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3巻
3-2
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セバンとナンバー3が戦い始めた頃、ルーヘンとナンバー5も動き始めた。
「俺達もそろそろ始めようぜ。空は飛ばないでやるからよ」
「アハハ。それはありがたいね」
ルーヘンは自分より強そうなナンバー5を見て、嫌な役回りだなと思いながらも、覚悟を決める。
「《幻影剣》! こいつからは逃げれねぇから諦めな、騎士様」
ナンバー5が魔法を使うと、剣先がルーヘンの方を向いた無数の剣が、ナンバー5の空中に浮かび上がった。これは無数の剣を生み出す魔法だ。
「厄介だね。僕も本気を出そうかな。〈剣術〉と《障壁》」
ルーヘンは剣の扱いを向上させる〈剣術〉のスキルと、体の周囲を守るシールドを展開させることができる《障壁》という魔法を同時に発動させた。
ちなみに、スキルとは生まれつき身体に備わった能力のことで、魔法と違って訓練によって習得できるものではない。
「すぐにくたばらねぇようにな」
ナンバー5がそう言った瞬間、無数の剣がルーヘンを襲うが、ルーヘンは凄まじい速度で剣を振るって全ての剣を消滅させていく。
これ以上出されると限界を迎えると悟ったルーヘンは、相手を挑発して隙を作ろうとする。
「僕の方が速いし、魔力も上のようだね。こんな遅い攻撃、当たらないね」
「調子に乗んじゃねぇぞ。じゃあ見せてやるよ、俺の本気をな」
さっきの倍以上の剣が空中に浮かび上がり、ルーヘンに襲いかかる。
だが、《障壁》に当たり防がれるため、ナンバー5の攻撃が届くことはない。
「やるじゃねぇか。じゃあ、こいつに耐えられるか見てやるよ。《爆発》」
連続で発動する《爆発》をルーヘンの《障壁》が防ぐ。
しかし、ナンバー5の攻撃は終わらず、《幻影剣》も飛んでくる。
無数の剣をなんとか消滅させるルーヘンだったが、連続する《爆発》に《障壁》が耐えきれず、ついに爆発をまともに食らってしまった。
「ぶっははは弱いな。これで終わりだ」
吹き飛ばされて横たわるルーヘンに近付いたナンバー5は、腰にある剣を引き抜き、とどめを刺そうと振り上げる。
振り下ろされた剣を、ルーヘンは間一髪、腕で受け止めた。
「アハハ。この時を待っていたよ。《威圧》」
《威圧》は相手の動きを止めることができる魔法だ。
これによってナンバー5は体が硬直してしまう。
ルーヘンは立ち上がって剣を引き抜き、フラフラしながら近付く。
そして、動けなくなったナンバー5の胸に剣を突き刺した。
「ぐふぉぐふっ」
苦痛で声を上げるナンバー5は、口から血を吐いて、そのまま倒れた。
それを見たルーヘンは尻もちをついて息を整える。
身に着けていた鎧がボロボロになり、体は火傷で酷い状態だ。
アイテムボックスからポーションを取り出して飲み干し、その場で倒れる。
「ふぅ、疲れた。もうこんなこと二度とやりたくないよ」
「ぐほっぐふっ……死ね《幻影……」
ルーヘンの気が抜けた瞬間、ナンバー5が起き上がって最後の足掻きとして魔法を使おうとする。
しかし、発動する前に後ろから誰かに首を斬り落とされた。
「ギリギリでしたね。大丈夫ですか? 団長?」
助けに現れたのはヘリオスだった。
ルーヘンは安堵の表情を浮かべると、「来るのが遅いよ」と言って両手両足を広げて横になった。
「疲れてもう死にそうだよ。もうこの体は戻りそうにないね。騎士団を引退してゆっくりしようかな?」
「こんな時に何を言っているのですか! これを飲んでください。回復しますから。無理矢理にでも治して、団長でいてもらいますからね」
ヘリオスはルーヘンにハイポーションを飲ませて回復させる。
ルーヘンはハイポーションを全部部下に持たせていたので、低品質のポーションしか持っておらず回復しきれなかったのだ。
「あ~あ、これでまた働かないといけなくなっちゃったよ。とりあえず、セバンさんを……ってあそこに加勢するのは邪魔になるね」
ルーヘンとヘリオスの目の前では、今まで見たことがないほど、激しい戦闘が起こっていた。
とても加勢できるレベルではないと感じた二人は、乾いた笑いを出すのだった。
◆ ◇ ◆
ルーヘンによってナンバー5が倒された後も、セバンとナンバー3の戦闘は続いていた。
ナンバー3は相変わらず邪悪な笑みを浮かべて、この状況を楽しんでいる。
「僕と対等の実力……素晴らしいねぇ……あぁ、ヨダレがまた出てきちゃったよ。もう我慢できない……殺り合おうよ」
「完全に戦いに取り憑かれていますね。では、やれるだけやりますか」
そう答えながら、セバンは密かに自分の周りに魔法で罠をしかけていた。
それを知らないナンバー3はセバンに襲いかかってくる。
「アハハハハ~死んじゃえぇぇ」
ナンバー3がセバンまであと5メートルほどのところへ近付いた瞬間、《土針山》の罠が作動する。
地面から土でできた針が出て、ナンバー3に直撃した。
