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3巻

3-3

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「アレク様、離れてください!」
「アレク! 行くぞい!」

 アレクが戦っている間に魔力を最大まで練り上げることに成功したパスクとマンテ爺が、アレクを巻き込まないように、ナンバー5から離れるようアレクに言う。
 それを聞いたアレクは、全力でナンバー5を空高く殴り飛ばして地面に倒れた。

「クソ! 許さねぇ許さねぇ!」

 ナンバー5は空中で再度黒いオーラを出して傷を再生させる。

「もう終わりにしましょう。アレクくんの頑張りを無駄にはできませんからね。《拘束バインド》! ちなみに、最大魔力なので簡単には解けませんよ」

 オレールがナンバー5に向けて、体の動きを拘束する魔法を使う。
 そして動けなくなったナンバー5は、パスクとマンテ爺が放った最大威力の魔法に呑み込まれた。

「ぐわぁぁぁぁぁ! クソッ、このままじゃ終わらねぇからなぁぁぁ!」

 その最後の言葉もむなしく、ナンバー5は見事に消滅した。
 敵の最後を見届けたオレールは、倒れているアレクに駆け寄る。

「アレクくん、大丈夫ですか? これをすぐ飲んでください」

 オレールは必死に呼びかけるが、アレクは目を覚まそうとしない。
 しかも、使い手であるナンバー5が消滅したため、魔法で作り出された剣も消えて、傷口から血が噴き出している。

「本当ならエリクサーがいいのでしょうが……仕方ありませんね」

 そう言うとオレールはアレクにエクストラポーションを飲ませる。
 傷は治ったが、アレクは一向に目を覚まさなかった。


 ◆ ◇ ◆


 アレクは目を覚ますと、自分が森の中にいることに気付いた。
 鳥がさえずり、緑のいい香りがして、キラキラときらめく風景がとりまく神秘的な場所である。

「あれ? 俺は戦っていて……敵を殴り飛ばして……ん? そのあとどうしたんだっけ? それにしても、ここはどこだろう?」

 アレクは見たこともない場所に来ているにもかかわらず、焦る気持ちはかなかった。逆に、落ち着く空間だなと思える。
 今自分がいる場所がどこかを確かめるために、アレクは周囲を探索することにした。

「ふわぁぁぁ。なんだろ? この布団に入ったような、安心できる何かに包まれているような気分は……」

 歩きながら大きな欠伸あくびをするアレク。
 なんだか、もうこのままこの場所にずっといてもいいかなと思い始めている。
 そうしていると、森を抜け、大きな湖と、その近くに家がポツンとある場所に出た。
 アレクはなんの迷いもなく、その方向に歩いていった。
 湖の近くに来たアレクが水面を覗き込むと、あれだけ戦っていたはずなのに、傷一つついていない綺麗な体が映った。

「なんじゃ? 来てしもうたんか」

 後ろから急に声が聞こえたので、アレクは驚いて、「わぁっ」と声を上げてしまう。

「驚かせてしまってすまんのぅ。じゃが何故、渉……いや、今はアレクじゃったな。アレクがこの場所におるんじゃ?」

 綺麗な白い衣装に身を包んだ、白髪しらが頭で顎髭あごひげが長い老人から、前世の名前と転生してからの名前を言われて、アレクは驚く。

「え? 何故、俺の名前を、しかも転生前の名前も知っているのですか? それと、ここはどこですか?」

 アレクの焦った様子に、顎髭を触りながら、老人は何かを納得したような表情になる。

「そうじゃな。まずはその説明をしてやらんといかんな。ワシは創造神じゃ。そして、ここはワシがこしらえた特別な空間じゃ。何故アレクがこの空間に来たのかはさっぱり分からんが、下界で何かあったのかのぅ?」
「創造神様ぁぁぁ!? いやいやそんなわけ……でもこの奇天烈きてれつな空間に、そのザ・神様チックな身なり……本物ですか‼」

 アレクは本物の創造神に驚いてそう言ったあと、固まってしまう。

「そうじゃ。まぁ立ち話もなんじゃな。そこのわしの家で、茶でも飲みながら話してくれんか」

「こっちじゃ」と言う創造神に、アレクはついていく。
 家に入ったアレクが案内されるがままに席に座ると、お茶と茶菓子が目の前に置かれた。

「さぁ、茶と菓子を食べてとりあえず落ち着くんじゃ」

 アレクは言われた通りにお茶を飲み、茶菓子を食べる。
 お茶を飲み切ったあたりで、創造神がアレクに問いかけた。

「うむ。そろそろええかのぅ? 下界で何があったんじゃ?」
「黒い服を着て黒いオーラを放つ二人組が襲ってきました。俺は無我夢中むがむちゅうで戦ったのですが、途中から記憶がなくて……」

