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第3章 アレクを狙って

第681話 意外に接点がなかった二人と隠密!

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世界樹の入り口を全員で潜ったはずなのだが、ナハスとレッドドラゴンとヤンとジアは、来た場所に戻されていた。

「どうやら、私達は拒絶されたみたいね。でも、無事にアレク様は通れたみたいだからよかったわ」

ナハスは、少し悲しそうな顔をしながらも、主人であるアレクが、無事に世界樹を見ることが出来て安堵する。

「ブッハハハ、ナハスも、そんな顔するんだな。感情をあまり表にださねぇから感情すらねぇと思ってたぞ」

アレクの前では、感情をあらわにするナハスだが、他の人の前だと感情を出すことが少なく、いつも冷静な人に見えてしまう。

「そんなことないわ。最近は、アレク様以外にも興味が出てきたし、喜怒哀楽が何かわかってきたところよ。まぁ、でもレッドドラゴンとは、あまり関わる機会がなかったし、仕方ないか」

今まで、ナハスとレッドドラゴンが同じ任務に当たることもなく、ナハスはヘルミーナの護衛を担当していることが多く。レッドドラゴンは、闘技場で訓練していることが多く、あまり接点もなかったので、実質まともに話すのは初めてなのかもしれない。

「そうだねぇ。私とナハスは、話すことがなかったからな。でも、お互いご主人様を敬愛してるってのは同じだから、いつか話してみたいとは思ってたんだ」

レッドドラゴンは、豪快に笑いながらナハスの背中をバンバンと叩く。ナハスは、不意打ちだったので、咳込んでしまう。
それを見ていたヤンとジアは、ナハスとレッドドラゴンが、アレクといた時とは、全くの別人のような言動に驚いてしまう。

「ヤン、あの二人だけど、別人?」

ジアは、二人の中身が入れ替わって別人になったのではと思い始めた。

「そ、そのようにしか見えませんね。このような場合は、あまり関わらない方がよろしいかと。人間の街で生活していて、触らぬ神に祟りなしという言葉を習いました。このことだったのですね」

「う~ん。深く追求してはダメ。でも、触らぬ神に祟りなしは、ちょっと意味が違うと思う」

ヤンとジアも、独自の空気感を漂わせて、話していた。ヤンの言う関わりを持ちたくないという意味では、触らぬ神に祟りなしで合っているのだが、ナハスとレッドドラゴンが、何もしていないのに、そのことわざを使ってしまうと、面倒になりそうだとジアは思って、意味が違うと遠回しに言ったのだ。

「あら~、ヤンさんとジアさんもいらっしゃったのね。それより、ヤンさん。触らぬ神に祟りなしとは、どういうことかな?」

ヤンは、決して聞こえるような声ではなく、小声で話していたにも関わらず、ナハスの地獄耳は聞き逃すようなことはない。

「あ、あ、そ、そんな悪い意味で言ったわけではないですよ。ただ、女性が普段と違う時は、深く関わ......や、やめて痛い痛いですって」

聞こえているとは思っていなかったヤンは、動揺しまくって言わなくていい事も口走り、レッドドラゴンにヘッドロックを食らわせられる。

「シッ!レッドドラゴン、そこまで!」

「あぁ~、この感じは、エルフか。でも、あの中にいたやつら......違うな!それに、ナハスに言われるまで気付かなかった」

ナハスは、何者かの気配を感じて、ヘッドロックをするレッドドラゴンにやめるように言う。
だが、魔物の中では最強クラスに位置するレッドドラゴンが、神経を集中させてやっと気配を察知するほど、相手は隠密に優れているようなのだ。

「え?誰かいるのですか?私の精霊は、何も感じません。ジアさんは、どうですか?」

「精霊様に聞いたら、何もいないって言ってる」

ヤンの精霊は、幼いのでまだわかるが、ジアの精霊は気配に敏感にも関わらず、一切何も感じないらしい。

「確実にいるわ!うまく気配を消して、ずっとこっちを観察してる」

「ナハス、捕まえるか?」

ナハスとレッドドラゴンは、敵を見据えるようなことも大きな声で話すようなことはせず、気付いていないフリをしながら話す。

「ダメよ!アレク様が、帰ってきたら判断してもらいましょう。まだ相手の意図が見えないから勝手に動くのは危険よ。それに、せっかくエルフが大人しくなったのに、また冤罪で暴れられては困るもの」

ナハスは、力技だとしても、やっとエルフの国と良き関係を築き始めたのに、それが壊れる可能性を懸念して止める。

「確かにな!ご主人様の意に反することはしねぇ。だが、襲ってきたら返り討ちにするけどな」

「それは、私も同じよ。クズにかける情けは持ち合わせていないもの」

ナハスは、冷静沈着ではあるが、乱暴そうに見えるレッドドラゴンと近しい部分が、どうやらあるらしい。
そして、ヤンとジアは、もしかすると敵にも関わらず、全然張り詰めた様子のない二人に住む世界が違うなと感じるのだった。
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