だが、ナンバー3は何もないかのように突っ込んでくる。
「厄介すぎますね。《土流波》」
セバンが魔法を使うと、土が波のようになりナンバー3へ襲いかるが、ナンバー3は笑みを崩さない。
そしてそのままセバンの目の前にたどり着く。
「《氷剣》、アハハハハハ、死ねぇ!」
ナンバー3は氷でできた剣を作り出し振り回した。
セバンは《雷旋風》と《身体強化》でギリギリかわしているが、組織のボスであるゼロに強化されたナンバー3の剣速は上がっていった。
ついにかわしきれなくなったセバンは、胸をざっくり斬られてしまう。
「ウッ、はぁはぁはぁはぁ」
斬られたセバンは呼吸を乱しながらも、打開策を見つけようと頭をひねる。
「これで終わりだよぉ。アハハ、呆気なかったね。バイバ~イ」
ナンバー3がセバンに斬りかかろうとした瞬間、セバンは魔法を使い、彼の周りを雷の壁で覆って入られないようにした。
「《雷障壁》」
「アババババ……痛いよ。もう悪足掻きをするねぇ」
ナンバー3は感電しながらも《氷剣》で斬りつけたり、魔法を撃ち込んだりするが、セバンは《雷障壁》を保って耐えている。
しびれを切らしたナンバー3が必殺の魔法を放つ。
「《絶対零度》!」
セバンを氷の壁が覆い、姿が見えなくなった。
ナンバー3が氷の壁を殴って壊すと、セバンがいた空間からブワッと強風が吹き荒れて蒸気が溢れ出した。その風圧で、ナンバー3が吹き飛ぶ。
蒸気が収まると、体の傷が治り、目が真っ赤に充血して体も真っ赤になったセバンがいた。
セバンは凍りつく前の一瞬で、アレクから渡されていた『凶化強靭薬』を飲んでいたのだ。
五分間、理性失う代わりに強大な力を得るが、その後全身の筋肉が断裂を起こして激痛を味わうという副作用を持つ薬だ。
「これは凄いですね。少し油断をすれば意識を持っていかれそうですよ」
セバンは強い精神力で理性を失うことを抑えている。
だが、五分しか時間がないことを事前にアレクから聞かされているので、ナンバー3に近付いて一気に終わらせようと殴りつける。
「グハッ……」
流石のナンバー3も、薬で大幅に強化されたセバンの攻撃になす術がない。
セバンはこれが最後だろうとさらに殴り続け、とどめの一発とばかりに、最大威力の雷魔法《稲妻饗宴》を放つ。
その攻撃はナンバー3に直撃し、ナンバー3は黒焦げになった。
「ハァハァ……まだ安心はできませんからね。最後に……」
「アハハアハハ、アへへへへ……」
殴ってとどめを刺そうとしたセバンの前で、ナンバー3はおもむろに立ち上がり真っ黒いオーラを放つ。
するとみるみるうちに傷や骨折した箇所が治っていった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
うめき声を上げつつも、完全に回復したナンバー3が攻撃の構えを見せた。
これはまずいと思ったセバンは、ナンバー3を再度殴りつける。
《稲妻饗宴》を使った影響でMPを使い果たしており、これしか手段がない。
そこで無表情だったナンバー3が急にニタッと笑う。
「アハハ、アハハ!」
そして、ナンバー3はセバンに殴りかかる。
セバンとナンバー3は至近距離で殴打の応酬を始めた。
セバンはもう薬の効果時間が時間がないと焦るが、打開策は見つからない。
ルーヘンとヘリオスは助けに入ろうとしたが、二人の凄まじい攻防を目の当たりにして、足がすくんで動けずにいた。
「アハハ、楽しいよぉ」
「くっ……それはよかったです」
セバンの攻撃はナンバー3に一切効いてない。やがてジリ貧になり、セバンは押され始めた。
そして、セバンはナンバー3の一撃を食らい、屋敷の近くまで吹き飛ばされてしまった。
「アハハハハハ……あちゃー、もうおもちゃが壊れちゃった」
そう言うと、ナンバー3の体から黒いモヤが消える。
そして、ナンバー3はセバンにとどめを刺そうと、ゆっくり歩き始めた。
「待てよ。お前の相棒は死んだぞ。それに、あっちに行かせるわけにはいかないね」
ルーヘンが、屋敷にいる人達が遠くへ逃げる時間を稼ぐため、ナンバー3の前に立ちはだかる。
「あぁ、ナンバー5を殺したと思ってるの? 後ろを見なよ」
そう言われてルーヘンが後ろを振り返ると、黒いオーラを発したナンバー5が立っていた。
「ブハッ、いいねぇ。その絶望に満ちた顔が見てぇから、やられた振りをしてたんだよ」
首を切り落としたはずのナンバー5が、首のついた状態で平然と立ち上がっていることに驚きを隠せないルーヘンとヘリオス。
どうやって復活したのか見当もつかず、二人は絶望する。
「じゃあ死んでよ。もう飽きちゃった」
「そうだな、せめて苦しまないように殺してやるよ」
「いや、そうはさせないさ」
迫りくるナンバー3とナンバー5に、もう終わりだと悟ったルーヘンとヘリオスだったが、そこによく見知った人物が現れた。
「帰って早々大変なことになってると思ったら、またお前か」
突如現れたノックスはナンバー3を見て、呆れたようにそう言った。
