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依頼人と日南くん。~私のフレネミーさん~

ex6.容疑者①

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 星川はまずは青海雫にコンタクトを取った。黒崎と仲が良いと言う前情報もあるし、周りの事は近くで見てきた身内から情報を聞くのが一番手っ取り早いらしい。その理論で行くと姉と星川の真実を見抜けなかった俺の立場はどうなるんだと言う話だが。
「まあ、芽衣子は……特殊だから……」
 ぶつくさと愚痴をこぼした俺にマウントを取ってくる星川を殺そうと考えていると、指定したファミレスのテーブルに髪の長い色白の女性がやってきた。どうしてファミレスを選んだのか聞くと、知らない人と会う時はメジャーで自分もよく知っていて、かつ沢山の他人の目がある場所の方が相手が安心するから、らしい。
「星川さんですか……?」
 黒髪を揺らし声をかけられる。俺は咄嗟に席を立ち青海に一礼して自己紹介した。
「どうも、この度はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。星川探偵事務所の日南と申します。……星川! 立って挨拶!」
 星川のジャケットの襟首を引っ掴み立たせ自己紹介をさせ、名刺を渡させる。全く、俺がいるとこう甘え癖が出るから来たくなかったのにぐずって離れないから来てしまった。まあ勉強になるからいいけど。
「どうも、星川探偵事務所の星川です。とりあえずかけていただいて。お飲み物はいかがなさいますか?」
「あ……、じゃあオレンジジュースで……」
 ドリンクバーを追加注文し、ドリンクバーからオレンジジュースを取ってくる。それをテーブルの上に置くと、青海は長い黒髪を下げた。一口、ジュースで唇を濡らし、青海はおずおずと星川に言った。
「あの……、また姉がなにかやられたんでしょうか……?」
「また?」
 まさか前例があるのか。本人からは何も聞いていないが。
 青海は言いずらそうにして続けて口を開く。
「姉は……、その、身内の私から見ても鈍くて……いろいろな人の地雷を踏みまくって恨みを買ってしまうんです……」
「ええ……」
「しかもそれに気づかないんです……。嫌がらせにも言われないと気が付かなくて……。私がどれだけハラハラして見守ってきたか……」
 そして青海は大きなため息を吐いた。どうやら彼女も苦労しているようだ。
「功太くんの件だってそう……」
「……黒崎さんの事ですか?」
 星川がそう聞く。青海はこくりと頷いた。
「はい、姉の幼馴染に黒崎功太くんって男の人がいるんですけど、彼……、昔から姉の事が好きだったんです。でも姉は最後までそれに気づかなくて、今の彼氏を選びました。……あの、探偵さんに呼び出された時点で姉に何かあったのはわかってます。ついに……功太くんが何かやったんでしょうか……?」
 黒崎については最低限の情報しかない。実際に聞き込みの為に会う予定も今日の青海の話を整理してからになるのだが、彼女が気を病むレベルでまずい人格の人間なのだろうか? 俺は生唾ごくりと飲み込んだ。
「なにか心当たりでも?」
 流石探偵、星川はこういう時も動じない。
「功太くんはちょっと姉の事になるとちょっと過激で……、今の彼氏と姉が付き合う時にもひと悶着あったんです。今の彼氏は姉に付きまとい行為をしていたのですが……」
「は!? え、お姉さんそんな人と付き合ってるんですか!?」
 思わず声が出てしまう。大野は決してそんな人間には見えなかったのだが。星川は動じていない。むしろ「続けてください」と詳しく情報を聞き出す。
「姉は『それくらい私の事を気にしてくれているんだ』とか言って付き合い始めちゃって、今はあの男と結婚の話まで……。私は功太くんの事を想うともう……」
 青海はそう言うとハッとした表情で身を乗り出した。
「姉が誰に何されたのか聞いてませんでした! 私に何かできることはありますか!?」
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