不法侵入ですがどうぞよろしくお願いします!~警察呼んでいいですか?~

今野ひなた

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③篠原海の話

5話

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「まつり、保育園行くよ」
「う、」
娘のまつりと、その母である桜が運転中に事故に合い、運転席に居た桜が死んでから数か月。後部座席に居たまつりは、年相応に話せなくなっていた。母親が目の前で死んだショックによるストレスからではないかと医者からは言われているが、真相は医学に詳しくない篠原にはわからない。
 ただ、桜はもういないんだと、これからは娘と二人で暮らさなければいけないのだと、そう決意したのは覚えている。
 恥ずかしい話、篠原は今まで育児に参加してこなかった。男の仕事は食うに困らないお金を稼いでくること。他に負けないように会社に尽くしてきたし、同世代の人間にも負けないポストを若年ながら持っていた。それでいいと、思っていた。これが正解だと、日々の暮らしに満足していた。
 それが崩れて、娘の送迎や面倒を見ることになって。会社に理解があったのが救いだった。残業と接待は免除され、余程の事がない限りは定時帰りが許されている。それでも。
(……疲れるもんは疲れる……)
 覚悟はしていたが、育児には休む暇がない。育児と仕事を両立していた桜がどれだけ凄かったのか身に染みて体感する。桜はヒステリーな所はあったが、何でもできたから、もしかしたら苦では無かったのかもしれないけれど、一般人の篠原にとってはただただ疲れるばかりだ。
部屋の鍵を閉め、マンションのエレベーターでエントランスまで降ると、引っ越し業者のトラックが目に入った。誰か入居するのだろうか。
「ぱぱ」
「ああ、ごめん。早く保育園行かないとな」
 例の車が破損してから、新しい車は購入する気にならなかった。まつりが新しい車を見るなり泣き出したからだ。きっと例の件がトラウマとなっているのだろう。新しい車の購入は見送り、今は自転車送迎だ。駅の駐輪場に自転車を預けて、会社は電車を。通勤は今までと変わらない。
 まつりを後ろに乗せ、電動自転車で坂を上る。まつりの通う幼稚園は自転車で十五分くらいの所にある。駅までの途中にあるのが幸いだった。毎朝お弁当を買って送迎して仕事。これだけでもパンクしそうなのに、会社とは逆の方向に保育園があったとしたら、余計に疲れてしまう。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、お預かりしますね」
保母さんにまつりを預けて会社に向かう。
今日も休む暇がない憂鬱な一日が始まると思うと、なんだか朝からうんざりした気持ちになった。
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