そう、アレク達はストレンの街に着いていたのだ。
アレク達は、新型馬車とそれを引くマンテ爺の脚力のおかげで、普通よりも二日早いペースで帰路についていた。
アレク達がストレンの街に近付くと、街からいくつもの煙が上がっており、さらに近付くにつれて爆発音のような大きな音が聞こえた。
そのため屋敷に向かって急いで駆けつけ、到着してすぐに、庭で戦っていたセバン、ルーヘンと黒装束の二人組を見かけ、全員で向かったのだ。
「アハハハハ、アハハハハ! いいねぇいいねぇ、大剣使い、待っていたよぉ」
ナンバー3はもう待ちきれないかのように、ノックスに突っ込んでいった。
ノックスはすぐに大剣を引き抜いて構える。
「この時を待っていたんだよ。いっぱい遊ぼうよぉ。《氷剣》」
「生憎、ガキには興味がないからな。一瞬で終わらす。〈一刀両断〉」
ノックスは凄まじい速さで迫るナンバー3が放つ攻撃のタイミングを予測して〈一刀両断〉というスキルを使い、大剣を振り下ろす。これは使っている剣の切れ味を一時的に向上させるスキルだ。
ナンバー3はその攻撃を避けることができず、左腕を斬り落とされてしまう。
「クソ。少し外したか……」
ノックスは脳天から真っ二つに斬ったつもりだったが、ナンバー3はギリギリでかわしていた。
「あぁ痛いなぁ。前より強くなってるね。僕も本気を出さないとね」
ナンバー3は左腕が斬り落とされているにもかかわらず、平然と話し始める。
ナンバー3が落ちた腕を拾い上げて元の位置にくっつけると、真っ黒いモヤが腕に絡まって、腕は何もなかったかのように元に戻った。
ノックスは額に手を当ててため息をつく。
「クソッ、再生は反則だろ……一つ聞いてもいいか?」
「何~?」
ナンバー3は間延びした声でめんどくさそうに返事する。
「その黒いのはいったいなんなんだ?」
「う~ん、知らないよぉ~。ゼロ様がくれた新しい力なんだぁ。そんなことより早く殺ろうよぉ」
ゼロという名前が出てきたことと、目の前の敵が様付けをしたことで、さらに警戒しないといけない相手がいるな、とノックスは考える。
「じゃあ、ちょっと待ってな。最高の戦いを準備してやるから」
ノックスはそう言うと事前にアレクから渡されていた、攻撃力、防御力、素早さ、そして魔力の向上薬を一気に飲む。
どれも五分間だけそれぞれの能力を飛躍的に上げるが、五分後に凄まじい激痛が全身を襲うという副作用のある薬だ。
薬を飲み終えたノックスは、お腹がチャプチャプするのを感じながら口を開く。
「待たせたな。さぁ、戦おうか」
「何を飲んだか知らないけど、今の僕には勝てないよぉ。アハハ、アハハ、ぐぁぁぁぁ」
また真っ黒のモヤを出して理性を半分失うナンバー3。
「《爆発》、《轟炎槍》」
ナンバー3が魔法を使うと、ノックスの付近で爆発が起こり、すぐさま炎の槍が飛んでくる。
しかし、ノックスに爆発のダメージは一切なく、槍も全て大剣で薙ぎ払い打ち消した。
「バラバラにしたら再生できるのか試させてもらう」
ノックスはそう言うと大剣を構え直す。
「《絶対零度》」
ノックスが攻撃を仕掛けようとした瞬間、ナンバー3の魔法が放たれノックスに直撃する。
ノックスの体が氷漬けになるが、彼はその氷を一瞬で粉々にしてナンバー3に迫る。
焦ったナンバー3は《絶対零度》を連発するが、ノックスは一切止まる様子がない。
ナンバー3は《氷剣》を握り締めて、凄まじい剣速で何度も何度も斬りつけるが、全て避けられる。その状況を受け入れられないナンバー3は、珍しく焦りを見せた。
「うわぁぁぁ、死ねぇ死ねぇ、こっち来るなよぉ」
素早い剣速だが、めちゃくちゃに振り回しているだけなので、避けるのは容易だった。
ノックスは大剣で《氷剣》を粉々にして、ナンバー3の体を十字に斬る。
さらに、《灼熱息吹》を放ち、跡形もなく燃やし尽くした。
だが、ノックスは違和感を覚えていた。こんな簡単に死ぬのだろうか、と。
「クソ! これが薬の副作用か……グハッ……」
同時に五分が経過してノックスの全身に激痛が走り、その場で仰向けに倒れる。
「ノックス、お疲れ様です。これを飲んでください」
助けにやってきたオレールが、ノックスにエクストラポーションを渡した。
ノックスは渡されたエクストラポーションを飲み干し、激痛を癒す。
ノックスが立ち上がると、オレールの隣にはセバンもいた。
「オレール、助かった。セバンも酷くやられたみたいだな。服がズタボロだぞ」
ノックスはオレールに頭を下げたあと、セバンを気遣う言葉をかけた。
「見事にあの子供にやられましたよ。ですが、ノックス様が帰ってきてくれて助かりました」
セバンは笑いながら答える。
「アレクとパスクはどうした?」
「あそこですよ」
ノックスに尋ねられたセバンが指を差した先には、アレクとパスクとマンテ爺が共闘しながらナンバー5と戦っていた。
「少しあいつらには荷が重いだろうから、いつでも助けられるように準備をしておくぞ」
ノックスがオレールとセバンにそう伝えると、二人は頷いて応える。
