上 下
60 / 60
依頼人と日南くん。~私のフレネミーさん~

ex18.快晴を夢見て【了】

しおりを挟む
 あれから数ヶ月。今日も俺は事務所で星川の助手として働いている。星川の独壇場と化したあの場にいた高宮と雇用主の大野の関係が気になるところだったが、元々派遣の単発バイトだからダイジョーブとピースサインで返された。そんな高宮は今日もソファを占領している。星川探偵事務所のスタッフですと言っても良いくらい入り浸る彼だが、自分の案件以外で人の悪意に関わりたくないと依頼を察すると帰ってしまう。おかげで星川の世話を一人でやらなければいけないから大変だ。
「日南くん、日南くん」
「何?」
「百乃さんが新曲出したみたいだ」
 どうやら彼女のアカウントをフォローしていたようで、新着動画の通知を星川は俺に見せてくる。どうせ暇だし聴いてみるかと曲を再生した。イラストは中村、MIXは黒崎、動画、作詞作曲、歌は百乃。三分ちょっとの楽曲はあっという間に聞き終わった。
「良い曲だな」
「……『諦めなければ夢は叶う』『想いは報われる』『希望を届けたい』全部聞き飽きた言葉だ。でも『希望を届けたい』ってフレーズはあの日も言っていたね。きっとそれが彼女の根本なんだろう。叶えられると良いけど」
「叶えられてるんじゃねーの? 本人の知らないところで」
 少なくとも、今日の自分は少し救われた。星川との共依存癖は治っていないし、未だに憎んでいる。でも、このままで良いと腐らず、彼を許せるように、彼と離れられるようになれたら。そんな希望が報われると良い。そう思えた。
「なあ星川、前にお前さ、俺に今幸せかって聞いたけど――」
 いつかはそうなりたいわ、お前の隣で。そう言うと彼はきょとんとした顔の後、嬉しそうに顔をほころばせる。
「僕も、同じ気持ちだよ」
 時間はかかると思う。叶うかもわからない生きる理由を死者とお互いにしか見出せない俺たちの小さな夢。それが早く叶う様に、絡まった糸がほどけない俺は神様に願う事しか出来ないけれど。いつかきっと。
 流れ星は叶えてくれない。空には晴れた空に飛行機雲が浮かぶだけ。その人工的な雲すら無くなり快晴になる日を共に生きれたら。俺はそう願いながら星川を横目で見る。彼も晴れた空を目で追いかけていた。同じことを願っていたらいい。
「いい天気だな」
「うん」
 俺たちも一緒に一歩ずつ歩いていこう。
――時間はまだたくさんあるのだから。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

みやこ嬢
2023.09.07 みやこ嬢

ブロマンス小説を探していてこちらの作品を見つけました。

序盤から伏線が仕込まれていて、後半「なるほど!」と納得したりしました。日南くんの想いの強さ、Kとの不思議な関係、姉の秘密を暴いてからの展開は完全に予想外でした。高宮くんも後半出番が多くてうれしい。
憎しみや好意だけではない何かで繋がった日南くんと星川さん、彼らがずっと仲良く?探偵事務所で過ごせたらいいなと思います。この関係性、すごく好きです。

読ませていただき誠にありがとうございました〜!

解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。