番になんてなりませんっ!

今野ひなた

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6話

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御影曰く準備までには一、二週間ほどかかるらしい。
そこで新たな犠牲者が出なければ良いのだが。八雲は頭の端でそう思いながら今日も生徒会室のドアを叩く。
自分に当てられた席に座ると、今日も晴人の顔が良く見えた。後ろに少し寝癖がついているのが可愛らしい。

(あぁ麗しの晴人先輩……、どうにかまともに話出来ないものか……)

好きな人の前で緊張してしまいがちらしい八雲は、今日までなんだかんだで晴人とまともに会話した事がない。
それは会長との行動がメインだったこともあるし、晴人がどうやら自分の事を苦手に思っているらしいことから話しかけて良いものかずっと悩み続けていたこともある。

今日こそは!と八雲は意気込むが、晴人は黙々と仕事をするばかりでこちらに目線すらくれない。
やはり嫌われているのでは?顔には出さず悲しみに明け暮れていると、向かいの席から御影の怒号が響いた。

「『黒板消しの新規購入を検討してください』……採用、『朝礼を短くしてください』……校長に言え、不採用。『転校生のΩと付き合ってるって本当ですか?』……晴人ォ!なんでお前これ弾かなかった!?クソ中のクソ!便所行きだ!」

どうやら先日の目安箱の確認らしい。
御影との関係を疑われたイタズラ投書を弾かなかったと言うことはやはり晴人は自分が嫌いなのだろう。 

「一応会長に向けての質問なので残しておいた方が良いかと思って。下校ギリギリで深く考える暇もありませんでしたし?」
「俺への当てつけなのはよーくわかった。八雲もなんか言っていいんだからな!」
「あはは……」

(でも!俺は先輩と仲良くなり、あわよくば付き合いたいんです!)

言葉では言えない。その代わりにテレパシーを送るように強く念じる。それが神に届いたのか、晴人は「……あ」と呟くと、席から立ち上がって生徒会専用らしい財布を取り出した。

「購買に行ってくる」
「え?何、もう菓子ないの」
「無いから買いに行くんだろうが」 

(来たッ!ありがとう神!)

「あ、じゃあボクも一緒に行っていいですか?」

おずおずと手を挙げて立候補する。
タイミングはここだ。ここを逃せば確実に晴人とは疎遠のままな気がする。 

「僕と一緒でいいのか?」
「?はい!晴人先輩と一緒がいいです!」

むしろ先輩とじゃなきゃ嫌です!内心でそう叫んで逃げられないように片脇をガッと掴む。

「さっ、先輩行きましょ」
「えっ、ちょ、」

上がりきったテンションで生徒会室を出て、しばらく引きずってハッと気づく。はしゃぎすぎてしまった。慌てて手を離して晴人を怖がらせないように話しかけた。

「あ、ごめんなさい、びっくりしましたよね。急に」
「いや……いいのかなって、それだけ」
「いいって、何を?」
「さっきの、嫌味っぽかったろ?いや、嫌味のつもりでやったんだけど……」

(…………かわいいーっ!)

可愛すぎて一瞬、意識が遠のいてしまった。

(えっ?嘘すごいかわいい!ヒール気取った癖に良心に負けちゃったんですね可愛すぎる!なんかすごい小物っぽい!)

「先輩、結構小物っぽいですね!あれで嫌がらせのつもりですか?」
「な……っ」 

おっと、つい本音が。
だが、晴人は気にしているようなのでせっかくだからネタバラシでもしてしまおう。

「Ωって生きてるだけであんなん屁でも無いくらいの嫌がらせされるんですよ」

少しお話ししましょうか。八雲は屋上へ続く階段を見つけると、腰を下ろすように指差してそこに腰かけた。

「健康診断で引っかかったのは小学4年くらいの時です。早い子は思春期とかになる時ですね。ボクはまぁ、それほど優秀ではなくて、周りに友達が多いだけが取り柄でしたから、当然βだと思っていたんです」

Ωがまだ叶と結婚できる「性」でしかなかった頃は過ぎ、小学生になって八雲は現実を知った。
自分はαではない。それで、圧倒的劣等者なΩにもなりたくもない。
好きな人と一緒に居られるだけではリスクに釣り合わないとその時まで考えていた。だから自分は普通にβが良いと。 
αが感知できる時点でそんなはずなかったのに。

「そしたらΩだったんですよ。勿論、授業でやりましたからΩの怖さはわかってました。でもボク頭が弱かったから、普通に聞かれて答えちゃったんですよね。そしたら次の日から周りがガラリと変わって。あぁボクの今までの人生ってこんな薄っぺらかったんだって思いました」

友達は一気に減った。αからは色目で見られ、また八雲自身も元々苦手意識を持っていたαの生徒には近づかなくなった。βとは普通の関係を築けるものの自然と友達関係はΩが中心になっていった。

「ここだけの話、転校してきたのも前の学校、あっ地元なんですけど。そこでαにレイプされかけて。返り討ちにしましたが、流石に親が心配してここに」

一番は叶が在籍していていざとなった時守ってくれるから、だと思うが本題はおそらく別にある。この学校にはΩも少なくはない。それはここが名門校でαが多く玉の輿を狙えるからなのと、Ωが多いが故にトラブル対策に力を入れている事が大きい。両親もそれを視野に入れてここを選んだのだろう。

「だからボクは大丈夫なんです。……それより、先輩が心配で」
「僕が?」
「先輩と会長って付き合ってるんですよね?いきなり生徒会にΩが入って来て気に病んでないかどうか……」
「待て待て待て。その情報のソースは?!」
「会長ってスキンシップ激しいじゃないですか。で、転校初日に触れられた時、コイツはαだって嫌な感じがして一本背負いしちゃったんですよ。そしたら会長が『俺はアイツと付き合ってるから大丈夫』って。じゃなきゃαとなんか一緒にいません。会長に気にしていただいてるのは会長の周りだと手を出されにくいからです」
「そ、そうなんだ……」
「だから心配しないでくださいね。勘違いで破局されたなんてなったらボク眠れなくなっちゃいますから」

八雲は晴人の事が好きだ。
同時に御影の事も、いけ好かないとは思うが気の置けない人だと思っている。
その二人に幸せになってほしいというのは至極当然のことだろう。
そうして話は終わったかのように立ち上がると、八雲は座ったままの晴人に手を伸ばす。晴人はそれを素直に手にとって立ち上がった。

(あぁ、よかった)

自分の手を取ってくれた。
八雲はそれだけで天にも昇る心地だった。

「……八雲くんは可愛いのにカッコいいね」
「えっ?!」

(晴人先輩……!それってもしかして俺にワンチャンあるってことですか……?!)

勿論ないのはわかっている。それでも自然と赤くなる頬に晴人は微笑んで、その表情に八雲はまたクラクラしてしまったのであった。
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