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依頼人と日南くん。~私のフレネミーさん~
ex8.容疑者➁
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次の日、俺たちは黒崎と会うために彼の家の近くの喫茶店に来ていた。電話で黒崎から「道が通行止めになっていて遅れる」と連絡があったので、今は待機中。『モモイロ』の曲をイヤホンを分け合いながら星川と聞いている。本気でこの絵面が嫌なのだが、チェックしておきたいと星川が言うので付き合っているので仕方がない。黒崎が来るまでの辛抱だ。今日は何故か星川は自分で選んだ服を着ていて一緒にいてとても恥ずかしいがこれも黒崎が来るまでの辛抱だ。頑張れ、俺。
「日南くん、僕はあまりこの音楽には詳しくないんだが、そもそもMIXと言うのは何をやる人なんだろう?」
動画説明欄の黒崎のハンドルネームを指さして星川が首を傾げる。そう聞かれると思って昨日のうちに予習済だ。俺は鼻高々に説明してやる。
「MIXって言うのは音を混ぜる作業の事だ。百乃さんは音声ソフトじゃなくて自分で歌ってるだろ? 元のメロディと百乃さんの歌声、それを混ぜたり調整したりしてひとつの曲にするのがMIXの仕事」
「そうなのか。それはパソコンを使うのかい?」
「まあそこそこ使うらしいぞ。結構高スペックのもの求められるらしい」
そう言うと、星川は何か考えた表情の後小さく呟いた。
「じゃあ、条件は揃うのか……」
「条件?」
そう聞き返すと同時だった。
「いやあ、すみません! 遅れちゃって……」
現れたのはスポーツ刈りの爽やかな男。年齢は百乃と同い年だと聞いているが、健康的な肌のせいか若く見える。着ているポロシャツがよく似合う所謂陽キャ側の人間だ。これは星川の見立て通りシロだろう。
「ああ、黒崎さんですね。百乃さんの友人の星川です、こっちはシナリオライターの日南。この度は新しい楽曲の依頼の為の打ち合わせにご協力いただきありがとうございます」
え、何その設定聞いてない。そう思い星川の方を見るが、星川は完全にスイッチが入っているようで好青年の皮を被っている。青海の時は俺にまかせっきりだった癖に男が相手だとすぐこれだ。コイツは姉のトラウマで対女はダメダメだが相手が男だとすぐにスイッチが入る。ここは大人しく助手役に徹していよう。
「百乃の曲が評価されるのは嬉しいですから! でも、今日は百乃いないですけど……いいんですか?」
「その百乃さんの代理で来ているので問題ないですよ。それで、今度ウチで製作する同人ゲームのOPを百乃さんにお任せしたいのですが……。すこし百乃さんの事について客観的な意見が聞きたくて」
「客観的な意見?」
「僕は百乃さんのSNSから音楽活動をされているのを知って、彼女の人柄を知った上でのファンなのですが、その、ブログの件は本当なのかな、と……」
そう星川が控えめに言うと、黒崎はあからさまに顔を顰める。
「……ギャンブルの事ですか? それとも病気の事?」
「他にも色々と。仕事をする上でトラブルになりたくないのと……、もし嘘でなければ是非、シナリオ監修にも関わっていただきたいと!」
「シナリオ監修?」
「はい! 今の時代はダークな世界観が売れます!」
そこからの星川は引くほど饒舌だった。
「インターネットアイドル、ギャンブル、薬物、メンタルヘルス、サブカルチャー! オタクの心を掴むにはその要素を掴むのが一番手っ取り早い! ですが、素人の僕ではリアルさが足りない……! そこで失礼なのは承知ですが! 百乃さんにインタビューをしたいのですっ!」
おめーはメンヘラのプロだろ。そう言いたいのを堪えながらクリエイターのフリをする星川の言葉に頷くふりをする。
「ですが、百乃さんのストレスになるのは避けたい所……。そういう訳なので、事前に百乃さんをよく知る人物に質問事項が地雷ではないか判断してもらいたいんですね」
