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第3章 アレクを狙って

第642話 懐かしのエルフと事件の予感!?

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残るのは地面に付いた足跡のみで、魔物の森を姿なく走る者がいた。

「ハァハァハァ、精霊さんのお陰で助かってるけど、いつまで続くのかな?」

姿を消している者は、敵に見つからないように、高い木へ登って身を潜める。

「幸運の華月のみんなには悪いことしちゃったなぁ......ん!?精霊さん、ごめんね。今自由にしてあげるから」

無数の発光した小さな玉のようなものが、離れていくと、フードで完全に隠れた顔と薄汚れたローブ姿で誰だか判明はできないが、人の姿があらわになった。
そして、フードを外すと、金髪で可愛らしい顔とエルフの特徴である尖った耳が姿を現したのだ。

「はぁ~涼しい!マナが満ち溢れてていいところ~」

エルフの女性は、目を瞑って魔物の森に満ち溢れたマナと精霊がはしゃいでいる声を聞いて癒やされるのだ。

「精霊さん、あとどれくらいで着きそう?まだまだ遠い?」

エルフの女性が尋ねると、10センチくらいの見た目は少女のような精霊が近寄ってきて、目的地までの距離を示す。

「ここにいる精霊に聞いたけど、もうすぐだってさ。でもでも、みんな怖いから近寄らないって言ってるよ」

この森に住む精霊は、ぶるぶると震えながら、怖いよとアピールしてくる。

「え!?悪い人達なの?でも、王都の人達は、みんな助けてくれたって言ってたけど......」

復興のために働いた魔物達は、今や王都の住人からすると慕われる存在になっており、エルフの女性もその噂を聞いて、魔物の街に行くことにしたのだ。

「悪くはないみたい。でもでも、すんごく強いらしいんだって!とりあえず、行ったらわかるんじゃないかな?それに、僕達もジアも悪人には敏感でしょ?」

「そっかぁ。行ってみなきゃわからないね。じゃあ、出発しよっか。また、力を貸してくれる?」

精霊の言う通り、出会ってもいないうちに決めつけるのは、よくないと感じたジアは魔物街に出発することを決意する。
そして、ジアの周りにまた無数の発光した精霊達が集まってジアの姿が消えるのだ。

「気付かれてないからいいけど、化け物ばかり......本当に、こんなとこに街があるの?」

魔物の街に近付くに連れて、エルフの国でも冒険者時代にも見たことがない化け物級の魔物達に恐れおののいてしまう。

「ほら~、もう見えてきたよ~」

ジアよりも先に精霊が、魔物の街の門を見つけて知らせてくれる。

「ん!?精霊さんは、目が良すぎるからわかるだけで、普通は見つけられないから。でも、こっちで合ってるならよかった」

ジアからすると、まだまだ先にある門は見えない。だが、もう目と鼻の先にあることがわかり、安堵するのだ。

「ここには、何をしにきたのですか?おっと、動かないでくださいね!今から聞く質問に対して、正直に答えて下さい。でなければ、命の保証はできませんよ」

ジアの後ろに現れたのは、オレールであった。
オレールは、正規のルートで訪れてない人物を発見して目的がなんなのかを尋ねにきた。
そして、オレールが急に現れたことと、あまりの強さに驚いた精霊達は、「うわぁぁぁ」と声を上げてジアの体から離れて行くのだ。

「魔法ではありませんね。色々尋ねる必要がありそうですが、まずそのフードを外してこちらを向いてください」

オレールからは、発光した何かが散り散りに飛んでいく様しか見えなかった。しかし、魔力を感じることはできず、魔法の類ではないことはわかったのだ。

「何もしないから殺さないで......」

ジアは、ゆっくり振り向くとフードを外して、素顔を見せる。
その瞬間、オレールは何かを思い出したのか、笑顔になるのだ。

「フフッ、誰かわかりましたし殺しませんよ。それに、懐かしい顔で驚きましたよ。確か、幸運の華月のジアさんでしたよね?」

アレクの初任務時のことだったのでよく覚えており、しかもゴブリンに囚われていた女性達を強力な回復魔法で癒していたので記憶に残っていたのである。

「へ!?なんで、知ってるの?会った......あぁぁぁ!思い出したよ!オレールなの?でも、あの時とは比べ物にならないくらい強いけど......」

ジアは、始め全然と言っていいほど思い出すことができなかったが、記憶を遡って行くと、冒険者として一番の思い出となった10歳の少年が無茶苦茶だった過去の記憶にオレールもいたことを思い出したのだ。

「まぁ、色々ありましたからね。正規ルートから来なかった理由も含めて色々話をお聞きしたいので、屋敷まで来てもらえますか?」

「あ、そうなの!お願い!助けてほしいの!」

オレールは、「ゆっくり聞きましょう」と優しい笑顔で答えて、ジアを街へと案内するのだった。
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