「それにしても、あの子供は本当に死んだのでしょうか?」
セバンも本当に消滅させられたのか気になっている。
「あれで死んでないならお手上げだな。とりあえずは、あの仲間もどうにかしないと」
そう言って、ノックスはアレクとナンバー5の戦闘を眺め始めた。
◆ ◇ ◆
ノックスとナンバー3の戦いが始まった頃、アレク達の戦いも始まっていた。
「アレクくん達の力で倒してみてください。私が弱体魔法をかけるのでいい相手になるでしょう」
オレールは杖をかざして、ナンバー5に向けて攻撃力、防御力、素早さ、魔力を弱める魔法を使う。
「お前、俺に何しやがった?」
体に異変を感じたナンバー5は、オレールに問いかける。
「弱体魔法ですよ。ちょうど後輩の腕試しに役立つと思いましてね」
それを聞いたナンバー5は怒りを爆発させてオレールに襲いかかる。
オレールが焦る様子もなく杖をかざして「《重力圧》」と唱えると、ナンバー5は地面に這いつくばった。
「アレクくん達は今のうちに薬を飲んで強化しちゃってください。スベアさんは私と来てくださいね。貴女にはまだ荷が重いでしょうから」
そう言われて、アレクとパスクは副作用なく三十分間倍の力を手に入れられる強化薬を飲み、さらにアレクは薬の力で小さくなっていたマンテ爺に、元に戻る薬を飲ませる。
荷が重いと言われたことをスベアは悔しく感じているが、明らかに自分より何倍も強い相手だと分かるので、素直に頷いた。
「ん? あれはまずいですね。アレクくん、パスクくん、マンテ爺、気合いを入れなさい」
オレールが異変を察知し、注意を促す。
何が起こったかというと、ナンバー5から真っ黒いモヤが出て、オレールの《重力圧》を食らっているにもかかわらず平然と立ち上がったのだ。
「てめぇら、死にてぇようだな。ぐぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げて迫りくるナンバー5に対して、最初に動いたのはパスクだった。
王都で知り合ったドワーフの鍛冶師に作ってもらった剣に炎を付与して、ナンバー5に斬りかかるパスク。
しかし、簡単にかわされて、ナンバー5に蹴りを入れられ吹き飛ばされる。
さらにマンテ爺が爪を振りかぶって攻撃をするが、これも見事にかわされ、マンテ爺も蹴りで吹き飛ばされた。
そこにアレクが放った《竜巻》が、ナンバー5へ直撃する。
空高く吹き飛ばされるほどの威力の暴風を受けているが、ナンバー5は地に足を付けたままだ。
「痛いのぅ。なんじゃあやつは」
「アレク様、申し訳ございません。油断しました」
マンテ爺もパスクも、ダメージはなく、すぐに体勢を立て直してアレクに謝る。
「こんなもんで、俺を止められるわけねぇだろ」
《竜巻》を打ち払って平然と立っているナンバー5が吐き捨てるように言う。服は破れているが、体は傷一つ負っていない。
「どうしようか……勝てる気がしないんだよね。あれしかないか。パスクとマンテ爺……俺が時間を稼ぐから、二人はこれを飲んで、最大の威力の攻撃を撃ち込んでくれないかな?」
パスクとマンテ爺にアレクが渡したのは『魔力百倍増幅薬』である。これは文字通り魔力を増やす薬だ。
もちろん、アレクは人間用と魔物用に分けて作っていた。
アレクは『凶化強靭薬』を飲んで、時間を稼ぐ準備をする。
薬の効果が出たことを確認したアレクは、ナンバー5に向き直り口を開いた。
「お待たせ。さっきみたいにはいかないから、覚悟してね」
「面白え~、来いよ。これをどうにかできるならな! 《幻影剣》」
ナンバー5は無数の剣を宙に浮かべる。しかも、ルーヘンと戦っていた時以上に数が多い。
アレクはガントレットをグイッと嵌め直して、素早くナンバー5に近付く。
その瞬間《幻影剣》がアレクに襲いかかる。
無数の剣がアレクを切り刻みにくるが、アレクはそれを殴り飛ばして消していく。
拳に傷がつくが薬の効果ですぐに塞がるため、アレクの勢いは止まることなく、一瞬でナンバー5の目の前まで到達する。
ナンバー5はまさか《幻影剣》を突破してくるとは思っておらず、焦って《爆発》を放った。
「そんなもので止まるわけないだろうぉぉぉ!」
アレクはお構いなしにそんな叫び声を上げながら、ナンバー5の顔面を殴り飛ばす。
まともに食らったナンバー5は吹き飛ばされて、地面に何度も体を打ち付けて壁にぶち当たった。
「はぁはぁはぁはぁ……」
アレクは『凶化強靭薬』を飲んではいるが、限界を超える力を使っているので、体力の回復が追いつかず、息を切らせる。
「アレク様、危ない!」
その時、パスクから危険を知らせる声が聞こえた。
「痛ぇ~な。だがよ、馬鹿でよかったぜ。ちゃんと後ろも警戒しなきゃこうなるんだよ」
息を切らせていたアレクの後ろから、剣が二本飛んできてアレクの体に刺さった。
アレクは一瞬フラつくが、再度ナンバー5に近付いて殴りつける。
「グフォッ……! な、なんで動けんだよ」
アレクは『凶化強靭薬』のおかげで、痛みを感じなくなっているのだ。そのため刺されながらも攻撃することができていた。