「百乃はそれ知ってますか?」
「事情は説明してあります。百乃さんをモデルに主人公を作りたいので、客観的に見た百乃さんはどういうキャラクターか調べてもいいかと」
「それなら……」
おいおい、いいのかそれで。俺だったら姉をネタにしたいとか言われたら相手殺すぞ。
「……百乃は、昔からちょっとおかしいんです」
「というと?」
「最初は中学でいじめにあってから幻聴が聞こえるようになったというところから始まりました。それからずっと統合失調症の為に薬と付き合っています。これはブログを読んでいたらご存じですよね?」
「はい、今はいい方向に向かっているんですよね」
ヤバイ俺そこまで覚えてねえ。
「で、ギャンブル依存症になったんです。全てはあの男のせいです……!」
「……大野さんですか」
「ええ。アイツは最初俺たちと同じ音楽サークルのメンバーでした。作曲とボーカルの百乃、作詞と動画作成の大野とMIXの自分、イラストのゆかりの四人グループで活動してたんです。それが壊れたのが五年前、ありがちな痴情のもつれでした。」
俺は簡単にメモを取りながら話を聞く。半分は愚痴も混じっているであろう黒崎の話に星川と共に耳を傾ける。彼の話はそれはもうマシンガンの様に止まらなかった。
「大野は百乃に『作詞の為に百乃を理解したい』とか何とか言って付きまとい行為を繰り返していました。サークルの雰囲気を壊す達人でもありました。自分が百乃と話しているとあからさまに機嫌が悪くなったり、言葉が悪くなったり……。それで重い空気に耐えかねたゆかりが抜けて解散です。でも、問題はそれで終わらなかった。大野が百乃にギャンブルを教えたんです。結果的に借金を背負って自分がお金を貸すようになる事態になりました」
「え、それどうしたんですか」
筆記に専念するはずが思わず聞いてしまう。黒崎は苦笑いして答えた。
「無期限無利子で貸しましたよ、病院行くことを条件にね……」
惚れた弱みというやつだろうか。それを加味しても少なくない額の金を貸す黒崎は馬鹿だと思う。百乃相手なら壺とか躱されるタイプかもしれない。星川はそれを聞くと神妙な顔をする。
「それでも百乃さんは大野さんと別れない、と。貴方はそれを不満に思っていますね?」
「そりゃもう、百乃の幸せを願ってますから」
黒崎はそう困ったように笑った。
「日南くん、僕はあまりこの音楽には詳しくないんだが、そもそもMIXと言うのは何をやる人なんだろう?」
動画説明欄の黒崎のハンドルネームを指さして星川が首を傾げる。そう聞かれると思って昨日のうちに予習済だ。俺は鼻高々に説明してやる。
「MIXって言うのは音を混ぜる作業の事だ。百乃さんは音声ソフトじゃなくて自分で歌ってるだろ? 元のメロディと百乃さんの歌声、それを混ぜたり調整したりしてひとつの曲にするのがMIXの仕事」
「そうなのか。それはパソコンを使うのかい?」
「まあそこそこ使うらしいぞ。結構高スペックのもの求められるらしい」
そう言うと、星川は何か考えた表情の後小さく呟いた。
「じゃあ、条件は揃うのか……」
「条件?」
そう聞き返すと同時だった。
「いやあ、すみません! 遅れちゃって……」
現れたのはスポーツ刈りの爽やかな男。年齢は百乃と同い年だと聞いているが、健康的な肌のせいか若く見える。着ているポロシャツがよく似合う所謂陽キャ側の人間だ。これは星川の見立て通りシロだろう。
「ああ、黒崎さんですね。百乃さんの友人の星川です、こっちはシナリオライターの日南。この度は新しい楽曲の依頼の為の打ち合わせにご協力いただきありがとうございます」
え、何その設定聞いてない。そう思い星川の方を見るが、星川は完全にスイッチが入っているようで好青年の皮を被っている。青海の時は俺にまかせっきりだった癖に男が相手だとすぐこれだ。コイツは姉のトラウマで対女はダメダメだが相手が男だとすぐにスイッチが入る。ここは大人しく助手役に徹していよう。
