18 / 756
2巻
2-1
しおりを挟む第一章 王都への旅
ブラック企業勤めのサラリーマン、高橋渉は、「異世界に行きたい」と口に出したことがきっかけで、女神アリーシャによって異世界のバーナード伯爵家次男アレクへと転生した。
しかしその伯爵家では、使用人も含め家ぐるみで、妾の子であるアレクを迫害してくるという環境だったため、アレクはすぐにその環境からの脱出を決意する。
なお、転生した際に与えられた5つのスキル――〈全知全能薬学〉〈薬素材創造〉〈調合〉〈診断〉〈鑑定〉――に当初アレクは不安を覚えていたが、それらはチートと言っていい最強スキルだった。
〈全知全能薬学〉〈薬素材創造〉〈調合〉は、あらゆる薬の知識を閲覧し、その素材を生み出し、調合するという一連の流れを完璧に行うことができる。そして〈診断〉〈鑑定〉を使えば、対象の病気や状態を高い精度で確認することができるのだ。
アレクはそんな最強スキルを活かし、伯爵家への復讐心を抱えながら脱出したのだった。
そうして、伯爵家で唯一アレクのことを気にかけていた専属メイドであるナタリーとともに馬車で旅をしている途中、アレクはオークに襲われていた老人を救う。
その老人はなんとヨゼフ・フォン・ヴェルトロ子爵で、アレクは養子として子爵家に入るよう提案され、それを受け入れた。
こうして転生早々に大きく環境を変えたアレクだったが、そんな彼の複雑な身の上に同情したヨゼフとその妻のカリーネに愛されながら、子爵家で幸せな生活を送るのであった。
◆ ◇ ◆
アレクは子爵領で暮らすかたわら、転生して以来の目標である冒険者になるため、仲間探しをしていた。
そうしてひとまず、子爵家の騎士団の元団長であるノックス、続いて奴隷商会で魔ノ国の王子パスクワーレ、そして最後にノックスのかつての仲間である魔法使いオレールをパーティーに引き入れた。
それからアレクの生活はより一層慌ただしいものになっていく。
屋敷の使用人全員にパスクワーレの紹介をしたり、ノックスと魔法の訓練をしたりと、やることがたくさんあったからだ。
オレールは子爵家が用意した家に引っ越しをして、日中は私兵の訓練に参加して勘を取り戻そうと頑張っている。
そして今日、アレクはヨゼフとカリーネとセバンと一緒に、王都へと向かう予定である。
国王が企画した晩餐会が開かれるからだ。
晩餐会を前に、アレクの薬によって二十代頃の姿に若返ったヨゼフ、カリーネ、執事のセバンの三人は元気が溢れている。
護衛はヴェルトロ家の騎士団のロイス団長と副団長、それに騎士が十名付いてくる。
ちなみに、ノックスとパスクワーレは子爵家を守るために残ることになった。
「アレク様、無事を祈っています」
ナタリーがアレクの手を握りながら心配そうに訴える。
「心配してくれてありがとう、ナタリー。でも、こっちには私兵もいるし、セバンもいるから大丈夫だよ。それより、また変な輩が子爵家に来たら、すぐに逃げるか隠れるようにしてほしい」
アレクはもしものことを心配し、ナタリーにそう伝えた。
「はい! 先日、アレク様から言われた通りに行動しますね」
そんな話をしていると、カリーネがアレクに声をかける。
「アレクちゃん、そろそろ馬車に乗りましょう」
「はい! じゃあナタリー、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ。アレク様」
アレクが手を振りながらナタリーに言うと、ナタリーも手を振りながら見送る。
ノックスが拳を突き出すと、アレクも拳を突き出す。
アレクとノックスは前日に色々言葉を交わしたので、行く前に再度何か言葉を交わすことはなかった。
「ハァハァ、皆さん、すいません。お待たせいたしました」
息を切らせて馬車に着くと、もう皆座っており、アレクを待つのみであった。
セバンが貸してくれた手を取り、アレクは馬車に乗り込む。
「構わんぞい。屋敷の者とは数日会えないのじゃ。別れの挨拶は大事じゃからのぅ――よし、出発してくれ」
そうヨゼフが言うと、セバンがロイス団長に合図を出す。すると馬車が動き始めた。
少ししてから、アレクはヨゼフに質問をする。
「父上、王都まではどのくらいかかるのですか? あと、どれくらい滞在するのですか?」
「王都までは三日くらいじゃな。滞在期間も三日を考えておる。晩餐会とは別に王都で一日のんびりする時間を作っておるから、王都見物をしてきてええぞい。その時の護衛はセバンに頼もうと思っておる」
三日間は馬車の揺れによるお尻の痛みと戦うのか、とアレクは早くもお尻の心配を始める。
しかし、それより初の王都に心躍らせ、どんなところか妄想を膨らませるのだった。
「はい! 私にお任せください。アレク様には虫一匹近寄らせません」