そして、ナンバー5の黒いオーラが段々と小さくなり始めた。
「俺達もそろそろ始めようぜ。空は飛ばないでやるからよ」
「アハハ。それはありがたいね」
ルーヘンは自分より強そうなナンバー5を見て、嫌な役回りだなと思いながらも、覚悟を決める。
「《幻影剣》! こいつからは逃げれねぇから諦めな、騎士様」
ナンバー5が魔法を使うと、剣先がルーヘンの方を向いた無数の剣が、ナンバー5の空中に浮かび上がった。これは無数の剣を生み出す魔法だ。
「厄介だね。僕も本気を出そうかな。〈剣術〉と《障壁》」
ルーヘンは剣の扱いを向上させる〈剣術〉のスキルと、体の周囲を守るシールドを展開させることができる《障壁》という魔法を同時に発動させた。
ちなみに、スキルとは生まれつき身体に備わった能力のことで、魔法と違って訓練によって習得できるものではない。
「すぐにくたばらねぇようにな」
ナンバー5がそう言った瞬間、無数の剣がルーヘンを襲うが、ルーヘンは凄まじい速度で剣を振るって全ての剣を消滅させていく。
これ以上出されると限界を迎えると悟ったルーヘンは、相手を挑発して隙を作ろうとする。
「僕の方が速いし、魔力も上のようだね。こんな遅い攻撃、当たらないね」
「調子に乗んじゃねぇぞ。じゃあ見せてやるよ、俺の本気をな」
さっきの倍以上の剣が空中に浮かび上がり、ルーヘンに襲いかかる。
だが、《障壁》に当たり防がれるため、ナンバー5の攻撃が届くことはない。
「やるじゃねぇか。じゃあ、こいつに耐えられるか見てやるよ。《爆発》」
連続で発動する《爆発》をルーヘンの《障壁》が防ぐ。
しかし、ナンバー5の攻撃は終わらず、《幻影剣》も飛んでくる。
無数の剣をなんとか消滅させるルーヘンだったが、連続する《爆発》に《障壁》が耐えきれず、ついに爆発をまともに食らってしまった。
「ぶっははは弱いな。これで終わりだ」
吹き飛ばされて横たわるルーヘンに近付いたナンバー5は、腰にある剣を引き抜き、とどめを刺そうと振り上げる。
振り下ろされた剣を、ルーヘンは間一髪、腕で受け止めた。
「アハハ。この時を待っていたよ。《威圧》」
《威圧》は相手の動きを止めることができる魔法だ。
これによってナンバー5は体が硬直してしまう。
ルーヘンは立ち上がって剣を引き抜き、フラフラしながら近付く。
そして、動けなくなったナンバー5の胸に剣を突き刺した。
「ぐふぉぐふっ」
苦痛で声を上げるナンバー5は、口から血を吐いて、そのまま倒れた。
それを見たルーヘンは尻もちをついて息を整える。
身に着けていた鎧がボロボロになり、体は火傷で酷い状態だ。
アイテムボックスからポーションを取り出して飲み干し、その場で倒れる。
「ふぅ、疲れた。もうこんなこと二度とやりたくないよ」
「ぐほっぐふっ……死ね《幻影……」
ルーヘンの気が抜けた瞬間、ナンバー5が起き上がって最後の足掻きとして魔法を使おうとする。
しかし、発動する前に後ろから誰かに首を斬り落とされた。
「ギリギリでしたね。大丈夫ですか? 団長?」
助けに現れたのはヘリオスだった。
ルーヘンは安堵の表情を浮かべると、「来るのが遅いよ」と言って両手両足を広げて横になった。
「疲れてもう死にそうだよ。もうこの体は戻りそうにないね。騎士団を引退してゆっくりしようかな?」
「こんな時に何を言っているのですか! これを飲んでください。回復しますから。無理矢理にでも治して、団長でいてもらいますからね」
ヘリオスはルーヘンにハイポーションを飲ませて回復させる。
ルーヘンはハイポーションを全部部下に持たせていたので、低品質のポーションしか持っておらず回復しきれなかったのだ。
「あ~あ、これでまた働かないといけなくなっちゃったよ。とりあえず、セバンさんを……ってあそこに加勢するのは邪魔になるね」
ルーヘンとヘリオスの目の前では、今まで見たことがないほど、激しい戦闘が起こっていた。
とても加勢できるレベルではないと感じた二人は、乾いた笑いを出すのだった。
◆ ◇ ◆
ルーヘンによってナンバー5が倒された後も、セバンとナンバー3の戦闘は続いていた。
ナンバー3は相変わらず邪悪な笑みを浮かべて、この状況を楽しんでいる。
「僕と対等の実力……素晴らしいねぇ……あぁ、ヨダレがまた出てきちゃったよ。もう我慢できない……殺り合おうよ」
「完全に戦いに取り憑かれていますね。では、やれるだけやりますか」
そう答えながら、セバンは密かに自分の周りに魔法で罠をしかけていた。
それを知らないナンバー3はセバンに襲いかかってくる。
「アハハハハ~死んじゃえぇぇ」
ナンバー3がセバンまであと5メートルほどのところへ近付いた瞬間、《土針山》の罠が作動する。
地面から土でできた針が出て、ナンバー3に直撃した。
だが、ナンバー3は何もないかのように突っ込んでくる。
「厄介すぎますね。《土流波》」
セバンが魔法を使うと、土が波のようになりナンバー3へ襲いかるが、ナンバー3は笑みを崩さない。