 刺されたあたりから記憶が途切れているアレクは、説明したくても上手く説明できない。

「ちょっと待ってくれんかのぅ」

 そう言うと創造神は目を瞑り、下界の過去を探り始める。
 そして、しばらくすると目を開けて頷いた。

「よく死なずに生きておったのぅ。今は非常に珍しい状態じゃ。なんとか生き返ったはいいが、一度生死を彷徨さまよった時に、魂が肉体から離れてしまったんじゃ。運よくここに来れてよかったわい」
「魂だけ……少し不思議ですが、納得しました。ありがとうございます」

 アレクは礼を言ったあと、気になっていたことを質問した。

「魂だけなら、今の俺は高橋渉の姿をしていてもおかしくないですが、何故アレクの姿を取っているのですか?」
「神界にも共通することじゃが、ここでは生前の肉体が勝手に形成されるようにできておるんじゃ」

 創造神の説明を受けて、アレクはそういうものだと無理矢理自分を納得させた。

「創造神様、もう一つ質問です。あの敵は何者なのですか?」

 その質問に創造神は、すぐに言葉を発しようとはしない。
 そして、しばらくしてお茶をすすってから話し始めた。

「あれは……ルシファーが作った組織の一員じゃ。かつて、神界で大罪を犯したルシファーをばつとして消滅させたんじゃが、どうやら魂の一部を下界に逃して完全に消滅することをまぬかれておったようでの。組織を率いて悪事を働いているんじゃ」

 ルシファーの名前には聞き覚えがあった。かつて教会で祈りを捧げ、神界にいる女神イーリアと会話した時に、恐ろしい敵として注意するよう言われていたのだ。

「下界に干渉できない決まりになっているワシらには、どうしようもできん。それをルシファーは上手く利用しとるんじゃよ。ワシが逃したばかりに、アレクの周りの人々に取り返しのつかない迷惑をかけてしまったわい。本当にすまんのぅ」

 創造神は本当に申し訳ないというような表情をして話している。

「そんなことが……でも創造神様が悪いわけではなく、全てルシファーが悪いのです。ルシファーは何を目的としてそんな組織を作ったのですか?」
「完全に復活するためじゃよ。人間が恐怖を感じた時に発生する、カルマという負の感情のエネルギーを集めておるんじゃ。アレク達が狙われとるのは脅威と感じているからじゃ。ことごとく計画が潰されておるからのぅ」

 創造神が話し終わると、ガチャッとドアの開く音が聞こえた。

「あれ? 創造神様、お客様です……か。えっ……僕?」

 アレクが振り返ると、そこにはアレクそっくりの人物が立っていた。

「え? 俺?」

 目の前に同じ顔の人間が現れて、思わず固まってしまう二人。


 二人とも次の言葉をなかなか発することができずにいると、創造神が口を開く。

「本来なら会うのはまだまだ先だったのじゃが……とりあえず座るんじゃ。説明しようかのぅ」

 そう言われてアレクそっくりの人物は黙って席に座る。
 創造神は亜空間からお茶入りの湯呑ゆのみと茶菓子を出して、もう一人のアレクの前に置く。

「まずはお互いが誰ということじゃな。今入ってきたアレクは、アレクの体の元々の持ち主で、今の呼び名はヒルコという。そしてこっちのアレクが、渉という今のアレクの体に入っている魂じゃ。さて、ヒルコは死んでここに来たことは覚えておるかのぅ?」

 創造神がヒルコに対して質問をする。

「はい! 僕はヨウスお兄様に殺されました。そして、気付いたらここに来ていました」
「そうじゃ。そして、それを見ていたアリーシャ……アレクの母親が息子の無念を晴らしたいがために、異世界から渉の魂を連れてきて、アレクの体と結合させたんじゃよ。渉には説明もなくアリーシャのわがままだけで転生をさせてしまい、すまんかったのぅ……」
「創造神様、謝らないでください。俺は毎日楽しくやっていますし、バーナード家でアレクに起こったことには、怒りを覚えましたからね。色々ありましたが、アレクに転生できてよかったですよ」

