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ep39.解呪
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「ここでいいのか?」
「この公園は人が来ない。ここで遊んでる奴なんてここ数年見たことないくらいだ」
着いたのは遊具が何もない公園——いや、もう広場と言っていいくらいか。その広場に俺と高宮が立っている。高宮は俺が持っていたヒトガタを摘まんで嫌そうな顔をした。
「これが原因かー……。見たことない呪いだなー……」
「姉さん、死ぬ前にいろんなおまじないを調べてた。推測だけど姉さんなりに色々考えてオリジナルの答えを出したのかもしれない」
「それが結果的に“正解”だったってー?」
まあ、そうなる。当時の姉はだいぶ追い詰められていたようだから、やれることはやってみようと考えたのかもしれない。結果的にこれだけの呪いになるんだからやっぱり姉はすごい。
「お前の姉ちゃん、魔女の素質あるよ。……じゃあ、燃やすぞ」
「本当に燃やしたら全部終わるんだな?」
「……高宮?」
高宮は少し考えた後、自信無さそうに答えた。
「……ああ、というかそうじゃなきゃお手上げだ」
時刻は夜の九時。「それじゃあ、始めるぞ」その言葉を皮切りに高宮がマッチを擦る。が、全く火が付かない。
「……姉さんは、いないんだよな?」
「いない、少なくともオレには見えてない」
通算十四本目でようやく風にも邪魔されず火が付いた。そのマッチの火をヒトガタに近づける。火はヒトガタに燃え移り、すぐに灰と化した。
――これで、何もかも終わったんだ。
……終わったんだよな?
高宮は燃やした灰をカプセルに入れた。どうやら念には念を入れて自宅で除霊の儀式を行うらしい。彼曰く、今やったのは簡易的なもので、大体の呪いは根本をどうにかすれば解決する。が、もし『自分の予想を超えるような』それだった場合の事も考えたようだ。
「一応、星川にも連絡するか」
星川の番号を探して、電話する。しかし――……、やけにあっさりしすぎていないか?
そもそも、姉にとってあのヒトガタはとても大事なものだったはずだ。だから、俺の邪魔をしてきた。俺には霊感がないからわからないが、ヒトガタを燃やされたら困るから妨害してきたんだろう? なのに、十四回の妨害の末、結果的に燃やすことを良しとした。これはどういう意味だろう。三年も執着していたのだ、今更諦めるなんてそんなことあるか?
「いや……」
待て、そもそも『前提が』間違っていないか?
星川は確かに姉に呪われている。ヒトガタが部屋にあったのが証拠だ。だが、普段の星川は『葛西鈴音』として俺が出入りしている部屋にいたはず。ヒトガターー……本体が物理的に遠くにあるのに、霊障は葛西の部屋でも起きた。
「なあ、高宮」
「んー?」
「呪いと幽霊って、別物だったりする?」
高宮はあっけらかんと「別だよー」と言ったが、その言葉の中身を察し、顔を青くした。
「……オレ達が消したのは“星川サンとお前の姉ちゃんの繋がり”だけかもしれない」
「つまりそれって……」
「まだ終わってない、恐らく、星川サンは」
「アイツ車乗ってるんだよな!?」
すぐに電話をかける。ワンコール、ツーコール。いくら待っても星川は出ない。
「クソッ! 星川……!」
「大丈夫だ、星川サンにはウチの“お守り”を持たせてる」
「お守り……?」
と言うと、あの神社とかで売ってるアレだろうか?
その疑問に高宮は答える。
「オレの念を込めたお札みたいなもんだ。大抵の弱いヤツは寄ってこないし、場所はオレの念を辿れば大体の位置はわかる」
「本当か!?」
「大体な。でも、いいのか? このまま放っておけばお前の敵は死ぬぞ」
その答えはもう出ている。
「俺は、手の届く範囲は助けるよ。夢見が悪いのは嫌だからな」
星川は何も悪くないから、恨む人間なんて最初からいない。全員が全員ボタンを掛け違えて、最悪の結末を導き出した結果がこれだ。姉を悪者にはしたくないが、事実、姉が全ての元凶だ。星川を責めることなんて出来ない。むしろ、あそこまで追い詰めた星川の傍に居なければいけないだろう。それが「恨むために生きてもらう」そんな理由でもいい。姉の暴走が引き起こしたこの物語は、弟である俺が終わらせなければならない。
「高宮、ナビ頼む」
「新がいいなら、俺はそれに従うけど――……、後悔はするなよ」
「後悔は三年前に捨ててきたよ」
もし、姉の奇行を自分がフォローしていれば。突然家庭教師を辞めると言った星川を引き留めていれば。後悔は尽きないけれど、すべて過去の事だ。自分には何もできない。だから、今、最善を尽くす。姉を星川から解放して、星川を救う。クソッタレで死に損なったクズな自分に何かできる事があるならば、きっと今日がその日だ。
「二人を助けるぞ、高宮」
