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第一章 令嬢だった頃の日々
公爵家への訪問(2)
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薔薇色で包まれた庭園を抜け、正門のドアの前で馬車は停まった。
専任の従僕が扉を開くと、庭師や作業中の小間使いたちが一斉に跪いて礼の姿勢をとる。
「ようこそお越しくださいました、セレンティア・リグレット侯爵令嬢。
自領からの長旅、さぞやお疲れでしょう。客間の準備と火の用意が調っております」
同じ黒髪をしたカースティ公爵家補佐官に手を取られ、従僕が手持ちのバスケットを運んでいく。扉は小間使い達によって開かれ、帽子や手袋も静かに預かられていく。
朱色の敷物が長く続いたエントランスに入って行けば、公爵家で働くほとんどの者達が彼女の出迎えを待ち構えていた。
カースティ補佐官がセレンティアの前で跪くと、一斉に数十名は居るであろう侍女や小間使い、料理人に従僕に至るまで一斉に彼女の前に床に足を着いて跪いた。
「セレンティア様は、これより行儀見習いを兼ねた侍女としてのお勤めを当家で一年間行うと伺っております。しかし、本日明日の二日間は公爵家を知って頂くため、歓迎も兼ねて客人として持て成すように、奥様方からご命じられております。
共に働くお方になるとはいえ、行く行くは当家の奥方様となり、公爵夫人となられる。それに至るまでの教育は、大変厳しい物になる事でしょう。
どうか僅かな間だけでも、存分に当家でお寛ぎになってから侍女としての務めを始めてください」
「ありがとうございます、カースティ補佐官。皆様のご期待に添えるよう、懸命に努力致しますわ」
セレンティアが不慣れなお辞儀をすると、公爵家で働く人々は一斉に立ち上がって拍手の歓待を行う。
料理長や家令、侍女長達の自己紹介が行われ、一刻程の談笑が行われた後にようやく客間に通された。
すぐに熱い紅茶が運ばれ、一介の令嬢が過ごすには広すぎる客間に戸惑っていると、薄茶色の髪を結えたレイン侍女長が優しく肩に手を置いた。
「明日には、アースティ侯爵。いえ、テオルース様もお戻りになられます。夕食がお一人ではお寂しいかもしれませんが、社交シーズンが明ける頃には奥様達もお戻りになられるので賑やかになりますよ」
「ありがとうございます、レイン侍女長。私、皆さま方の期待に添われるように勤めて参ります。あの、私とアースティ侯爵との婚約予定が決まったのは、レイチェル夫人の強い薦めがあったとお聞きしたのですが……。失礼ながら、夫人とはお会いした記憶がなかったものですから」
「お父上のリグレット侯爵は、第一王女であるカスティア王女殿下の派閥に居ります。お二人が古くからの交流が有った事と、セレンティア様が王女殿下の強い信奉者という話をお気に召したとの事ですよ。
大丈夫です。奥様は思慮深い方ですから、セレンティア様を御子息の婚約者として相応しいと判断された上で、当家に招いたのです。どうぞ、その身を誇って下さいませ」
赤茶色の瞳のカスティア王女は、聖女として貴族から崇められる存在。セレンティアも憧れを抱いた相手であり、その事が評価されたのならばこれ以上の喜びはなかった。
「さて、制服の採寸の都合も有りますし、一度、夕食前にお隣のバスルームにご案内致します。当家のお針子が仕立て上げますので、コルセット等も新たにご用意します。採寸は細かく行いますが、正確さを確認するだけですのでご安心ください」
茶器を手にレイン侍女長はお辞儀をして退室をし、代わりにドレスを脱がせるための侍女と採寸係が姿を現した。
人を多く雇える環境では無かった関係から、服を誰かに脱がされた経験のないセレンティアは顔を赤く染めながら、やや小柄な侍女にコルセットの紐を外されていく。
制服だけではなくアクセサリーや指輪のサイズまで調べる必要が有るとの事で、手首の長さや指先の大きさ、靴のサイズや足首の太さ。果てに、裸になったら乳房の大きさや舌の長さまで計測され、セレンティアは自分がお人形にでもなったかのような気分になった。
何故、舌の長さや耳の大きさ。首のサイズまで測定していったのか疑問には思ったが、支度を手伝う侍女の話術があまりにも長けており、思い悩む暇もないままバスルームへと担ぎ込まれた。三人がかりで身を洗われ、熱い湯を湛えたバスタブに身を投じて暫くすれば、細い管のような物を洗髪係の少女が持参し、セレンティアの秘芯の長さや覆われた産毛の感触や範囲まで記録していく。
さすがにこの採寸には疑問を感じたものの、すぐに火照った身体を丹念にオイルマッサージされ、その心地よさに絆される形で流されてしまった。
