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依頼人と日南くん。~私のフレネミーさん~
ex13.嵐の前の
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「……何、思うところでもあったの」
ベッドに座った俺は横たわる星川の胸を赤子にやるように様に叩く。これをやらないと星川は安心して眠れない。うとうとする星川は眠そうに口を開いた。
「人のつながりがわからない。今、信じられるのはきみだけだ。友達もいない」
「……うん」
「だから友達の事にあれだけ怒れて、お金まで用意するほど大事にされるって心理がわからない。知りたいんだ、他人を大切にする気持ちが。勿論日南くんの事は大事だけど、彼女の様に日南くんが傷つけられてあれだけ怒れる自信が無い」
水野は、聞いていたほど酷い人間では無かった。確かに言い方はキツイ。百乃に才能が無いのにも気が付いている。それでも付き合っている。彼女が『努力の天才』だと信じているから。その信じていた人間が泣いていたら、俺だって頭に血が上る。水野は百乃の事を大切に想っているのだろう。いつか夢が叶うまで見守るつもりでいるのだと、話を聞いていて思った。自分がファンでありアンチ一号なのだと語る姿は本物だった。百乃は周りに恵まれている。本当に犯人は身近に居るのか?
その疑問に星川は答える。
「犯人はほとんどわかってる。でも、百乃さんは傷つくだろう」
「……真実が必ずしも正義なわけじゃないからな」
俺たちはそれをよく知っている。
「夢の中の芽衣子が言うんだ『今幸せか』って。どう答えていいかわからない。日南くんとの生活は幸せだけど、人殺しが幸せになっていいのかずっと不安になる」
俺たちは幸せになれない。きっとお互いを許せるまで一生。
「ねえ、日南くん。今幸せ? 僕と一緒にいて」
「……幸せは姉さんが死んだときに置いて来たよ」
笑顔が増えたと週末会う親からは言われる。その度に心のどこかで罪悪感が募っていた。
「さ、自称探偵さん。眠れるようになるまで今日の情報を整理しようか」
ノートパソコンを立ち上げ星川の隣に座る。星川は今日の水野の言葉を噛み砕いて話し始めた。星川は寝ころびながら天井を眺める。
「水野さんは容疑者から除外していいだろう。今回依頼してきた上で彼女が犯人だとしてだ。『依頼人だから自分は容疑者から除外される』それがメリットになる。だが、彼女は元々百乃さんに才能が無いという事を隠さなかった。恐らく犯人の同期である『嫉妬心』を持つ理由が無い。だって立ってる場所が違う。彼女は観客でしかないからね。それに、彼女は本気で百乃さんを想って怒っていたと思うよ。そんな人間が嫌がらせをして心を折らせるなんて考えにくい」
「普通に嫌いだから嫌がらせしたって線は?」
「本気で嫌いな人間なら、あんな顔はできないよ」
『そいつに教えてやるのよ。アンタが傷つけたバカは才能無いけど努力の天才なの。大馬鹿者が邪魔すんなって!』
喫茶店でそう叫んだ水野の言葉はそのままの意味しかなかった。きっと彼女は百乃のことを一番見てきたのだろう。そんな彼女からしても、ひいき目にしても、百乃に才能は無い。でも、努力はできる。諦めないことは出来る。水野があそこまで熱くなるのはがむしゃらに走ってきた百乃の隣にいたからだ。
「青海さんは、水野さんは気難しくて喧嘩もするって言ってたけど、あの性格ならしょうがないね。多分、才能ないとか直接言ったりしたんだろう。でも、百乃さんは諦めない。そういう彼女を見続けてきたから自分以外の誰かに泣かされるのが許せなくて今回の依頼をした。彼女が依頼してきた動機としてはこんな所かな」
「青海さん、黒崎さんはお前の予想ではシロ。残るは中村さんだけなわけだけど犯人は中村さんだと思ってる?」
てっきり周りの評価から水野でほぼ確定だと思っていたが、星川は水野ではないと言う。だったら姉を想う青海は除外、誹謗中傷する意味がない黒崎は除外。そうしたら中村しかいない。そう言うと布団に潜りながら星川はあくびをした。
「ふあ……。どうやら僕はやっぱり『自称』の粋を越えられないらしいって話だよ。詳しい話は明日しようか」
ようやく眠くなってきた、うつろうつろでそう言うと星川のベッドからは寝息が聞こえてきた。
「……中村さんじゃないなら誰もいなくねえか?」
まさか最初から捜査しなおしだろうか。そう思うと気がめいった。
ベッドに座った俺は横たわる星川の胸を赤子にやるように様に叩く。これをやらないと星川は安心して眠れない。うとうとする星川は眠そうに口を開いた。
「人のつながりがわからない。今、信じられるのはきみだけだ。友達もいない」
「……うん」
「だから友達の事にあれだけ怒れて、お金まで用意するほど大事にされるって心理がわからない。知りたいんだ、他人を大切にする気持ちが。勿論日南くんの事は大事だけど、彼女の様に日南くんが傷つけられてあれだけ怒れる自信が無い」
水野は、聞いていたほど酷い人間では無かった。確かに言い方はキツイ。百乃に才能が無いのにも気が付いている。それでも付き合っている。彼女が『努力の天才』だと信じているから。その信じていた人間が泣いていたら、俺だって頭に血が上る。水野は百乃の事を大切に想っているのだろう。いつか夢が叶うまで見守るつもりでいるのだと、話を聞いていて思った。自分がファンでありアンチ一号なのだと語る姿は本物だった。百乃は周りに恵まれている。本当に犯人は身近に居るのか?