そしてそのままセバンの目の前にたどり着く。
「《氷剣》、アハハハハハ、死ねぇ!」
ナンバー3は氷でできた剣を作り出し振り回した。
セバンは《雷旋風》と《身体強化》でギリギリかわしているが、組織のボスであるゼロに強化されたナンバー3の剣速は上がっていった。
ついにかわしきれなくなったセバンは、胸をざっくり斬られてしまう。
「ウッ、はぁはぁはぁはぁ」
斬られたセバンは呼吸を乱しながらも、打開策を見つけようと頭をひねる。
「これで終わりだよぉ。アハハ、呆気なかったね。バイバ~イ」
ナンバー3がセバンに斬りかかろうとした瞬間、セバンは魔法を使い、彼の周りを雷の壁で覆って入られないようにした。
「《雷障壁》」
「アババババ……痛いよ。もう悪足掻きをするねぇ」
ナンバー3は感電しながらも《氷剣》で斬りつけたり、魔法を撃ち込んだりするが、セバンは《雷障壁》を保って耐えている。
しびれを切らしたナンバー3が必殺の魔法を放つ。
「《絶対零度》!」
セバンを氷の壁が覆い、姿が見えなくなった。
ナンバー3が氷の壁を殴って壊すと、セバンがいた空間からブワッと強風が吹き荒れて蒸気が溢れ出した。その風圧で、ナンバー3が吹き飛ぶ。
蒸気が収まると、体の傷が治り、目が真っ赤に充血して体も真っ赤になったセバンがいた。
セバンは凍りつく前の一瞬で、アレクから渡されていた『凶化強靭薬』を飲んでいたのだ。
五分間、理性失う代わりに強大な力を得るが、その後全身の筋肉が断裂を起こして激痛を味わうという副作用を持つ薬だ。
「これは凄いですね。少し油断をすれば意識を持っていかれそうですよ」
セバンは強い精神力で理性を失うことを抑えている。
だが、五分しか時間がないことを事前にアレクから聞かされているので、ナンバー3に近付いて一気に終わらせようと殴りつける。
「グハッ……」
流石のナンバー3も、薬で大幅に強化されたセバンの攻撃になす術がない。
セバンはこれが最後だろうとさらに殴り続け、とどめの一発とばかりに、最大威力の雷魔法《稲妻饗宴》を放つ。
その攻撃はナンバー3に直撃し、ナンバー3は黒焦げになった。
「ハァハァ……まだ安心はできませんからね。最後に……」
「アハハアハハ、アへへへへ……」
殴ってとどめを刺そうとしたセバンの前で、ナンバー3はおもむろに立ち上がり真っ黒いオーラを放つ。
するとみるみるうちに傷や骨折した箇所が治っていった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
うめき声を上げつつも、完全に回復したナンバー3が攻撃の構えを見せた。
これはまずいと思ったセバンは、ナンバー3を再度殴りつける。
《稲妻饗宴》を使った影響でMPを使い果たしており、これしか手段がない。
そこで無表情だったナンバー3が急にニタッと笑う。
「アハハ、アハハ!」
そして、ナンバー3はセバンに殴りかかる。
セバンとナンバー3は至近距離で殴打の応酬を始めた。
セバンはもう薬の効果時間が時間がないと焦るが、打開策は見つからない。
ルーヘンとヘリオスは助けに入ろうとしたが、二人の凄まじい攻防を目の当たりにして、足がすくんで動けずにいた。
「アハハ、楽しいよぉ」
「くっ……それはよかったです」
セバンの攻撃はナンバー3に一切効いてない。やがてジリ貧になり、セバンは押され始めた。
そして、セバンはナンバー3の一撃を食らい、屋敷の近くまで吹き飛ばされてしまった。
「アハハハハハ……あちゃー、もうおもちゃが壊れちゃった」
そう言うと、ナンバー3の体から黒いモヤが消える。
そして、ナンバー3はセバンにとどめを刺そうと、ゆっくり歩き始めた。
「待てよ。お前の相棒は死んだぞ。それに、あっちに行かせるわけにはいかないね」
ルーヘンが、屋敷にいる人達が遠くへ逃げる時間を稼ぐため、ナンバー3の前に立ちはだかる。
「あぁ、ナンバー5を殺したと思ってるの? 後ろを見なよ」
そう言われてルーヘンが後ろを振り返ると、黒いオーラを発したナンバー5が立っていた。
「ブハッ、いいねぇ。その絶望に満ちた顔が見てぇから、やられた振りをしてたんだよ」
首を切り落としたはずのナンバー5が、首のついた状態で平然と立ち上がっていることに驚きを隠せないルーヘンとヘリオス。
どうやって復活したのか見当もつかず、二人は絶望する。
「じゃあ死んでよ。もう飽きちゃった」
「そうだな、せめて苦しまないように殺してやるよ」
「いや、そうはさせないさ」
迫りくるナンバー3とナンバー5に、もう終わりだと悟ったルーヘンとヘリオスだったが、そこによく見知った人物が現れた。
「帰って早々大変なことになってると思ったら、またお前か」
突如現れたノックスはナンバー3を見て、呆れたようにそう言った。
そう、アレク達はストレンの街に着いていたのだ。
アレク達は、新型馬車とそれを引くマンテ爺の脚力のおかげで、普通よりも二日早いペースで帰路についていた。
