嘘つきミーナ

髙 文緒

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第二話 14歳の夏

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 興奮してますます高くなっていく萌加の声を押さえつけるようにあやのが声を重ねるが、萌加の声はそれを突き破って天井まで突き刺さらんとする。

 老人たちが声を潜めて何ごとかつぶやき合うのが、内容までは聞き取れないが微細びさいな空気の振動で伝わってくる。
 仕方なしに、四人で萌加の背を押すようにして奥の開拓時の道具コーナーに移動した。


 五人は涼しい場所を探して猫のように移動し続ける。

 気温の下がる頃合いでやっと公園に移動した五人は、生い茂った葉が濃い陰を作る藤棚の下のベンチに居た。
 この公園も、先の資料館で見たところ、射撃訓練場だったらしい。だだっ広い公園は、土地の余った北海道の狂った遠近に従って、ただ広いだけかと思っていた。

 しかし今では歴史由来の理由を知っていしまっている。
 日の長い北海道の夏の夕方。涼しい風が吹き抜けて、のんきに犬の散歩をする人々が絶えず往来するその景色に、白黒の航空写真が重なって、ミナはまたうっとりと場に浸っていた。

「来週の花火大会、アツシ先輩に誘われちゃった!」

 萌加の言葉にミナは現実に引き戻された。

「アツシ先輩って、ずっともえが推してた人じゃん」

 ミナが前のめりになって返すと、萌加は大袈裟おおげさに両手を顎の下で組んでみせた。

「だよー! 卒業してからもおっかけ続けてんだけど、ついに向こうから花火行こって! ヤバない?」

「来週の花火って山の方のだろ? 霊園の先の。夜にバスで行く感じ?」

 裕太がそれなりに調子をあわせて返すが、目線は手元のスマホゲームにそそがれ続けている。

「あそこも結構出るみたいな話あるよね、ライトアップとかもあるらしいから盛り上がるんだろうけど」

 「人なんかどこでも死んでますう! そんなこと言ってたらどこにもデート行けないしょ。夜の山だから寒くなるし、ちゃんと暖かくしてきなよ、なんて言ってくれて、マジでアツシ先輩推してて良かった~! って感じなんだから! 大体さえぴは怖がりすぎだよ。そんなんじゃ裕太とお祭りデートなんか出来ないよ!」

 小枝子が水を差すと、萌加は演技過剰に頬をふくらませてみてから、小枝子と裕太いじりへと戦法を変えたようだ。

「どういうこと? 二人そういう感じなん?」

「そうだよー! ミーナって全然気付かないよねえ」

「ちょっと待ってよ、そういう感じって何? まだ私達そんなデートとかっていう段階じゃないっていうか、私がまだ街に慣れてないから裕太くんが気にしてくれてるっていうか」

「まだ全然そういうんじゃないから! 変なこと言うなよな」

 いつの間に、という衝撃で思わず声をあげたミナに、小枝子と裕太が言い訳めいたことを返すが、ますます萌加の指摘が本当らしいという印象を抱かせるだけだった。
 萌加、小枝子、裕太がそれぞれに14才の夏を満喫まんきつしようとしているなか、自分は何も変わらず小学校からの、いや、幼稚園からずっと、同じ場所で似た顔ぶれのなか過ごす夏を無邪気に信じていたのかもしれない。

 そう感じたミナが、幼稚園からずっと一緒で一番の親友だと思っているあやのに意識を向けたときだ。

 あやのはいわゆる恋バナが好きなはずで、萌加のアツシ先輩推しトークにも喜んで乗っていたのに、今の会話の応酬のなかで何も発言していないことに初めて気付いた。

 ぼうっとスマホを眺めているあやのの手元を覗き込むと、画像フォルダに赤ん坊の写真が沢山収納されている。
 先日生まれたばかりの弟の画像だ。
 文句が出ないのを良いことに隣から手元を覗きこみ続けていたら、一枚の写真が表示されたところであやのの手が止まった。
 それは命名書めいめいしょを貼ったベビーベッドの周りであやのの両親とあやのが笑顔で写っている画像だった。

「可愛いね、弟くん」

「タイキはすっごく可愛いよ……。可愛い、うん。それに、ママもパパもうちも、この時本当に嬉しくて、幸せで、いい家族っぽかった」

 かろうじてミナの耳に届くだけの声で言うと、あやのは画像を閉じてしまった。

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