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冬、相棒。

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「ごめんなさい」

 呼び出された喫茶店で開口一番謝られた。

「いや別に謝ることなんて、むしろこちらが息子さんを傷つけて謝るべきなので……」

「叶から聞いて。私は、あなたに全ての責任を押し付けたままここにいます。あの子に嫌われたくなくて、わた、わたしが、企画したことを言えてな……」

 涙声で言う桃華にハンカチを差し出す。

「ありがとうございます」と彼女はハンカチを受け取ったが、それを握りしめただけで涙は拭いてくれなかった。

「いいんですよ。親のこと嫌いになるってしんどいです。だったら知らない急に湧いて出たおっさん恨んだ方がこの先楽でしょ。知らない方が楽なこともあります」

「でも、それは染衣さんが」

「別にオレは叶くんのなんでもありませんし」

 ただの知り合い。ちょっと昔少しだけ関わったキャラクターが好きだと言われて絆されただけ。それ以外の感情はない。

「……叶が部屋から出てこないんです。あれから」

「え?」

「もう何もしたくない、何も知りたくないって。食事も残してばかりで……」

 原因はどう考えても染衣だろう。染衣が裏切ったから嫌になってしまったと言うところだろうか。

「わ、わたしが、あんなゲーム作らなければ、企画なんてしなければ」

「……そうですね」

「ーーっ!」

 肯定されたのがよほどこたえたのか桃華が両手で顔を覆う。そうだ、あんなゲーム作らなければ、叶は傷つくこともなかった。

「でも、アレがきっかけで変われた人もいます。救われた人もいます。見てください」

 染衣はスマートフォンでダウンロードサイトのURLを開く。「サイドノシュート」の評価は星四で感想は二件。

『アンプティサッカーのプレイヤー当事者です。取り上げてくださったことで競技が少しでも認知されたのが嬉しかったです』

『新しい夢を追う覚悟ができました。ありがとうございました』

 そして。

「同人ゲームを馬鹿にしてたのに、それを作ったのがきっかけで喧嘩別れした友人に再会して覚悟が決まりました。まだゲームを作るのを辞めたくないって。……ね? 少なくても三人はあのゲームで変わった。叶くんだってこれから数作ればプレイして、何かが琴線に触れるかもしれない。だからオレは作りますよ」

 叶くんの笑顔が見たいから。直接見れないのはもうわかってるんですけどね。そう続けると桃華は泣きながら言った。

「……そんなのわたしだってそうよ」

「え?」

「楽しかった! また絵が描けて本当に楽しかったの! ママ楽しそう、なんて叶に言われてやっぱりずっと絵を描きたいってバカみたいに思って、趣味でもいい、続けたいって……」

 思っちゃったの、と消えかかった声で彼女は続ける。

「じゃあ続けましょうよ」

 桃華はその声でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。

「オレの相棒になってください。また作りましょう。叶くんが救われるまで、ゲームを作り続けましょう。きっと、本気で何かに打ち込んでるお母さんを見て何も思わないほどあの子は馬鹿じゃありません。いつかは、届くかもしれない。……まあオレは名義変えないといけませんけどね」

 あはは、と笑いその場を茶化してみると桃華はこくんと頷いた。

「……やる」

 覚悟を決めた桃華の表情からはもう涙はこぼれていなかった。

「あの子に届くゲームを作りましょう」

「ええ。やりましょう」

 目標は、叶に届くゲームを作ること。
 
 今日、はじめてサークルの方向性が決まった。
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