アレク達がストレンの街に近付くと、街からいくつもの煙が上がっており、さらに近付くにつれて爆発音のような大きな音が聞こえた。
そのため屋敷に向かって急いで駆けつけ、到着してすぐに、庭で戦っていたセバン、ルーヘンと黒装束の二人組を見かけ、全員で向かったのだ。
「アハハハハ、アハハハハ! いいねぇいいねぇ、大剣使い、待っていたよぉ」
ナンバー3はもう待ちきれないかのように、ノックスに突っ込んでいった。
ノックスはすぐに大剣を引き抜いて構える。
「この時を待っていたんだよ。いっぱい遊ぼうよぉ。《氷剣》」
「生憎、ガキには興味がないからな。一瞬で終わらす。〈一刀両断〉」
ノックスは凄まじい速さで迫るナンバー3が放つ攻撃のタイミングを予測して〈一刀両断〉というスキルを使い、大剣を振り下ろす。これは使っている剣の切れ味を一時的に向上させるスキルだ。
ナンバー3はその攻撃を避けることができず、左腕を斬り落とされてしまう。
「クソ。少し外したか……」
ノックスは脳天から真っ二つに斬ったつもりだったが、ナンバー3はギリギリでかわしていた。
「あぁ痛いなぁ。前より強くなってるね。僕も本気を出さないとね」
ナンバー3は左腕が斬り落とされているにもかかわらず、平然と話し始める。
ナンバー3が落ちた腕を拾い上げて元の位置にくっつけると、真っ黒いモヤが腕に絡まって、腕は何もなかったかのように元に戻った。
ノックスは額に手を当ててため息をつく。
「クソッ、再生は反則だろ……一つ聞いてもいいか?」
「何~?」
ナンバー3は間延びした声でめんどくさそうに返事する。
「その黒いのはいったいなんなんだ?」
「う~ん、知らないよぉ~。ゼロ様がくれた新しい力なんだぁ。そんなことより早く殺ろうよぉ」
ゼロという名前が出てきたことと、目の前の敵が様付けをしたことで、さらに警戒しないといけない相手がいるな、とノックスは考える。
「じゃあ、ちょっと待ってな。最高の戦いを準備してやるから」
ノックスはそう言うと事前にアレクから渡されていた、攻撃力、防御力、素早さ、そして魔力の向上薬を一気に飲む。
どれも五分間だけそれぞれの能力を飛躍的に上げるが、五分後に凄まじい激痛が全身を襲うという副作用のある薬だ。
薬を飲み終えたノックスは、お腹がチャプチャプするのを感じながら口を開く。
「待たせたな。さぁ、戦おうか」
「何を飲んだか知らないけど、今の僕には勝てないよぉ。アハハ、アハハ、ぐぁぁぁぁ」
また真っ黒のモヤを出して理性を半分失うナンバー3。
「《爆発》、《轟炎槍》」
ナンバー3が魔法を使うと、ノックスの付近で爆発が起こり、すぐさま炎の槍が飛んでくる。
しかし、ノックスに爆発のダメージは一切なく、槍も全て大剣で薙ぎ払い打ち消した。
「バラバラにしたら再生できるのか試させてもらう」
ノックスはそう言うと大剣を構え直す。
「《絶対零度》」
ノックスが攻撃を仕掛けようとした瞬間、ナンバー3の魔法が放たれノックスに直撃する。
ノックスの体が氷漬けになるが、彼はその氷を一瞬で粉々にしてナンバー3に迫る。
焦ったナンバー3は《絶対零度》を連発するが、ノックスは一切止まる様子がない。
ナンバー3は《氷剣》を握り締めて、凄まじい剣速で何度も何度も斬りつけるが、全て避けられる。その状況を受け入れられないナンバー3は、珍しく焦りを見せた。
「うわぁぁぁ、死ねぇ死ねぇ、こっち来るなよぉ」
素早い剣速だが、めちゃくちゃに振り回しているだけなので、避けるのは容易だった。
ノックスは大剣で《氷剣》を粉々にして、ナンバー3の体を十字に斬る。
さらに、《灼熱息吹》を放ち、跡形もなく燃やし尽くした。
だが、ノックスは違和感を覚えていた。こんな簡単に死ぬのだろうか、と。
「クソ! これが薬の副作用か……グハッ……」
同時に五分が経過してノックスの全身に激痛が走り、その場で仰向けに倒れる。
「ノックス、お疲れ様です。これを飲んでください」
助けにやってきたオレールが、ノックスにエクストラポーションを渡した。
ノックスは渡されたエクストラポーションを飲み干し、激痛を癒す。
ノックスが立ち上がると、オレールの隣にはセバンもいた。
「オレール、助かった。セバンも酷くやられたみたいだな。服がズタボロだぞ」
ノックスはオレールに頭を下げたあと、セバンを気遣う言葉をかけた。
「見事にあの子供にやられましたよ。ですが、ノックス様が帰ってきてくれて助かりました」
セバンは笑いながら答える。
「アレクとパスクはどうした?」
「あそこですよ」
ノックスに尋ねられたセバンが指を差した先には、アレクとパスクとマンテ爺が共闘しながらナンバー5と戦っていた。
「少しあいつらには荷が重いだろうから、いつでも助けられるように準備をしておくぞ」
ノックスがオレールとセバンにそう伝えると、二人は頷いて応える。
「それにしても、あの子供は本当に死んだのでしょうか?」
セバンも本当に消滅させられたのか気になっている。
「あれで死んでないならお手上げだな。とりあえずは、あの仲間もどうにかしないと」
