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ep40.芽衣子と新
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「……ここらへんにいるはず」
そう、高宮に連れられたのは星川の部屋の前だった。
「なんでだ……? 星川はあの公園に向かってたはずだろ? 途中ですれ違うと思ったんだが……」
「なんかあったんだろーな。部屋、鍵締まってなきゃいいけど」
ドアノブに手をかけると不用心な事に開いていた。アイツは鍵を閉めるという事を知らないのか。本当に葛西の部屋がオートロックでよかった。
(いや……それとも、もしかしたら……)
鍵を閉められなかった、のだろうか?
「新、中入るぞ。っと、その前に」
高宮はバッグからブレスレットを取り出す。ブレスレットと言うかこれは数珠とか言う奴だ。
「これはマジで危なくなった時の保険だ。結構力は込めたから投げつければまあ時間稼ぎにはなるだろう、と思う」
「うん」
「先に言っておくが、オレは星川サンがどうなろうと興味ない。仕事じゃないし、なによりお前が姉ちゃんの事どれだけ好きだったかは知ってるから。だから、ヤバくなったらお前連れて逃げる。それは理解してもらわないとお前を中には入れさせられない」
「ああ、わかってる。……行こう」
中に入る。靴を脱ごうとすると脱がなくていいと高宮に言われた。もしもの時に逃げれるようにだそうだ。そのもしもが無ければいいのだが。リビングへの扉を開ける。部屋には何かが腐ったような悪臭が漂い鼻についた。吐きそうになりながらも我慢する。星川は床の上に座り込んでいた。表情に色はない。カーテンが揺れている。大きなベランダに続く窓が開いているのにこの匂いなのか。
「星川っ!」
彼に駆け寄ろうとすると、窓ガラスが割れる音がした。ボールだか石だとかが投げ入れられたわけじゃない。勝手に窓ガラスが割れたのだ。これを「勝手に」と言うほど、俺も日和ってはいなかった。
割れた窓ガラスから風が入り、カーテンを靡かせる。星川は立ち上がり、俺の方を見る。その影は男性のものではなく、女性の影が映っていた。
「……姉さん」
「新、あそこまで行くともうだめだ。星川サンの事は諦めよう」
首が異様に長い姉の影。その姿は首を吊った名残だろうか。
「あ……ら、た……」
姉が俺の名前を呼ぶ。嬉しくは思えなかった。俺を見るその目には憎悪しか込められていない。わかってた。姉にとって星川以外はどうでもいいのだ。むしろ邪魔をする自分は彼女にとって敵でしかない。
「じゃ、まっ!」
「——ッ!」
冷たく強い風が部屋にものすごい勢いで入ってくる。小さなガラスが飛び散り、頬に液体が伝う。どこかを破片で切ったのだろう。
「姉さん! 聞いて!」
「せんせいは……わたさない……」
星川が大きな窓ガラスの破片を持つ。そのまま俺に近づくとそのままそれを振り下ろした。すんでのところで躱したが、ジャケットに切れ目が走った。
――姉さんは、俺を殺すつもりだ。
わかってたじゃないか。ここまでの悪霊になった姉を止めることは出来ない。だから高宮まで巻き込んだ。その時点で結末は描いていたはずだろ。俺が描いたエピローグは。
「姉さん、ごめん」
「新!?」
俺は星川に向かってタックルをする。押し出される星川の身体。彼の身体はベランダの柵に叩きつけられる。俺は星川——姉の胸倉を掴み立ち上がらせ柵にに押し付ける。それから彼の身体を抱きしめると、小さく囁いた。
「——星川の代わりに俺が傍にいるから、それじゃダメかな?」
「あら――」
高宮の声を無視し、星川ごとベランダの柵へと体重をかける。星川の身長が高いこともあり、バランスを崩した身体は俺を巻き込んで落下する。俺は咄嗟に自分を地面側に向きを変えた。星川は守らなければいけない。この体制ならば、俺は死んでも星川は俺の死体がクッションになって重症くらいで済むだろう。俺は引き攣った顔で叫ぶ姉に語りかける。
「一人で逝かせない。ずっと一緒だよ、姉さん」
「いやっ! 嫌嫌嫌嫌ァ!」
握りしめていた数珠が熱く熱を帯びた。
そう、高宮に連れられたのは星川の部屋の前だった。
「なんでだ……? 星川はあの公園に向かってたはずだろ? 途中ですれ違うと思ったんだが……」
「なんかあったんだろーな。部屋、鍵締まってなきゃいいけど」
ドアノブに手をかけると不用心な事に開いていた。アイツは鍵を閉めるという事を知らないのか。本当に葛西の部屋がオートロックでよかった。
(いや……それとも、もしかしたら……)
鍵を閉められなかった、のだろうか?
