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ep1.日南新の独白

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――殺したい奴がいる。
 いくら探しても見つからないあの男。
 最愛の姉を殺したあの男。

「あの人の事が好きなの」

 姉がそう言った時、俺は姉が幸せならいいと思ったんだ。アイツが姉を幸せにしてくれるなら、自分も別の道に進もうと、諦めようと、そう思って。そう思ってたのに。
 姉は。

 殺してやる。殺してやる。殺してやる。

 それだけが、今の俺の、生きる理由だった。

「新、もうやめろよ。そんな気持ち持っててもお前の姉ちゃん喜ばねえだろー……」

 数少ない友人の一人は病室で歯を食いしばる俺にそう言った。
 復讐は誰も喜ばない? 喜ぶだろ、少なくても復讐する側は。

「なあ、高宮。SNSでいいからさ、あの男探すの手伝ってくれないかな」

 芽衣子お姉ちゃんの為なんだ。そう言うと、俺の人生のほとんどを一緒に過ごした幼馴染は悲しそうに笑う。

「……新、お前変わったな」

 日南新は一度死んだ。今生きているのは完全に復讐のためだ。
 あの男を探し出して殺してやる。
 考えられる全ての惨い方法で。
――日南新、十九歳。幾度かの自殺の失敗の末。成人を迎える前に俺は、恋の為に殺人鬼になることを決めた。
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