そう言って、ノックスはアレクとナンバー5の戦闘を眺め始めた。
◆ ◇ ◆
ノックスとナンバー3の戦いが始まった頃、アレク達の戦いも始まっていた。
「アレクくん達の力で倒してみてください。私が弱体魔法をかけるのでいい相手になるでしょう」
オレールは杖をかざして、ナンバー5に向けて攻撃力、防御力、素早さ、魔力を弱める魔法を使う。
「お前、俺に何しやがった?」
体に異変を感じたナンバー5は、オレールに問いかける。
「弱体魔法ですよ。ちょうど後輩の腕試しに役立つと思いましてね」
それを聞いたナンバー5は怒りを爆発させてオレールに襲いかかる。
オレールが焦る様子もなく杖をかざして「《重力圧》」と唱えると、ナンバー5は地面に這いつくばった。
「アレクくん達は今のうちに薬を飲んで強化しちゃってください。スベアさんは私と来てくださいね。貴女にはまだ荷が重いでしょうから」
そう言われて、アレクとパスクは副作用なく三十分間倍の力を手に入れられる強化薬を飲み、さらにアレクは薬の力で小さくなっていたマンテ爺に、元に戻る薬を飲ませる。
荷が重いと言われたことをスベアは悔しく感じているが、明らかに自分より何倍も強い相手だと分かるので、素直に頷いた。
「ん? あれはまずいですね。アレクくん、パスクくん、マンテ爺、気合いを入れなさい」
オレールが異変を察知し、注意を促す。
何が起こったかというと、ナンバー5から真っ黒いモヤが出て、オレールの《重力圧》を食らっているにもかかわらず平然と立ち上がったのだ。
「てめぇら、死にてぇようだな。ぐぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げて迫りくるナンバー5に対して、最初に動いたのはパスクだった。
王都で知り合ったドワーフの鍛冶師に作ってもらった剣に炎を付与して、ナンバー5に斬りかかるパスク。
しかし、簡単にかわされて、ナンバー5に蹴りを入れられ吹き飛ばされる。
さらにマンテ爺が爪を振りかぶって攻撃をするが、これも見事にかわされ、マンテ爺も蹴りで吹き飛ばされた。
そこにアレクが放った《竜巻》が、ナンバー5へ直撃する。
空高く吹き飛ばされるほどの威力の暴風を受けているが、ナンバー5は地に足を付けたままだ。
「痛いのぅ。なんじゃあやつは」
「アレク様、申し訳ございません。油断しました」
マンテ爺もパスクも、ダメージはなく、すぐに体勢を立て直してアレクに謝る。
「こんなもんで、俺を止められるわけねぇだろ」
《竜巻》を打ち払って平然と立っているナンバー5が吐き捨てるように言う。服は破れているが、体は傷一つ負っていない。
「どうしようか……勝てる気がしないんだよね。あれしかないか。パスクとマンテ爺……俺が時間を稼ぐから、二人はこれを飲んで、最大の威力の攻撃を撃ち込んでくれないかな?」
パスクとマンテ爺にアレクが渡したのは『魔力百倍増幅薬』である。これは文字通り魔力を増やす薬だ。
もちろん、アレクは人間用と魔物用に分けて作っていた。
アレクは『凶化強靭薬』を飲んで、時間を稼ぐ準備をする。
薬の効果が出たことを確認したアレクは、ナンバー5に向き直り口を開いた。
「お待たせ。さっきみたいにはいかないから、覚悟してね」
「面白え~、来いよ。これをどうにかできるならな! 《幻影剣》」
ナンバー5は無数の剣を宙に浮かべる。しかも、ルーヘンと戦っていた時以上に数が多い。
アレクはガントレットをグイッと嵌め直して、素早くナンバー5に近付く。
その瞬間《幻影剣》がアレクに襲いかかる。
無数の剣がアレクを切り刻みにくるが、アレクはそれを殴り飛ばして消していく。
拳に傷がつくが薬の効果ですぐに塞がるため、アレクの勢いは止まることなく、一瞬でナンバー5の目の前まで到達する。
ナンバー5はまさか《幻影剣》を突破してくるとは思っておらず、焦って《爆発》を放った。
「そんなもので止まるわけないだろうぉぉぉ!」
アレクはお構いなしにそんな叫び声を上げながら、ナンバー5の顔面を殴り飛ばす。
まともに食らったナンバー5は吹き飛ばされて、地面に何度も体を打ち付けて壁にぶち当たった。
「はぁはぁはぁはぁ……」
アレクは『凶化強靭薬』を飲んではいるが、限界を超える力を使っているので、体力の回復が追いつかず、息を切らせる。
「アレク様、危ない!」
その時、パスクから危険を知らせる声が聞こえた。
「痛ぇ~な。だがよ、馬鹿でよかったぜ。ちゃんと後ろも警戒しなきゃこうなるんだよ」
息を切らせていたアレクの後ろから、剣が二本飛んできてアレクの体に刺さった。
アレクは一瞬フラつくが、再度ナンバー5に近付いて殴りつける。
「グフォッ……! な、なんで動けんだよ」
アレクは『凶化強靭薬』のおかげで、痛みを感じなくなっているのだ。そのため刺されながらも攻撃することができていた。
そして、ナンバー5の黒いオーラが段々と小さくなり始めた。
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