 アレクは頭を下げる創造神に対して、そんな言葉をかける。
 普通なら取り乱すような話だが、二人のアレクは真剣に話を聞いていた。
 それを見た創造神は「ふぅ~」と安堵の息をつく。

「二人ともできた人間じゃ。普通なら、もっと問い詰めとるぞ。ワシは二人に助けられたわい」

 創造神はそこで湯呑に口をつけ、のどうるおしてから再度アレクに向かって語り出す。

「ヒルコ、アレクはヨウスとの決闘に勝ち、バーナード家の不正は暴かれて、家長のディランは処刑され、他の使用人は鉱山奴隷となったぞい。しかし、以前話したルシファーの組織手助けによって、長男ヨウスは鉱山から逃げ出したんじゃ。しかもヨウスはルシファーの組織に入っておる」

 ヒルコは知らされていなかった下界の事実を聞いて、驚きの色を隠せずにいた。
 アレクもヨウスが鉱山から逃げた事実と、ルシファーの組織に入ったことを初めて知って驚く。

「渉さん、ありがとうございました。僕の代わりに色々無念を晴らしてくれて。でも悔しいな。僕もヨウスお兄様に一度は勝ちたかったです」

 アレクは自分に頭を下げるヒルコを見て、この体の元々の持ち主は、綺麗な心の持ち主だったんだなと感じる。

「お礼を言うのはこっちだよ。あの体を貰えたから、今の楽しい毎日を送れているしね。こちらこそありがとう。それはそうと創造神様、鉱山奴隷が逃げてヨウスが組織に入ったって、本当なのですか?」
「本当じゃよ。国王が行方を調べておるが、捕まえられていない。場所を教えてやりたいんじゃが、下界への干渉になってしまうから教えられん、すまん……それと、ヨウスは前と比べ物にならんくらい強くなっとるぞい。もし対峙たいじする機会があったら、十分気を付けるんじゃ」

 アレクはまたまた厄介事が舞い込みそうな予感に、頭が痛くなった。
 そんな話をしていると、またもガチャリとドアが開く。

「ただいま帰りましたよ。あら、お客様……って何故あなたがここにいるのですか!」
「え!? アリーシャ様!」

 渉を転生させた張本人である、アリーシャが家に入ってきた。

「ホッホッホッホ! 今日はにぎやかじゃな。ほれ、アリーシャも座るのじゃ」

 創造神にそう言われアリーシャもアレク達と同じように椅子に座るが、なんだか落ち着きがない。

「アリーシャ、罪悪感があるなら、自分の口から全て話して理解してもらうんじゃ」

 創造神に促され、アリーシャは自分の心境を吐露とろし始めた。

「そうですね。渉さん、あの時は急に呼び寄せて、だますような感じで転生させてしまってごめんなさい。本当にごめんなさい」

 アリーシャは手で顔を覆い大量の涙を流す。

「俺は怒っていませんよ。転生させていただいた感謝こそすれ、恨んだりはしていませんから、泣かないでください」

 アリーシャはその言葉を聞いて余計に泣き出して「ありがとうありがとう」とずっとお礼を言っている。
 アリーシャが泣き止んだあと、アレクが何故ここに来てしまったのか、下界でどのようなことが起こっているのかなどを伝えた。
 それが終わると、アレクとヒルコは二人で外で遊ぶことになり、創造神とアリーシャは二人きりで話し始める。

「創造神様、渉さん――今のアレクを救ってあげることはできないのですか?」
「救ってやりたいが、アリーシャも理解しておる通り、下界には手を出せんのじゃ」
「その通りですが……渉さんに何かお礼をしないと、私の気が済まないのです! どうにかなりませんか?」

 アリーシャはバーナード家に報いを受けさせて、自分と息子の無念を晴らしてくれた渉に対して、何か助けになるようなことができないかという気持ちから、語気を強めて尋ねる。

「言いたいことは痛いほど分かるがのぅ……それが、神界のおきてじゃわい。アリーシャが何をしようとしておるかは手に取るように分かるが、絶対してはならんぞい。息子を再度悲しませることになるんじゃからのぅ」

 下界に干渉すると、罰として一生幽閉ゆうへいされるか消滅させられてしまう。そうなれば、ヒルコが悲しむことは言うまでもない。

「はい……」
「ワシはアレク達の様子を見てくるのでのぅ。少し一人で考えてみるんじゃ。ワシらには時間がたっぷりあるからのぅ」

 創造神はニコッと笑って外に出て、アレク達がいる方へ向かった。
 そこでは、アレクがヒルコに魔法を教えていた。
 なんだか兄弟みたいで微笑ほほえましいのぅ、と創造神は思わず微笑む。

