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4話
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小さな頃から八雲は、αが苦手だった。
αの父とΩの母から生まれた八雲は父には全く懐かなかった。触られるのも嫌だと言うように近づけば泣き出し、触るものなら四肢を動かして抵抗した。
αを直感で感知できる能力、とでもいうのだろうか。
泣くほど怖がっていた人間が実はαだったという話は、東雲八雲の人生では箸が転がるより多い事だった。今だって八雲はαが苦手だ。触れられれば鳥肌が立つし、涙が出るほど気持ち悪い。
叶以外は。
叶だけは、昔から例外だった。
親も驚くほど八雲は叶には懐き、また、叶も八雲には良くしてくれていたと思う。それこそ、拙いプロポーズを受けてくれるくらいには。
(ま、俺の勘違いだったわけだけど)
いつまで経っても割り切れないのは、叶だけが自分の安心できる人で、本当に叶に恋をしていていたからだと思う。だから今も許せないしグチグチと昔のことを蒸し返す。
(新しい恋も終わっちゃったし俺って本当アンラッキー……)
「なんだ、浮かない顔してるな八雲」
「アンタのことだよ」
湯船に入りながら苦言を漏らす。流石に男二人が一つのバスタブに入るのはいくら八雲が小柄だからと言っても絵面的にも面積的にもキツイ。
それがどうしてこうなったかは単に叶の我儘だ。
「八雲が一緒に風呂入んなきゃ入らない」
「……」
八雲は潔癖で、風呂に入らない状態でベッドに入る事が許せない。
本来なら寝室は別なのだが、まだ入居して一週間。必要なベッドすら用意する暇無く入居して来たせいで寝る場所すら用意できていない。
だったらセミダブルのベッドがあるんだから一緒に寝ればいいじゃないか、と叶の提案でこんな滑稽なことになっている。決して八雲の意思では無いし、ベッドは今週末にでも買いに行くつもりだ。
「こんな風に風呂入ってると昔のこと思い出すなあ」
「幼稚園の頃?」
その頃はベビーシッターよろしく本家である東雲の家に叶がよく呼ばれていた。理由は酷な話だが、八雲の世話が両親の手に負えなくなってきたからだ。
仲の良い両親は常にいちゃついていて、αの匂いが母親につくのも嫌だったのか、小さな八雲は母親も避けるようになっていたのだ。
「そう、お前が誰にも懐かなくてオレがお前の家に召集されてた頃。あの頃のお前は本当ちっちゃくて可愛くて……宝物みたいだったんだけどなあ……」
「今がそうじゃないみたいな言い方やめろ」
「いや、今も可愛いぜ?でもこう……デレが足りない……」
「あってたまるか」
「おっ、何もう上がるの」
湯船から上がると、リラックスしたようにだらける叶から声がかかった。
「付き合ってらんない。俺もう寝るから」
「あらら」
バスタオル片手に浴室を出る。体を拭いて髪の毛を乾かしていると、首元に小さな鬱血痕がついているのに気がついた。
(アイツ……!)
そういえばバスタブの中で抱きかかえられていた時、何か首に痛みがあった気がする。
八雲は大きく音を立てて浴室を開けると寝間着が濡れるのも構わず叶に掴みかかった。
「叶兄さん!なんかやってると思ったらコレなんだよ!」
「虫除け」
「心配しなくても来ねーわ!」
(本当何考えてんのかわかんねえ……)
はあ、とため息をついて八雲は心中で涙を流した。
叶と居ると疲れる。だけど、多分叶と二人の時が一番生き生きしているんだろうなというのはなんとなくわかっていて、それがますます悩みを深くするのであった。
αの父とΩの母から生まれた八雲は父には全く懐かなかった。触られるのも嫌だと言うように近づけば泣き出し、触るものなら四肢を動かして抵抗した。
αを直感で感知できる能力、とでもいうのだろうか。
泣くほど怖がっていた人間が実はαだったという話は、東雲八雲の人生では箸が転がるより多い事だった。今だって八雲はαが苦手だ。触れられれば鳥肌が立つし、涙が出るほど気持ち悪い。
叶以外は。
叶だけは、昔から例外だった。
親も驚くほど八雲は叶には懐き、また、叶も八雲には良くしてくれていたと思う。それこそ、拙いプロポーズを受けてくれるくらいには。
(ま、俺の勘違いだったわけだけど)
いつまで経っても割り切れないのは、叶だけが自分の安心できる人で、本当に叶に恋をしていていたからだと思う。だから今も許せないしグチグチと昔のことを蒸し返す。
(新しい恋も終わっちゃったし俺って本当アンラッキー……)
「なんだ、浮かない顔してるな八雲」
「アンタのことだよ」
湯船に入りながら苦言を漏らす。流石に男二人が一つのバスタブに入るのはいくら八雲が小柄だからと言っても絵面的にも面積的にもキツイ。
それがどうしてこうなったかは単に叶の我儘だ。
「八雲が一緒に風呂入んなきゃ入らない」
「……」
八雲は潔癖で、風呂に入らない状態でベッドに入る事が許せない。
本来なら寝室は別なのだが、まだ入居して一週間。必要なベッドすら用意する暇無く入居して来たせいで寝る場所すら用意できていない。
だったらセミダブルのベッドがあるんだから一緒に寝ればいいじゃないか、と叶の提案でこんな滑稽なことになっている。決して八雲の意思では無いし、ベッドは今週末にでも買いに行くつもりだ。
「こんな風に風呂入ってると昔のこと思い出すなあ」
「幼稚園の頃?」
その頃はベビーシッターよろしく本家である東雲の家に叶がよく呼ばれていた。理由は酷な話だが、八雲の世話が両親の手に負えなくなってきたからだ。
仲の良い両親は常にいちゃついていて、αの匂いが母親につくのも嫌だったのか、小さな八雲は母親も避けるようになっていたのだ。
「そう、お前が誰にも懐かなくてオレがお前の家に召集されてた頃。あの頃のお前は本当ちっちゃくて可愛くて……宝物みたいだったんだけどなあ……」
「今がそうじゃないみたいな言い方やめろ」
「いや、今も可愛いぜ?でもこう……デレが足りない……」
「あってたまるか」
「おっ、何もう上がるの」
湯船から上がると、リラックスしたようにだらける叶から声がかかった。
「付き合ってらんない。俺もう寝るから」
「あらら」
バスタオル片手に浴室を出る。体を拭いて髪の毛を乾かしていると、首元に小さな鬱血痕がついているのに気がついた。
(アイツ……!)
そういえばバスタブの中で抱きかかえられていた時、何か首に痛みがあった気がする。
八雲は大きく音を立てて浴室を開けると寝間着が濡れるのも構わず叶に掴みかかった。
「叶兄さん!なんかやってると思ったらコレなんだよ!」
「虫除け」
「心配しなくても来ねーわ!」
(本当何考えてんのかわかんねえ……)
はあ、とため息をついて八雲は心中で涙を流した。
叶と居ると疲れる。だけど、多分叶と二人の時が一番生き生きしているんだろうなというのはなんとなくわかっていて、それがますます悩みを深くするのであった。
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