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依頼人と日南くん。~私のフレネミーさん~

ex5.容疑者達

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「彼氏さんの予想は合っているだろうね」
 軽い貧血だった星川はソファに寝転びながら俺がまとめた書類をめくる。結局救急車は呼ばず、高宮も帰ってしまったので、俺が一人で何とかした。このメンヘラはいつ治るのだろうか。家庭を持つまで治らないのだろうか。コイツが幸せになる権利はないと思うので彼女が出来たら全力で阻止するが。
「教えてくれた掲示板も見たけどアレはどう考えても自演だ。百乃さんは確かに知人から私怨を持たれているだろう」
「やっぱそうかな。まあ一日数投稿の動きがゆっくりのスレッドにその部分だけ流れが早くなるって言うのもおかしいし……、お前が言うならそうなんだろうな。でも、どうやって犯人つきとめるんだよ。百乃さん、俺らと違って友達は少なくないんだぞ」
 SNSのフォロワーは論外として、ブログの読者でリアルの友達は彼女曰く三十人いる。彼女が自身を弱小と言うのは正しく本当に小規模な活動しかしていないらしい。
「この三十人から誰が犯人か当てるなんて……」
「いや、その三十人は除外だ」
「え、なんで?」
 そう聞くと、星川は目を丸くした。
「日南くんは……、その、人の汚い感情に疎い所があるよね……」
「は? 俺はお前を世界一恨んでいる人間だが?」
 星川はうーんと頭を抱えるとたとえ話だけどと言う。
「日南くん、もし僕に嫌がらせをするなら自ら正々堂々やる? それとも自分がやったってバレないように隠れてやる?」
「正々堂々やるに決まってるだろ。隠れてやるなんて気持ち悪い」
「僕は日南くんのそういう所すごい好きだよ。でもね、普通の人は他人を傷つけたくても自分がリスクを負う事はしたくないんだ」
「そうなのか」
 資料を腹に置き、星川はスマートフォンを操作する。
「他人の不幸で飯が美味いのはみんな同じ。でも自分に火の粉がかかるのは嫌。そういうときはね、絶対に自分とはわからないように対象を監視する。この三十人は全部本名だろう? 嫌がらせをするなら使わない。そもそも掲示板に晒すような恨みを持っているならフォロワー数を増やすなんて対象の利益になることはしない。だから捨て垢すら使ってないだろう。このブログには誰が来たかなんかわからないからゲストで見ているはずだ。」
 向かいに座る俺は星川の指示に従い、読み上げられた彼女の友人を赤線ではじく。
「彼女と仲が良い友人は、彼女自身が認知している時点で四十人」
「多いよな~。認知してるってだけだろ? 一方的に友達と思われてるパターンとかは考慮しないのか?」
「彼女が創作活動をしているのは一部の人しか知らないんだろう? 彼女の活動を知らず、かつ本名ではない人間を消した残りの数は?」
「……四人に減った」
 残ったのは四人。
 一人目、黒崎功太。百乃の幼馴染で創作活動のパートナー。
 二人目、水野風香。店の従業員で高校時代からの友人。
 三人目、青海雫。結婚した百乃の妹。功太とは仲が良かった。
 四人目、中村ゆかり。小学校からの友達で、創作活動でお世話になっている絵師。
「……これ犯人わかっても後々地獄だろ」
「だから穏便に済ませたいんじゃないかな?」
 俺には友達が少ないので友達が沢山いる人の気持ちはわからない。だから、人の良さそうな百乃がどんな気持ちなのかは推測できないが、どんな結果になっても悲しい結末しかないのではないかなと思う。だって、俺が百乃の立場で、高宮から実は掲示板に晒されるくらい嫌われていると知ったらもう友情は保てないから。
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