「百乃の曲が評価されるのは嬉しいですから! でも、今日は百乃いないですけど……いいんですか?」
「その百乃さんの代理で来ているので問題ないですよ。それで、今度ウチで製作する同人ゲームのOPを百乃さんにお任せしたいのですが……。すこし百乃さんの事について客観的な意見が聞きたくて」
「客観的な意見?」
「僕は百乃さんのSNSから音楽活動をされているのを知って、彼女の人柄を知った上でのファンなのですが、その、ブログの件は本当なのかな、と……」
そう星川が控えめに言うと、黒崎はあからさまに顔を顰める。
「……ギャンブルの事ですか? それとも病気の事?」
「他にも色々と。仕事をする上でトラブルになりたくないのと……、もし嘘でなければ是非、シナリオ監修にも関わっていただきたいと!」
「シナリオ監修?」
「はい! 今の時代はダークな世界観が売れます!」
そこからの星川は引くほど饒舌だった。
「インターネットアイドル、ギャンブル、薬物、メンタルヘルス、サブカルチャー! オタクの心を掴むにはその要素を掴むのが一番手っ取り早い! ですが、素人の僕ではリアルさが足りない……! そこで失礼なのは承知ですが! 百乃さんにインタビューをしたいのですっ!」
おめーはメンヘラのプロだろ。そう言いたいのを堪えながらクリエイターのフリをする星川の言葉に頷くふりをする。
「ですが、百乃さんのストレスになるのは避けたい所……。そういう訳なので、事前に百乃さんをよく知る人物に質問事項が地雷ではないか判断してもらいたいんですね」
「百乃はそれ知ってますか?」
「事情は説明してあります。百乃さんをモデルに主人公を作りたいので、客観的に見た百乃さんはどういうキャラクターか調べてもいいかと」
「それなら……」
おいおい、いいのかそれで。俺だったら姉をネタにしたいとか言われたら相手殺すぞ。
「……百乃は、昔からちょっとおかしいんです」
「というと?」
「最初は中学でいじめにあってから幻聴が聞こえるようになったというところから始まりました。それからずっと統合失調症の為に薬と付き合っています。これはブログを読んでいたらご存じですよね?」
「はい、今はいい方向に向かっているんですよね」
ヤバイ俺そこまで覚えてねえ。
「で、ギャンブル依存症になったんです。全てはあの男のせいです……!」
「……大野さんですか」
「ええ。アイツは最初俺たちと同じ音楽サークルのメンバーでした。作曲とボーカルの百乃、作詞と動画作成の大野とMIXの自分、イラストのゆかりの四人グループで活動してたんです。それが壊れたのが五年前、ありがちな痴情のもつれでした。」
俺は簡単にメモを取りながら話を聞く。半分は愚痴も混じっているであろう黒崎の話に星川と共に耳を傾ける。彼の話はそれはもうマシンガンの様に止まらなかった。
「大野は百乃に『作詞の為に百乃を理解したい』とか何とか言って付きまとい行為を繰り返していました。サークルの雰囲気を壊す達人でもありました。自分が百乃と話しているとあからさまに機嫌が悪くなったり、言葉が悪くなったり……。それで重い空気に耐えかねたゆかりが抜けて解散です。でも、問題はそれで終わらなかった。大野が百乃にギャンブルを教えたんです。結果的に借金を背負って自分がお金を貸すようになる事態になりました」
「え、それどうしたんですか」
筆記に専念するはずが思わず聞いてしまう。黒崎は苦笑いして答えた。
「無期限無利子で貸しましたよ、病院行くことを条件にね……」
惚れた弱みというやつだろうか。それを加味しても少なくない額の金を貸す黒崎は馬鹿だと思う。百乃相手なら壺とか躱されるタイプかもしれない。星川はそれを聞くと神妙な顔をする。
「それでも百乃さんは大野さんと別れない、と。貴方はそれを不満に思っていますね?」
「そりゃもう、百乃の幸せを願ってますから」
黒崎はそう困ったように笑った。
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