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13話
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「お前、最近校舎裏で水やりとか掃除してるって本当か?」
保健室で盆菓子を摘んでいると、叶が心配そうな顔でこちらを向いた。
「本当。最初はつまんねえって思ってたけど」
花壇に水やりを始めて二週間経った。待てども待てども襲われる気配がなく暇なので最近は枯れ葉の掃除まで始めた次第だ。我ながらえらい。
「何だ晴屋の為に生徒の鑑でも目指すってか?でも気をつけろよ。あそこは人通りも少ないしあまり近づかない方がい」
「何?そこらへんの男に負けるとでも?」
「そうじゃない。……ただでさえ最近危険な事が多いんだ、お前までそうなったら……」
「それは身内としての意見?それとも番としての?」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。
「後者だったら勘違いしないでよ。俺たち番じゃない。他に選択肢がなかっただけで、俺が普通のΩなら誰でも良かった」
そうだ、誰だって良かったはずだ。それこそ、考えたくもないが御影や、利害が一致するなら誰でも。
「叶兄さんじゃなくても良かったんだよ」
「……っ、」
叶が小さく息を飲んだ。
それと同時に、自分の言葉が腐った果実のように潰れた音を立てた気がした。叶じゃなくても良かった。自分で言って自分で傷つくなんてどういう神経をしてるんだろう。
一番傷ついてるのは誰でもない叶のはずなのに。
「……そうだな」
絞り出したようにそう答えた叶は、それでも、と言葉を続ける。
「オレはお前の番になりたいよ」
「~~ッ!俺だって!」
かぁ、っと頭に血が昇るような感覚がした。
「だったらなんで裏切ったの?!なんで他の男なんて抱いたの?!俺が初めてが良かったって思ったのは俺だけだった?!俺だって番になりたかったよ!でもそうさせてくれないのは兄さんの方だろ?!兄さんの方が誰でも良かったんじゃないか!」
言葉が止まらない。これ以上行ったら傷つけるだけじゃ済まないのに。そのくらいわかっているのに。
そうして八雲は叶に刺さる一言を言った。
「兄さんがαじゃなければ良かった!そうしたら兄さんはただの従兄弟で終わったのに!」
それは今までαであることを否定されてきた叶を最も傷つける言葉。悪気には無かったにしろその表情で八雲は自分がどれだけのことを言ってしまったのかを理解した。
「ーーッ、」
やってしまった、言葉にならない後悔が八雲の頭をよぎる。出かかった謝罪の言葉を噛み切ると八雲は黙って、いや、何も言い訳できずに保健室を出た。
自分と叶を隔てる距離が心の距離のような気がした。
保健室で盆菓子を摘んでいると、叶が心配そうな顔でこちらを向いた。
「本当。最初はつまんねえって思ってたけど」
花壇に水やりを始めて二週間経った。待てども待てども襲われる気配がなく暇なので最近は枯れ葉の掃除まで始めた次第だ。我ながらえらい。
「何だ晴屋の為に生徒の鑑でも目指すってか?でも気をつけろよ。あそこは人通りも少ないしあまり近づかない方がい」
「何?そこらへんの男に負けるとでも?」
「そうじゃない。……ただでさえ最近危険な事が多いんだ、お前までそうなったら……」
「それは身内としての意見?それとも番としての?」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。
「後者だったら勘違いしないでよ。俺たち番じゃない。他に選択肢がなかっただけで、俺が普通のΩなら誰でも良かった」
そうだ、誰だって良かったはずだ。それこそ、考えたくもないが御影や、利害が一致するなら誰でも。
「叶兄さんじゃなくても良かったんだよ」
「……っ、」
叶が小さく息を飲んだ。
それと同時に、自分の言葉が腐った果実のように潰れた音を立てた気がした。叶じゃなくても良かった。自分で言って自分で傷つくなんてどういう神経をしてるんだろう。
一番傷ついてるのは誰でもない叶のはずなのに。
「……そうだな」
絞り出したようにそう答えた叶は、それでも、と言葉を続ける。
「オレはお前の番になりたいよ」
「~~ッ!俺だって!」
かぁ、っと頭に血が昇るような感覚がした。
「だったらなんで裏切ったの?!なんで他の男なんて抱いたの?!俺が初めてが良かったって思ったのは俺だけだった?!俺だって番になりたかったよ!でもそうさせてくれないのは兄さんの方だろ?!兄さんの方が誰でも良かったんじゃないか!」
言葉が止まらない。これ以上行ったら傷つけるだけじゃ済まないのに。そのくらいわかっているのに。
そうして八雲は叶に刺さる一言を言った。
「兄さんがαじゃなければ良かった!そうしたら兄さんはただの従兄弟で終わったのに!」
それは今までαであることを否定されてきた叶を最も傷つける言葉。悪気には無かったにしろその表情で八雲は自分がどれだけのことを言ってしまったのかを理解した。
「ーーッ、」
やってしまった、言葉にならない後悔が八雲の頭をよぎる。出かかった謝罪の言葉を噛み切ると八雲は黙って、いや、何も言い訳できずに保健室を出た。
自分と叶を隔てる距離が心の距離のような気がした。
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