この事を後悔するのは随分と先の話になるが、元伯爵令嬢程度の抵抗では、公爵家の有望なる働き手からの歓待を逃れる術はなかった。
専任の従僕が扉を開くと、庭師や作業中の小間使いたちが一斉に跪いて礼の姿勢をとる。
「ようこそお越しくださいました、セレンティア・リグレット侯爵令嬢。
自領からの長旅、さぞやお疲れでしょう。客間の準備と火の用意が調っております」
同じ黒髪をしたカースティ公爵家補佐官に手を取られ、従僕が手持ちのバスケットを運んでいく。扉は小間使い達によって開かれ、帽子や手袋も静かに預かられていく。
朱色の敷物が長く続いたエントランスに入って行けば、公爵家で働くほとんどの者達が彼女の出迎えを待ち構えていた。
カースティ補佐官がセレンティアの前で跪くと、一斉に数十名は居るであろう侍女や小間使い、料理人に従僕に至るまで一斉に彼女の前に床に足を着いて跪いた。
「セレンティア様は、これより行儀見習いを兼ねた侍女としてのお勤めを当家で一年間行うと伺っております。しかし、本日明日の二日間は公爵家を知って頂くため、歓迎も兼ねて客人として持て成すように、奥様方からご命じられております。
共に働くお方になるとはいえ、行く行くは当家の奥方様となり、公爵夫人となられる。それに至るまでの教育は、大変厳しい物になる事でしょう。
どうか僅かな間だけでも、存分に当家でお寛ぎになってから侍女としての務めを始めてください」
「ありがとうございます、カースティ補佐官。皆様のご期待に添えるよう、懸命に努力致しますわ」
セレンティアが不慣れなお辞儀をすると、公爵家で働く人々は一斉に立ち上がって拍手の歓待を行う。
料理長や家令、侍女長達の自己紹介が行われ、一刻程の談笑が行われた後にようやく客間に通された。
すぐに熱い紅茶が運ばれ、一介の令嬢が過ごすには広すぎる客間に戸惑っていると、薄茶色の髪を結えたレイン侍女長が優しく肩に手を置いた。
「明日には、アースティ侯爵。いえ、テオルース様もお戻りになられます。夕食がお一人ではお寂しいかもしれませんが、社交シーズンが明ける頃には奥様達もお戻りになられるので賑やかになりますよ」
「ありがとうございます、レイン侍女長。私、皆さま方の期待に添われるように勤めて参ります。あの、私とアースティ侯爵との婚約予定が決まったのは、レイチェル夫人の強い薦めがあったとお聞きしたのですが……。失礼ながら、夫人とはお会いした記憶がなかったものですから」
「お父上のリグレット侯爵は、第一王女であるカスティア王女殿下の派閥に居ります。お二人が古くからの交流が有った事と、セレンティア様が王女殿下の強い信奉者という話をお気に召したとの事ですよ。
大丈夫です。奥様は思慮深い方ですから、セレンティア様を御子息の婚約者として相応しいと判断された上で、当家に招いたのです。どうぞ、その身を誇って下さいませ」
赤茶色の瞳のカスティア王女は、聖女として貴族から崇められる存在。セレンティアも憧れを抱いた相手であり、その事が評価されたのならばこれ以上の喜びはなかった。
「さて、制服の採寸の都合も有りますし、一度、夕食前にお隣のバスルームにご案内致します。当家のお針子が仕立て上げますので、コルセット等も新たにご用意します。採寸は細かく行いますが、正確さを確認するだけですのでご安心ください」
茶器を手にレイン侍女長はお辞儀をして退室をし、代わりにドレスを脱がせるための侍女と採寸係が姿を現した。
人を多く雇える環境では無かった関係から、服を誰かに脱がされた経験のないセレンティアは顔を赤く染めながら、やや小柄な侍女にコルセットの紐を外されていく。
制服だけではなくアクセサリーや指輪のサイズまで調べる必要が有るとの事で、手首の長さや指先の大きさ、靴のサイズや足首の太さ。果てに、裸になったら乳房の大きさや舌の長さまで計測され、セレンティアは自分がお人形にでもなったかのような気分になった。
何故、舌の長さや耳の大きさ。首のサイズまで測定していったのか疑問には思ったが、支度を手伝う侍女の話術があまりにも長けており、思い悩む暇もないままバスルームへと担ぎ込まれた。三人がかりで身を洗われ、熱い湯を湛えたバスタブに身を投じて暫くすれば、細い管のような物を洗髪係の少女が持参し、セレンティアの秘芯の長さや覆われた産毛の感触や範囲まで記録していく。
さすがにこの採寸には疑問を感じたものの、すぐに火照った身体を丹念にオイルマッサージされ、その心地よさに絆される形で流されてしまった。
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