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17話
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「ん……」
目がさめるとまず一番に白い天井が出迎えてくれた。それから周りを囲む白いカーテンと、ふかふかのベッド。見慣れたそれらは自分が保健室にいるのだとなんとなく察することができた。
(あれから寝てたのか……)
今は何時くらいだろうと腕時計を確認すると下校時間を大幅に過ぎている。
「起きたか?」
カーテンを大きく開けて叶が八雲を見下ろした。
表情は曇っており心配させてしまっていたことが伺える。
「起きた」
「体調は?」
「まだ薬抜けてない感じするけど元気」
「そうか」
叶はそう答えるとベッドの側の椅子に腰をかけた。
八雲は照れ臭さから若干迷いながらも礼を言うために口を開く。
「あのさ」
「ん?」
「さっきは……、助けてくれてありがとう。カッコよかったよ」
「子供を守るのは大人の務めだからな」
「俺じゃなくても同じだった?」
叶は目線を一巡させて迷って、それでも正直でいるために答えてくれた。
「あぁ。でも……、こんな事を言ったら教師として失格だが、お前が『あぁ』されてかなり焦った。生徒相手じゃなきゃ掴みかかってる所だった……」
「……愛されてるなあ」
それがずっと自分に向いていればいいのに。一度裏切られた経験は心の奥底にくすぶり続ける。もし、仮に、今応えてもその後は?一生一緒にいれる保証なんてない。それでも叶は八雲の手を取って必死に言うのだ。
「愛してるんだ。番になりたかったくらい」
「それでも、俺は番にはなりたくない」
身体で繋がる関係ならそれこそあの時のセフレと同じだ。運命の番なんかじゃない自分達はいつかくる終わりを一生恐れなければいけない。
八雲が欲しいのは番としての証明ではなく、きっと、ただの恋だった。
「セフレなんかやだ。ずっと一緒がいい。兄さんが俺に飽きて、愛情がなくなるのもやだ。俺は番としての契約なんかいらない。ただ、叶兄さんと恋がしたい」
「……お前は馬鹿か」
叶は握った手を強く握る。
「オレが身体目的で番になる事を了承したと思ってんのか?何度も言ってやる。オレはお前のことが好きなんだよ。ずっと昔から」
「昔っていつから?」
「お前が赤ん坊の時からだよ」
「なにそれ」
笑いながら八雲は思い返す。
赤ん坊の時なんか覚えていない。それでも、きっと自分も一目見た時から、叶のことが好きだったような気がした。
八雲、と優しい声で名前を呼ばれる。
「オレと、本当の意味での番になって欲しい」
蕩けるような甘い言葉。それに八雲は小さく笑って返した。
「やだよ」
「なんでだよ。今のは了承する流れだっただろ?!」
「裏切られた少年の傷ついた心、わかってないでしょ?口約束や契約は信用しないタチでね。だから俺は恋がしたいの。運命みたいな、一生離れないような恋人になりたい」
取られた手の薬指に触れて、何も付いていない左手に指を絡める。
「だから、恋人ならいいよ。ここに印がつくまでずっと俺は一緒にいてあげる」
だからセフレみたいに捨てないでね、そう言うと叶は八雲を思い切り抱きしめた。
「わ……!」
「捨てるわけないっ!運命じゃなくても運命にしてみせる!不安になんて絶対させない!」
「声が大きいよ……」
叶の声は少しだけ泣いていたような気がする。それだけ今まで想ってくれていたのかな、と胸の奥から込み上げてくる気持ち。
これがきっと、恋なんだろう。
目がさめるとまず一番に白い天井が出迎えてくれた。それから周りを囲む白いカーテンと、ふかふかのベッド。見慣れたそれらは自分が保健室にいるのだとなんとなく察することができた。
(あれから寝てたのか……)
今は何時くらいだろうと腕時計を確認すると下校時間を大幅に過ぎている。
「起きたか?」
カーテンを大きく開けて叶が八雲を見下ろした。
表情は曇っており心配させてしまっていたことが伺える。
「起きた」
「体調は?」
「まだ薬抜けてない感じするけど元気」
「そうか」
叶はそう答えるとベッドの側の椅子に腰をかけた。
八雲は照れ臭さから若干迷いながらも礼を言うために口を開く。
「あのさ」
「ん?」
「さっきは……、助けてくれてありがとう。カッコよかったよ」
「子供を守るのは大人の務めだからな」
「俺じゃなくても同じだった?」
叶は目線を一巡させて迷って、それでも正直でいるために答えてくれた。
「あぁ。でも……、こんな事を言ったら教師として失格だが、お前が『あぁ』されてかなり焦った。生徒相手じゃなきゃ掴みかかってる所だった……」
「……愛されてるなあ」
それがずっと自分に向いていればいいのに。一度裏切られた経験は心の奥底にくすぶり続ける。もし、仮に、今応えてもその後は?一生一緒にいれる保証なんてない。それでも叶は八雲の手を取って必死に言うのだ。
「愛してるんだ。番になりたかったくらい」
「それでも、俺は番にはなりたくない」
身体で繋がる関係ならそれこそあの時のセフレと同じだ。運命の番なんかじゃない自分達はいつかくる終わりを一生恐れなければいけない。
八雲が欲しいのは番としての証明ではなく、きっと、ただの恋だった。
「セフレなんかやだ。ずっと一緒がいい。兄さんが俺に飽きて、愛情がなくなるのもやだ。俺は番としての契約なんかいらない。ただ、叶兄さんと恋がしたい」
「……お前は馬鹿か」
叶は握った手を強く握る。
「オレが身体目的で番になる事を了承したと思ってんのか?何度も言ってやる。オレはお前のことが好きなんだよ。ずっと昔から」
「昔っていつから?」
「お前が赤ん坊の時からだよ」
「なにそれ」
笑いながら八雲は思い返す。
赤ん坊の時なんか覚えていない。それでも、きっと自分も一目見た時から、叶のことが好きだったような気がした。
八雲、と優しい声で名前を呼ばれる。
「オレと、本当の意味での番になって欲しい」
蕩けるような甘い言葉。それに八雲は小さく笑って返した。
「やだよ」
「なんでだよ。今のは了承する流れだっただろ?!」
「裏切られた少年の傷ついた心、わかってないでしょ?口約束や契約は信用しないタチでね。だから俺は恋がしたいの。運命みたいな、一生離れないような恋人になりたい」
取られた手の薬指に触れて、何も付いていない左手に指を絡める。
「だから、恋人ならいいよ。ここに印がつくまでずっと俺は一緒にいてあげる」
だからセフレみたいに捨てないでね、そう言うと叶は八雲を思い切り抱きしめた。
「わ……!」
「捨てるわけないっ!運命じゃなくても運命にしてみせる!不安になんて絶対させない!」
「声が大きいよ……」
叶の声は少しだけ泣いていたような気がする。それだけ今まで想ってくれていたのかな、と胸の奥から込み上げてくる気持ち。
これがきっと、恋なんだろう。
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