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秋、グラウンド。
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それから二週間が経ったが、別に姫路家に通うなんてことはなかった。
単純にあの後楓が呼んだタクシーで帰ったのだが、連絡先を聞き忘れたし、住所も覚えていない。
会う約束をしたのに会えないと言う馬鹿みたいな結果になった。
あれからお見合いも続いたが、気に入られたことはない。その度に母親に置き去りにされるが、ホテルのラウンジから家までの道は覚えたし、たまに周辺を探検するくらい余裕ができた。
今日はお見合い五件目。
そろそろホテルの従業員に顔を覚えられるかもと言う不安が出てきた。帰り道にマカロンを買って、食べ歩きながら駅までの銀杏並木を歩く。
東京の銀杏並木はたまに銀杏が落ちていて地獄だったが、こちらのーー少なくともここはそんなことはないようだ。
「ん?」
学校が見える。敷地内を走り回っているおそらく中学校だろう。それを囲っているフェンスから校庭を眺めていたのは見知った顔だった。
「……叶くん?」
車椅子に乗っていたから本人かどうか不安だったが気が付いたら声をかけていた。振り向いた彼は染衣を見て目を見開いた。
「おじさん」
大きなタイヤを押してこちらに来ようとする彼を「オレがそっち行くから!」と言って駆け寄る。「全然来ないから死んだかと思った」なんて言われたから「そんなこと言うんじゃありません」と言ってやった。
「なんで家来なかったの? ゲームして待ってたのに」
「きみの家も連絡先も聞くの忘れてた」
「ばかじゃん」
何も言えないので黙る。そのかわり話題を変えた。
「何見てたの?」
「サッカー」
フェンス中のグラウンドでは男子学生たちが声を上げながらサッカーボールを蹴っている。
それを叶はどこか遠い目で眺めていた。
「ここ、事故前の第一志望。サッカーの強豪で、ここに入る為に東京から京都に引っ越したんだけど」
「ああ……」
もう行く気はないと言うことか。
「たまにここに足が来ちゃうんだよね。足ないけど」
わはは、と叶は笑ってため息をついた。
「なんでボクだったのかなあ」
染衣はやっぱり何も言えなかった。
「サッカー、やりたかったなあ……」
彼の表情を見ると、ボロボロと涙が溢れていたのだった。泣くのを堪えるように、笑いながら、それでもやっぱり止められない涙をこぼしていたのだった。
「……叶くん」
「なんでボクだったの……」
小さい背中がさらに小さく見えた。こんなの自傷行為だ。見に来なければいいのに、それでもやめられない。わからなくはない。染衣だって、ホワイトスピカの求人情報を未だに見ている。入社なんかできないのに。
「……元気、出してよ」
そんな薄っぺらい、残酷な言葉しかかけられなかった。
単純にあの後楓が呼んだタクシーで帰ったのだが、連絡先を聞き忘れたし、住所も覚えていない。
会う約束をしたのに会えないと言う馬鹿みたいな結果になった。
あれからお見合いも続いたが、気に入られたことはない。その度に母親に置き去りにされるが、ホテルのラウンジから家までの道は覚えたし、たまに周辺を探検するくらい余裕ができた。
今日はお見合い五件目。
そろそろホテルの従業員に顔を覚えられるかもと言う不安が出てきた。帰り道にマカロンを買って、食べ歩きながら駅までの銀杏並木を歩く。
東京の銀杏並木はたまに銀杏が落ちていて地獄だったが、こちらのーー少なくともここはそんなことはないようだ。
「ん?」
学校が見える。敷地内を走り回っているおそらく中学校だろう。それを囲っているフェンスから校庭を眺めていたのは見知った顔だった。
「……叶くん?」
車椅子に乗っていたから本人かどうか不安だったが気が付いたら声をかけていた。振り向いた彼は染衣を見て目を見開いた。
「おじさん」
大きなタイヤを押してこちらに来ようとする彼を「オレがそっち行くから!」と言って駆け寄る。「全然来ないから死んだかと思った」なんて言われたから「そんなこと言うんじゃありません」と言ってやった。
「なんで家来なかったの? ゲームして待ってたのに」
「きみの家も連絡先も聞くの忘れてた」
「ばかじゃん」
何も言えないので黙る。そのかわり話題を変えた。
「何見てたの?」
「サッカー」
フェンス中のグラウンドでは男子学生たちが声を上げながらサッカーボールを蹴っている。
それを叶はどこか遠い目で眺めていた。
「ここ、事故前の第一志望。サッカーの強豪で、ここに入る為に東京から京都に引っ越したんだけど」
「ああ……」
もう行く気はないと言うことか。
「たまにここに足が来ちゃうんだよね。足ないけど」
わはは、と叶は笑ってため息をついた。
「なんでボクだったのかなあ」
染衣はやっぱり何も言えなかった。
「サッカー、やりたかったなあ……」
彼の表情を見ると、ボロボロと涙が溢れていたのだった。泣くのを堪えるように、笑いながら、それでもやっぱり止められない涙をこぼしていたのだった。
「……叶くん」
「なんでボクだったの……」
小さい背中がさらに小さく見えた。こんなの自傷行為だ。見に来なければいいのに、それでもやめられない。わからなくはない。染衣だって、ホワイトスピカの求人情報を未だに見ている。入社なんかできないのに。
「……元気、出してよ」
そんな薄っぺらい、残酷な言葉しかかけられなかった。
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