと、昨晩行った会話を反芻していくが、レイン侍女長を納得させるだけの台詞が、何も思い浮かばなかった。
「他にも、セレンティア様は淑女ではなく淫らな女性で、伯爵家の財政を支えるために秘密の夜会で逢瀬を重ねている。という話や、身体を使ってテオルース様を無理やり納得させた……等という、無礼な噂話も聞き及んでおりましてよ」
「わ、私は、そんな女性では有りません! 昨晩が、テオルース様に捧げたのが、私の初めてでしたのに…」
「言葉では、何とでも話せましてよ。本当に昨晩までは処女であったと言うのなら、お身体をバスルームで調べさせて頂く必要がございます。
でも、既に遊んでいる淫らな売女である事が分かったら、その身を焼かれても仕方ありませんわ」
昼食用のカトラリーを乗せた給仕カートを手に、扉をノックしてレイン侍女長が入ってきた。
どうやら彼女はこの状況を異常と感じているようで、セレンティアに着させられた丈の短いエプロンドレスを検分し、不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
「クロームファラ様と、レミエール様が、これが私の制服だとおっしゃられて…」
「そんなはず有りませんわ。これでは、街頭に立つ娼婦のようなお姿ではないですか。貴方様は公爵家の侍女ですのに……。いえ、セレンティア様。私、良からぬ噂話を耳にしました。昨晩は、貴方様がテオルース様と一夜を共にしたと…」
「……テオルース様と、その」
セレンティアは婚約予定者の名前を出されただけで顔を赤らめ、昨晩の行いを素直に告げた。
頭を抱えてため息を漏らすレイン侍女長は、給仕カートを部屋の隅に置いて、手にしていたナプキンを整えた。
「それでは、その制服を着させられても仕方ありませんわ。セレンティア様はご存知ないのかもしれませんが、公爵位以上のお屋敷に勤める侍女には貞淑さが求められます。
将来、王位を継ぐ可能性のある子女に、淫らな行いを教えるようであっては、身の回りのお世話は任せられませんもの。他の働く者たちも、お屋敷では常に清廉さを保たなくてはなりません」
「私は、テオルース様にとって、罪な行いをしてしまったのですね」
侍女としての決まり事は知らなかったが、正式な婚約前にベッドを共にする事は淫らな行いだとセレンティアも知っていた。
それが、ここまで責めを受けるような扱いになるとは…。
「決まりを破った侍女は実家に帰されるか、任期を終えるまでの間、他に働く者たちの共同の慰み者となります。しかし、正式なものは一年後とはいえ、セレンティア様はテオルース様の婚約者です。
当面は公爵家の慰み者の侍女として過ごして貰い、一年後に二人が結ばれた事にでもしようと思ったのでしょうね」
「私が、共同の慰み者となるのですか…?」
「規則を守れなかった侍女を、奥様方の前にお見せする事は許されませんもの。例え、従僕や小間使いと戯れのキスを交わす事が有っても、その身を捧げて一晩を共にするのは罪な行いです。
相手に夢中になって、本来の職務を忘れてしまい、その間に公爵家の子女に何かあったらどうしますか?」
「ですが、私は知らなかった! そのような行いが罪である事は、何も聞かされては居ませんでした」
「それはそうかも知れませんが、私。昨晩に客間で茶器を片付けた侍女のカーラから、セレンティア様の方からテオルース様を誘惑したと、伝え聞いておりましてよ…。何をされようとも咎められない、そんな言葉でテオルース様の手を引いたと」
————
「——私は、貴方様の者ですわ。何をなさろうとも、咎められる事は有りません。どうかテオルース様、私にご指導なさって…」
————
確かに、そんな言葉を告げた。それは事実ではあるが、先に部屋を訪れたのはテオルースの方であり、こちらが責められるような話でも無かったはずだ。
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「他にも、セレンティア様は淑女ではなく淫らな女性で、伯爵家の財政を支えるために秘密の夜会で逢瀬を重ねている。という話や、身体を使ってテオルース様を無理やり納得させた……等という、無礼な噂話も聞き及んでおりましてよ」
「わ、私は、そんな女性では有りません! 昨晩が、テオルース様に捧げたのが、私の初めてでしたのに…」
「言葉では、何とでも話せましてよ。本当に昨晩までは処女であったと言うのなら、お身体をバスルームで調べさせて頂く必要がございます。
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