公園を出ると、冷たい風が頬をさしてくる。高宮は車のドアをキーで開けると「しょうがないから最後まで付き合うぜ」と呆れた顔で言った。
「この公園は人が来ない。ここで遊んでる奴なんてここ数年見たことないくらいだ」
着いたのは遊具が何もない公園——いや、もう広場と言っていいくらいか。その広場に俺と高宮が立っている。高宮は俺が持っていたヒトガタを摘まんで嫌そうな顔をした。
「これが原因かー……。見たことない呪いだなー……」
「姉さん、死ぬ前にいろんなおまじないを調べてた。推測だけど姉さんなりに色々考えてオリジナルの答えを出したのかもしれない」
「それが結果的に“正解”だったってー?」
まあ、そうなる。当時の姉はだいぶ追い詰められていたようだから、やれることはやってみようと考えたのかもしれない。結果的にこれだけの呪いになるんだからやっぱり姉はすごい。
「お前の姉ちゃん、魔女の素質あるよ。……じゃあ、燃やすぞ」
「本当に燃やしたら全部終わるんだな?」
「……高宮?」
高宮は少し考えた後、自信無さそうに答えた。
「……ああ、というかそうじゃなきゃお手上げだ」
時刻は夜の九時。「それじゃあ、始めるぞ」その言葉を皮切りに高宮がマッチを擦る。が、全く火が付かない。
「……姉さんは、いないんだよな?」
「いない、少なくともオレには見えてない」
通算十四本目でようやく風にも邪魔されず火が付いた。そのマッチの火をヒトガタに近づける。火はヒトガタに燃え移り、すぐに灰と化した。
――これで、何もかも終わったんだ。
……終わったんだよな?
高宮は燃やした灰をカプセルに入れた。どうやら念には念を入れて自宅で除霊の儀式を行うらしい。彼曰く、今やったのは簡易的なもので、大体の呪いは根本をどうにかすれば解決する。が、もし『自分の予想を超えるような』それだった場合の事も考えたようだ。
「一応、星川にも連絡するか」
星川の番号を探して、電話する。しかし――……、やけにあっさりしすぎていないか?
そもそも、姉にとってあのヒトガタはとても大事なものだったはずだ。だから、俺の邪魔をしてきた。俺には霊感がないからわからないが、ヒトガタを燃やされたら困るから妨害してきたんだろう? なのに、十四回の妨害の末、結果的に燃やすことを良しとした。これはどういう意味だろう。三年も執着していたのだ、今更諦めるなんてそんなことあるか?
「いや……」
待て、そもそも『前提が』間違っていないか?
星川は確かに姉に呪われている。ヒトガタが部屋にあったのが証拠だ。だが、普段の星川は『葛西鈴音』として俺が出入りしている部屋にいたはず。ヒトガターー……本体が物理的に遠くにあるのに、霊障は葛西の部屋でも起きた。
「なあ、高宮」
「んー?」
「呪いと幽霊って、別物だったりする?」
高宮はあっけらかんと「別だよー」と言ったが、その言葉の中身を察し、顔を青くした。
「……オレ達が消したのは“星川サンとお前の姉ちゃんの繋がり”だけかもしれない」
「つまりそれって……」
「まだ終わってない、恐らく、星川サンは」
「アイツ車乗ってるんだよな!?」
すぐに電話をかける。ワンコール、ツーコール。いくら待っても星川は出ない。
「クソッ! 星川……!」
「大丈夫だ、星川サンにはウチの“お守り”を持たせてる」
「お守り……?」
と言うと、あの神社とかで売ってるアレだろうか?
その疑問に高宮は答える。
「オレの念を込めたお札みたいなもんだ。大抵の弱いヤツは寄ってこないし、場所はオレの念を辿れば大体の位置はわかる」
「本当か!?」
「大体な。でも、いいのか? このまま放っておけばお前の敵は死ぬぞ」
その答えはもう出ている。
「俺は、手の届く範囲は助けるよ。夢見が悪いのは嫌だからな」
星川は何も悪くないから、恨む人間なんて最初からいない。全員が全員ボタンを掛け違えて、最悪の結末を導き出した結果がこれだ。姉を悪者にはしたくないが、事実、姉が全ての元凶だ。星川を責めることなんて出来ない。むしろ、あそこまで追い詰めた星川の傍に居なければいけないだろう。それが「恨むために生きてもらう」そんな理由でもいい。姉の暴走が引き起こしたこの物語は、弟である俺が終わらせなければならない。
「高宮、ナビ頼む」
「新がいいなら、俺はそれに従うけど――……、後悔はするなよ」
「後悔は三年前に捨ててきたよ」
もし、姉の奇行を自分がフォローしていれば。突然家庭教師を辞めると言った星川を引き留めていれば。後悔は尽きないけれど、すべて過去の事だ。自分には何もできない。だから、今、最善を尽くす。姉を星川から解放して、星川を救う。クソッタレで死に損なったクズな自分に何かできる事があるならば、きっと今日がその日だ。
「二人を助けるぞ、高宮」
公園を出ると、冷たい風が頬をさしてくる。高宮は車のドアをキーで開けると「しょうがないから最後まで付き合うぜ」と呆れた顔で言った。
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