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ep14.卒業アルバム
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姉の部屋を弄って一時間。見た所収穫はない。
葛西からすればどうかはわからないが。本棚を調べている彼に目を向けると視線に気づいた葛西が微笑んだ。
「大丈夫だよ。いくつかわかったことはある」
「例えば?」
「友達の連絡先とか。この子お姉さんと仲良いみたいだしバイト先とかその男の人の事とか知ってるんじゃないかな。お姉さんが話してればね」
「そんなん分かるものあったか?」
そんなの俺が見逃すはずがない。だいぶこの部屋は漁ったのだ。
「これ」
差し出されたのは中学時代の卒業アルバムだった。青色の布張りのそれはケースのおかげで日焼けをせず見た目は新しいものと見分けがつかない。
「と、あれ」
アルバムを持った手とは反対側の手で学習机を指差す。机は整理整頓されていて特に目新しいものはない。
「壁、コルクボードに写真が貼ってあるだろう?お姉さんじゃない方の女の子。中学の頃の同級生だ」
ほら、と開いたアルバムの一ページを見せる。姉が所属するクラス一覧に言われてみればそれらしい少女の写真が印刷されていた。
「でも顔ちがくねえか」
「メイクだよ。ホクロの位置と鼻の形が同じだ。あとボードに貼ってあるプリクラの名前と一致する」
大学で垢抜けたのか言われても首をかしげるほど顔が違うが確かに口元のホクロの位置が同じだ。鼻の形はわからん。でもメイクってすごいんだな。
「……よくわかったな」
「偶然だよ。で、連絡先もアルバムに書いてある。家電だから出るかわかんないけど」
後ろから数えた方が早い白紙のページにその友人と名前と住所、電話番号が書かれていた。他にも白紙いっぱいに沢山。姉は人気者だと思う。俺なんかここ白紙だ。
「きみならこの女の子は一発で分かると思ったんだけど。家に遊びに来たりしなかったのかい?」
「思春期の非モテが歳上の女と顔合わせられるわけねーだろ。来る前に外に逃げてたわ」
「顔の覚えも悪いし?僕のこともすぐに気づいてくれなかったよね」
「お前のは女のメイクと同レベルだろうが」
薄汚れたホームレスが金持ちイケメン探偵とか今日日恋愛小説でも見ねえぞ。俺が女だったら多分まんま恋愛物の主人公だ。でもメンヘラだから俺が女の子だったら家に来た段階で警察呼んでたかもしれない。だってこえーもん。
「お前俺が男でよかったな」
「?」
でもこんなに顔が整ってるなら許されんのかな。モデルやアイドルだったとしても目を惹く外見。これが自分(女)のストーカーだったら?
……いや普通に怖いわ。
「電話かけるね。日南くんは電話聞く? スピーカーにしても構わないけど」
「じゃあそうしてくれ」
返事を聞くと慣れた手つきで固定電話の番号をスマートフォンに打ち込んだ。数回の呼び出し音が切れ、若くはない女性の声に迎えられる。
「羽山さんの御宅でしょうか?」
『はい……そうですけど、どちら様?』
「私、弥生さんの同級生の葛西と申します。来月の同窓会の件で弥生さんとお話したいのですが今ご在宅でしょうか?」
『あぁ、ちょっと待ってくださいね。今呼んできますから』
軽快な保留音。それに、ふうと息をつく葛西の頭を俺はぶっ叩いた。
「いたっ」
「お、おま………何嘘なんかついて………!」
「でも怪しまれて最初に電話切られたりしたら大変だよ?」
「嘘ついたら余計怪しまれるだろうが!」
「探偵って詐欺師みたいなものだから……」
「答えになってねえんだよなぁ……」
やいのやいのと騒いでいるうちにスピーカーから流れる電子音が途切れる。その代わりに出てきたのは写真とはイメージが違う、気弱そうな女性の声だった。
『………もしもし』
「羽山弥生さんでよろしいですか?」
『そうですけど……』
「先ほどは嘘をついて申し訳ありません。私、葛西探偵事務所の栗花落と申します。羽山様、亡くなったご友人に日南さんという女性がいらっしゃいますね?」
『…………芽衣子のことですか?』
「はい。その弟さんの新様からの依頼なのですが、芽衣子さんの事を調査する上で親友である羽山様に芽衣子さんについてお聞きしたい事があるのです。お話を伺うことは可能でしょうか?』
『親友だなんて……。でも、はい。いいですよ。こういうのって直接顔を合わせて話した方がいいんですか?』
「可能であれば」
『わかりました。あの、でも出来れば人が多いところがいいんですけど……』
「流石に怖いですよね、すみません。それではお昼過ぎに駅前のファミリーレストランはどうですか? あそこでしたら人が途切れることはないですし、近くに交番もあるので少しは安心かと。日にちに関してはそちらにお任せします」
『はい……それでは……』
それから数分の相談の後、何のトラブルも無く通話は終了した。自分のスマホをしまうと葛西は先ほどの雰囲気が嘘のように脱力する。
「ふう、相手が頭良くなくて助かったねえ……」
「えっ、なんかダメなところあったのか」
「不自然だらけだよ。疑われたら終わりだった。だってさ、今回は話を早く進めたかったから君の名前出したけど本当は守秘義務とか色々あるんだよ? サイトとかは昨日の内に作っておいたけど、アレも詳しかったら見ただけで実在しないとこってすぐバレちゃうし」
「元探偵ならそこらへん昔みたいにやってくれよ」
「今はただの個人だからね。やり方も違うよ~~」
そんなもんなんだろうか。探偵どころか社会のこともよくわからないからどうもいえないけれど。