「魔法の訓練かのぅ?」

 創造神の問いかけに、ヒルコが元気よく答える。

「はい! 僕は魔法が苦手だったので、色々教わっています。ほら見てください。《火球ファイアボール》を撃てるようになりました」
「おっ! 凄いのぅ。じゃが、魔力操作がなっておらんのぅ。《火球ファイアボール》にしてはありえん破壊力じゃわい」

 ヒルコが湖に撃ち込んだ《火球ファイアボール》は水を蒸発させて湖底に大きな穴を開けていた。だが、神の空間なので一瞬にして再生される。
 ヒルコは「えへへ」とやっちゃいましたというように笑いながらも、初めてまともな魔法を行使できたことに喜ぶ。
 微笑ましい光景の中で、アレクは不思議に思っていた。

「何故、ここまでの威力の魔法を撃つことができるのに、生前のアレクくんは魔法が使えなかったのですか?」
「生前のアレクの魂には、魔法の素質が備わっていなかった、ということじゃのう。今は、ワシが作り直して神力が備わった体にしたから、ここまで使えるようになったのじゃ。まだ見習いにすらなっておらんが、神になる素質のある体ということじゃな」
「僕、頑張って修業します。みんなに幸せを与えられるような神様になりたいです」
「ヒルコならいい神様に絶対なれるよ。その時は俺と大事な人達に祝福を与えてくれると嬉しいな」
「はい! 祝福を与えられるような立派な神様になってみせます」

 アレクの言葉に、ヒルコは元気いっぱいにそう宣言する。
 ちょうど家から出てきてそれを聞いていたアリーシャは、息子の成長した姿に涙しながらヒルコに抱きついた。

「凄く成長したわね。母として嬉しいわ」
「お母様、恥ずかしいですから……」

 ヒルコは顔を真っ赤にしているが、アリーシャは一向にヒルコを離そうとしなかった。
 それを見ていた創造神は、あることを思いつく。

「アレクも二週間だけ一緒に修業をするというのはどうじゃ? ここならどれだけ壊してもすぐ再生するからのぅ」
「本当ですか? 是非お願いしたいです。創造神様、ありがとうございます! ヒルコ、やったね!」
「一緒に修業頑張りましょう!」

 二人は手を取り合ってジャンプしながら喜んだ。
 そうして修業を始めた二人だったが、二人の喜んでいる一方で、下界では大変な事件が起きていたのだった。


 ◆ ◇ ◆


「アレクちゃ~ん、なんでアレクちゃんがこんなことに……」
「奥様、お腹の子に響きますから、落ち着いてください。アレク様ならきっと目を覚ましますから」

 カリーネは毎日アレクに寄り添って声をかけ続けていた。
 新しい生命がお腹に宿っているにもかかわらず、毎日寄り添っている。

「もう二年も目を覚ましていないのよ! 二年よ……なんでなんで……今頃学校に通って友達と楽しい毎日を送っていたはずだわ!」

 そう、実はあの創造神が作った特別な空間の中は、時の流れが非常にゆっくりなのだ。
 そのため、アレクが二週間を過ごすうちに下界では二年が経っていた。
 創造神のうっかりでアレクはその事実を知らないまま、魔法の修業に励んでいた。
 カリーネの言葉に対してメイドのネリーは、見ていることしかできない。
 その時、アレクの口がわずかに動いた。

「お母……さん……」

 泣いてベッドに顔を伏しているカリーネにはその声は届かない。

「奥様! ア、ア、アレク様が目を覚まされました!」

 無礼であるため、普段なら絶対しない行動だが、慌てたネリーはカリーネの肩を揺すって知らせる。

「え!? アレクちゃんが!」
「お母さ……ん、おはようござ……います。喉がカラカラで上手く話せま……せん」

 それを聞いたカリーネは感情が一気に溢れて、ドバドバと滝のような勢いで涙を流す。

「お母さん?」
「ア、アレグぢゃぁぁぁん。よがっだわ」

 嬉しさのあまりギュッとアレクを抱きしめる。

「お母さん、苦じいぃぃ」
「あ! ごめんなさい……あまりに嬉しかったものだから……それより痛いところはない? 気分は悪くない? それからえっと……」

 カリーネはアレクが目覚めたことで取り乱してしまう。

「お母さん、大丈夫だよ。喉が渇いたくらいだから」

 慌てるカリーネに、苦笑いを浮かべながらアレクは大丈夫だと話す。

「ネリー、早く水を持ってきてちょうだい」
「お水は用意してあります。アレク様、どうぞ」

 ネリーから水を受け取って、アレクは一気に飲み干す。
 ネリーは何も言わずにもう一杯注いだ。
 アレクは入れてもらった水をもう一度勢いよく飲んで、カラカラだった喉を潤す。