「新、中入るぞ。っと、その前に」
高宮はバッグからブレスレットを取り出す。ブレスレットと言うかこれは数珠とか言う奴だ。
「これはマジで危なくなった時の保険だ。結構力は込めたから投げつければまあ時間稼ぎにはなるだろう、と思う」
「うん」
「先に言っておくが、オレは星川サンがどうなろうと興味ない。仕事じゃないし、なによりお前が姉ちゃんの事どれだけ好きだったかは知ってるから。だから、ヤバくなったらお前連れて逃げる。それは理解してもらわないとお前を中には入れさせられない」
「ああ、わかってる。……行こう」
中に入る。靴を脱ごうとすると脱がなくていいと高宮に言われた。もしもの時に逃げれるようにだそうだ。そのもしもが無ければいいのだが。リビングへの扉を開ける。部屋には何かが腐ったような悪臭が漂い鼻についた。吐きそうになりながらも我慢する。星川は床の上に座り込んでいた。表情に色はない。カーテンが揺れている。大きなベランダに続く窓が開いているのにこの匂いなのか。
「星川っ!」
彼に駆け寄ろうとすると、窓ガラスが割れる音がした。ボールだか石だとかが投げ入れられたわけじゃない。勝手に窓ガラスが割れたのだ。これを「勝手に」と言うほど、俺も日和ってはいなかった。
割れた窓ガラスから風が入り、カーテンを靡かせる。星川は立ち上がり、俺の方を見る。その影は男性のものではなく、女性の影が映っていた。
「……姉さん」
「新、あそこまで行くともうだめだ。星川サンの事は諦めよう」
首が異様に長い姉の影。その姿は首を吊った名残だろうか。
「あ……ら、た……」
姉が俺の名前を呼ぶ。嬉しくは思えなかった。俺を見るその目には憎悪しか込められていない。わかってた。姉にとって星川以外はどうでもいいのだ。むしろ邪魔をする自分は彼女にとって敵でしかない。
「じゃ、まっ!」
「——ッ!」
冷たく強い風が部屋にものすごい勢いで入ってくる。小さなガラスが飛び散り、頬に液体が伝う。どこかを破片で切ったのだろう。
「姉さん! 聞いて!」
「せんせいは……わたさない……」
星川が大きな窓ガラスの破片を持つ。そのまま俺に近づくとそのままそれを振り下ろした。すんでのところで躱したが、ジャケットに切れ目が走った。
――姉さんは、俺を殺すつもりだ。
わかってたじゃないか。ここまでの悪霊になった姉を止めることは出来ない。だから高宮まで巻き込んだ。その時点で結末は描いていたはずだろ。俺が描いたエピローグは。
「姉さん、ごめん」
「新!?」
俺は星川に向かってタックルをする。押し出される星川の身体。彼の身体はベランダの柵に叩きつけられる。俺は星川——姉の胸倉を掴み立ち上がらせ柵にに押し付ける。それから彼の身体を抱きしめると、小さく囁いた。
「——星川の代わりに俺が傍にいるから、それじゃダメかな?」
「あら――」
高宮の声を無視し、星川ごとベランダの柵へと体重をかける。星川の身長が高いこともあり、バランスを崩した身体は俺を巻き込んで落下する。俺は咄嗟に自分を地面側に向きを変えた。星川は守らなければいけない。この体制ならば、俺は死んでも星川は俺の死体がクッションになって重症くらいで済むだろう。俺は引き攣った顔で叫ぶ姉に語りかける。
「一人で逝かせない。ずっと一緒だよ、姉さん」
「いやっ! 嫌嫌嫌嫌ァ!」
握りしめていた数珠が熱く熱を帯びた。
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