「でもこれで一人確保だよ。何かわかるといいね」
葛西からすればどうかはわからないが。本棚を調べている彼に目を向けると視線に気づいた葛西が微笑んだ。
「大丈夫だよ。いくつかわかったことはある」
「例えば?」
「友達の連絡先とか。この子お姉さんと仲良いみたいだしバイト先とかその男の人の事とか知ってるんじゃないかな。お姉さんが話してればね」
「そんなん分かるものあったか?」
そんなの俺が見逃すはずがない。だいぶこの部屋は漁ったのだ。
「これ」
差し出されたのは中学時代の卒業アルバムだった。青色の布張りのそれはケースのおかげで日焼けをせず見た目は新しいものと見分けがつかない。
「と、あれ」
アルバムを持った手とは反対側の手で学習机を指差す。机は整理整頓されていて特に目新しいものはない。
「壁、コルクボードに写真が貼ってあるだろう?お姉さんじゃない方の女の子。中学の頃の同級生だ」
ほら、と開いたアルバムの一ページを見せる。姉が所属するクラス一覧に言われてみればそれらしい少女の写真が印刷されていた。
「でも顔ちがくねえか」
「メイクだよ。ホクロの位置と鼻の形が同じだ。あとボードに貼ってあるプリクラの名前と一致する」
大学で垢抜けたのか言われても首をかしげるほど顔が違うが確かに口元のホクロの位置が同じだ。鼻の形はわからん。でもメイクってすごいんだな。
「……よくわかったな」
「偶然だよ。で、連絡先もアルバムに書いてある。家電だから出るかわかんないけど」
後ろから数えた方が早い白紙のページにその友人と名前と住所、電話番号が書かれていた。他にも白紙いっぱいに沢山。姉は人気者だと思う。俺なんかここ白紙だ。
「きみならこの女の子は一発で分かると思ったんだけど。家に遊びに来たりしなかったのかい?」
「思春期の非モテが歳上の女と顔合わせられるわけねーだろ。来る前に外に逃げてたわ」
「顔の覚えも悪いし?僕のこともすぐに気づいてくれなかったよね」
「お前のは女のメイクと同レベルだろうが」
薄汚れたホームレスが金持ちイケメン探偵とか今日日恋愛小説でも見ねえぞ。俺が女だったら多分まんま恋愛物の主人公だ。でもメンヘラだから俺が女の子だったら家に来た段階で警察呼んでたかもしれない。だってこえーもん。
「お前俺が男でよかったな」
「?」
でもこんなに顔が整ってるなら許されんのかな。モデルやアイドルだったとしても目を惹く外見。これが自分(女)のストーカーだったら?
……いや普通に怖いわ。
「電話かけるね。日南くんは電話聞く? スピーカーにしても構わないけど」
「じゃあそうしてくれ」
返事を聞くと慣れた手つきで固定電話の番号をスマートフォンに打ち込んだ。数回の呼び出し音が切れ、若くはない女性の声に迎えられる。
「羽山さんの御宅でしょうか?」
『はい……そうですけど、どちら様?』
「私、弥生さんの同級生の葛西と申します。来月の同窓会の件で弥生さんとお話したいのですが今ご在宅でしょうか?」
『あぁ、ちょっと待ってくださいね。今呼んできますから』
軽快な保留音。それに、ふうと息をつく葛西の頭を俺はぶっ叩いた。
「いたっ」
「お、おま………何嘘なんかついて………!」
「でも怪しまれて最初に電話切られたりしたら大変だよ?」
「嘘ついたら余計怪しまれるだろうが!」
「探偵って詐欺師みたいなものだから……」
「答えになってねえんだよなぁ……」
やいのやいのと騒いでいるうちにスピーカーから流れる電子音が途切れる。その代わりに出てきたのは写真とはイメージが違う、気弱そうな女性の声だった。
『………もしもし』
「羽山弥生さんでよろしいですか?」
『そうですけど……』
「先ほどは嘘をついて申し訳ありません。私、葛西探偵事務所の栗花落と申します。羽山様、亡くなったご友人に日南さんという女性がいらっしゃいますね?」
『…………芽衣子のことですか?』
「はい。その弟さんの新様からの依頼なのですが、芽衣子さんの事を調査する上で親友である羽山様に芽衣子さんについてお聞きしたい事があるのです。お話を伺うことは可能でしょうか?』
『親友だなんて……。でも、はい。いいですよ。こういうのって直接顔を合わせて話した方がいいんですか?』
「可能であれば」
『わかりました。あの、でも出来れば人が多いところがいいんですけど……』
「流石に怖いですよね、すみません。それではお昼過ぎに駅前のファミリーレストランはどうですか? あそこでしたら人が途切れることはないですし、近くに交番もあるので少しは安心かと。日にちに関してはそちらにお任せします」
『はい……それでは……』
それから数分の相談の後、何のトラブルも無く通話は終了した。自分のスマホをしまうと葛西は先ほどの雰囲気が嘘のように脱力する。
「ふう、相手が頭良くなくて助かったねえ……」
「えっ、なんかダメなところあったのか」
「不自然だらけだよ。疑われたら終わりだった。だってさ、今回は話を早く進めたかったから君の名前出したけど本当は守秘義務とか色々あるんだよ? サイトとかは昨日の内に作っておいたけど、アレも詳しかったら見ただけで実在しないとこってすぐバレちゃうし」
「元探偵ならそこらへん昔みたいにやってくれよ」
「今はただの個人だからね。やり方も違うよ~~」
そんなもんなんだろうか。探偵どころか社会のこともよくわからないからどうもいえないけれど。
「でもこれで一人確保だよ。何かわかるといいね」
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