「ネリーさん、ありがとう。それからお母さん、心配かけてごめん」

 喉を潤したアレクはカリーネの顔を見ながら頭を下げて謝る。

「ほんとそうよ。二年間も目を覚まさなかったのよ。もう二度と目を覚まさないんじゃないかと思ったわよ」
「えぇぇぇ、二年!?」

 創造神からはそんなことを一切聞かされていなかったアレクは、驚きを隠せない。
 修業していたのはせいぜい二週間ほどなので、あの空間での一週間が下界の一年にあたる計算だ。

「そうよ! 本当に心配したわ。もう無茶はしないと約束して……私にとってアレクは大事な息子なんだから」

 カリーネの表情や言葉から本当に心配してくれたのだということが分かり、アレクは申し訳ない気持ちになる。
 同時に、カリーネの体に起きている変化にも気付いた。

「ごめんなさい……もう無茶はしません。それで、あの~。お母さんのお腹が大きいのって……まさか……」
「そうなのよ。アレクちゃんの弟か妹よ。もうすぐ生まれてくるわ」
「お母さん、おめでとうございます‼ 弟かな? 妹かな? どっちにしても可愛いんだろうなぁぁ」

 アレクがそんなことを言っていると、ドアが急に開き、ヨゼフ、ナタリー、ノックスが入ってきた。

「アレク~、よかった。心配したんじゃぞ」
「アレク様、目を覚まされて本当よがっだです」

 ヨゼフとナタリーは半分泣きながら、アレクが目を覚ましたことを喜んでいる。

「やっと目を覚ましやがったか。寝てる間どれだけ心配したことか……ってアレク坊、どこかで修業でもしてきたのか?」

 ノックスは現在のアレクの強さを一目で見抜いた。それに対して、アレクは心配よりもそこを指摘してくるのが師匠らしいなと思う。

「えっと、師匠、あとでお話が……」
「アレク様、ご無事で何よりです。私とマンテ爺がもっと早く攻撃していればこんな目に……申し訳ございません」

 アレクが話そうとした時、パスクから二年前の戦いでの出来事を謝罪される。

「アハハ! 二人のせいじゃないから。俺が油断したのがいけなかったんだ。二度と油断はしないから、次は大丈夫だよ」

 アレクは首を横に振って笑い飛ばす。

「アレク! もう無茶はしないと約束したわよね? また戦う気?」

 カリーネはアレクの次は大丈夫という言葉を見逃すことはなく、そう問い詰める。

「え!? 当分は戦いませんが……」
「当分? もう戦いは許しません」

 凄い形相ぎょうそうとなったカリーネが、アレクに顔を近付け釘を刺す。

「え? えぇぇぇ~そんなぁぁぁ」

 アレクは天まで届くのではないかという叫び声を上げ、そのままガックリと肩を落とす。
 その光景が面白かったのもあるが、アレクが本当に元気になったんだなと感じて、全員が自然と笑顔になった。


 ◆ ◇ ◆


 アレクが目覚めてから二日が経った。
 カリーネからまだ外出許可が下りていないので、アレクは部屋の中でできることをするしかない状況だ。

「大分体が動くようになったけど、まだまだ駄目だなぁ。それよりも、二年動かないとここまで筋肉が落ちてしまうなんて……」

 二年間寝たきりだったので、体が固まって思うように動かせない状況になっていた。
 アレクがもしもの時のために備蓄しておいたエクストラポーションを、セバンの提案で寝たきりのアレクに点滴で接種させていたために、筋肉は比較的いい状態でキープされている。
 さらに目が覚めて改めてエクストラポーションを飲むことで、アレクは起き上がって活動するくらいならできるようになった。
『筋肉緩和薬』を飲んでストレッチをすることで、多少の運動もできるようにはなっているが、いつになったら向こうで修業した時のように動けるのか分からない。
 他の薬を飲むことも考えたのだが、外傷を治す薬はあれど、固まった筋肉をすぐに元に戻す薬は見つからなかった。

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