番になんてなりませんっ！

１５話

あれから叶とは話していない。

叶からは「しばらくは友人の家に泊まる」とメッセージが来、八雲は保健室に行かなくなった。

冬、目が出るわけでもない花に水をやりながら八雲はため息をつく。

自分たちはもうこれで終わりなのだろうか。いや、叶は親から自分を預かっている身だ。しばらくもすれば家に戻ってくるだろう。だけど、心はこのままでは離れ離れのままだ。

(叶兄さん……)

失言だった。叶がαらしくないのを気にしていたのは知っていたのに。

叶は西野家の次男、長男に続くαだった。

だが、αに似付かない優しすぎる性質、能力、そしてΩのフェロモンにすら鈍すぎる事から実父からは不用品の烙印を押され「八雲のお世話係」として本家に引き取られていた時期がある。
八雲が事情を知ったのは叶が就職して本家を出て行ったすぐ後だった。

「叶兄ちゃんっ！」

東京への叶の車にへばりつき嫌だとぐずった時、叶は言ってくれた。

「必ず迎えに来るよ」

叶は約束を守ってくれたというのに、自分は。

自分の不甲斐なさに歯噛みする。
守ってくれた御影の為に協力した。
憧れをくれた晴人の為に実質的な番を作った。
なのに叶に対しては何も返せていない。
一体自分は叶の為に何が出来るんだろう。

何なら、まだ間に合うんだろう。

そう考えて気を散漫させていたからか、八雲は背後からの気配に気がつかず口を塞がれてしまう。

意識はそれからすぐに消えた。