その疑問に星川は答える。
「犯人はほとんどわかってる。でも、百乃さんは傷つくだろう」
「……真実が必ずしも正義なわけじゃないからな」
俺たちはそれをよく知っている。
「夢の中の芽衣子が言うんだ『今幸せか』って。どう答えていいかわからない。日南くんとの生活は幸せだけど、人殺しが幸せになっていいのかずっと不安になる」
俺たちは幸せになれない。きっとお互いを許せるまで一生。
「ねえ、日南くん。今幸せ? 僕と一緒にいて」
「……幸せは姉さんが死んだときに置いて来たよ」
笑顔が増えたと週末会う親からは言われる。その度に心のどこかで罪悪感が募っていた。
「さ、自称探偵さん。眠れるようになるまで今日の情報を整理しようか」
ノートパソコンを立ち上げ星川の隣に座る。星川は今日の水野の言葉を噛み砕いて話し始めた。星川は寝ころびながら天井を眺める。
「水野さんは容疑者から除外していいだろう。今回依頼してきた上で彼女が犯人だとしてだ。『依頼人だから自分は容疑者から除外される』それがメリットになる。だが、彼女は元々百乃さんに才能が無いという事を隠さなかった。恐らく犯人の同期である『嫉妬心』を持つ理由が無い。だって立ってる場所が違う。彼女は観客でしかないからね。それに、彼女は本気で百乃さんを想って怒っていたと思うよ。そんな人間が嫌がらせをして心を折らせるなんて考えにくい」
「普通に嫌いだから嫌がらせしたって線は?」
「本気で嫌いな人間なら、あんな顔はできないよ」
『そいつに教えてやるのよ。アンタが傷つけたバカは才能無いけど努力の天才なの。大馬鹿者が邪魔すんなって!』
喫茶店でそう叫んだ水野の言葉はそのままの意味しかなかった。きっと彼女は百乃のことを一番見てきたのだろう。そんな彼女からしても、ひいき目にしても、百乃に才能は無い。でも、努力はできる。諦めないことは出来る。水野があそこまで熱くなるのはがむしゃらに走ってきた百乃の隣にいたからだ。
「青海さんは、水野さんは気難しくて喧嘩もするって言ってたけど、あの性格ならしょうがないね。多分、才能ないとか直接言ったりしたんだろう。でも、百乃さんは諦めない。そういう彼女を見続けてきたから自分以外の誰かに泣かされるのが許せなくて今回の依頼をした。彼女が依頼してきた動機としてはこんな所かな」
「青海さん、黒崎さんはお前の予想ではシロ。残るは中村さんだけなわけだけど犯人は中村さんだと思ってる?」
てっきり周りの評価から水野でほぼ確定だと思っていたが、星川は水野ではないと言う。だったら姉を想う青海は除外、誹謗中傷する意味がない黒崎は除外。そうしたら中村しかいない。そう言うと布団に潜りながら星川はあくびをした。
「ふあ……。どうやら僕はやっぱり『自称』の粋を越えられないらしいって話だよ。詳しい話は明日しようか」
ようやく眠くなってきた、うつろうつろでそう言うと星川のベッドからは寝息が聞こえてきた。
「……中村さんじゃないなら誰もいなくねえか?」
まさか最初から捜査しなおしだろうか。そう思うと気がめいった。
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