若返ったセバンは仕事の合間を縫って密かに訓練をしており、さらに強くなっている。
アレクが密かに鑑定したところ、思わず叫びそうになるほどのステータスとなっていた。
「セバンは頼もしいわね。あなた、私もアレクちゃんと王都見物に行ってきてもいいかしら?」
「うむ。構わんぞい。ワシも行きたいが、色々やることがあってのう……帰ったあと、土産話を聞かせてくれんかの?」
アレクは今のカリーネとヨゼフのやり取りを聞いて、本当に仲のいい夫婦だなと思う。
(将来結婚する機会があれば、こんな夫婦になりたいな)
前世でモテていなかったアレクは、果たして結婚できるのか? という焦りも同時に感じていた。
(女神様、高望みはしませんから、献身的で性格のいい女性と結婚できますように)
――そんな思いはさておき、馬車は王都へと進んでいった。
その後は他愛もない話をしながら馬車に揺られ、今日泊まる町に着いた。
だが町の門前で、何かを大声で訴えている人がいるのに一行は気付いた。
「娘を……娘を助けてください!」
男性が汗を額に滲ませて、必死な顔をして叫んでいた。
「何度も言っていますが、その状態の人間を中に入れることはできません。もし、ここの住人に感染が広がったらどう責任を取るのですか?」
門番はそう冷たく言い放つ。苦しんでいる子供の姿を見て伝染病だと判断し、町に入れないようにしているのだ。
「ですが、このままでは娘が死んでしまいます。どうかお願いします!」
少女の父親は死にそうな娘のために必死に懇願している。
ヨゼフとアレクは、騎士団の隊員二人とともに彼らのもとへと向かうことにした。
「ワシらも町に入りたいのじゃが、なにやら揉めておる声が聞こえてのぅ。どうしたのじゃ?」
ヨゼフがそう尋ねると、門番はその見た目から、貴族だと気付き慌て始めた。
「た、大変申し訳ございません。すぐに通れるよう対応いたします」
「そうではないのじゃ。そちらの御仁が娘を助けてくれと言っているのが聞こえたもんじゃからな」
「はい。病気のようなのですが、あまりにひどい状態のため、伝染病かと思い、お通しできないとお断りしていたのです」
少女を見ると呼吸は荒く、顔色は真っ青だった。
アレクはすぐに〈診断〉を使う。
するとアレクの目の前に、患者の名前と病名、そして余命が表示される。診断結果には、新しく『症状』と『感染』が追加されていた。
患者:エリー
病名:血液性細菌感染症(重症)
症状:頭痛、咳、体温上昇、悪寒、ふるえ、手足の冷え、心拍数の上昇、呼吸数の増加
感染:伝染確率低
余命:二十八日
(スキルがレベルアップしたのか? それとも女神様からのプレゼントなのか?)
そう予想をするアレクだったが、はっきりしたことは分からないし、今はそれどころではない。
「父上、彼女は確かに病気でしたが、感染のリスクは基本的にはないようです。そしてこの子をこのままにすれば、一ヶ月も持ちません。もし許可していただけるなら、治療をしたいと思います。スキルを使ってもよろしいでしょうか」
小さな子が苦しそうにしているのは見過ごせないと感じたアレクは、そう言ってヨゼフに頭を下げる。その間も、少女は苦しそうにしていた。
「分かった。アレク、すぐ馬車から薬を持ってきなさい」
「はい! 分かりました」
馬車の中であれば、アレクがスキルで薬を生成している現場を見られないだろう。そう思ったヨゼフは、いったん馬車に戻るようアレクに指示を出した。
アレクはすぐに馬車に戻り、〈全知全能薬学〉で調べた治療薬を調合する。
薬を完成させたアレクは走って女の子のところに向かった。
少女の父親から「お願いします、どうかエリーを助けてください!」と言われる。止められることはなかったのは、アレクがいない間にヨゼフが説得してくれたためだ。
「エリーちゃん、口を開けて飲めるかな? 飲んでくれたら、苦しいのが治るからね」
アレクはそう言いながら、微かに開いた少女の口からゆっくり薬を流し込む。
少女は苦しそうにしながらも、最後まで飲んだ。
すると、少女の顔色がよくなり呼吸も正常に戻り、静かに眠り始めた。
「もう大丈夫そうですね。お父さんもエリーちゃんも汚れていますから《清潔》をかけますね」
泥や吐瀉物で汚れた二人に《清潔》をかける。少女を抱き起した際に、アレク自身も汚れてしまったので、自分にも《清潔》をかけた。
「本当にありがとうございます! 今、手持ちはありませんが必ずお礼をお支払いいたしますので、お名前をお聞かせ願えませんでしょうか?」
父親は泣きそうになりながらアレクにそう話しかけてきた。
「私はアレク・フォン・ヴェルトロです。それと、お礼は結構ですよ。人助けでお金儲けをすることは考えていませんから。たまたま娘さんの病気に効く薬を持っていただけですので」
「ワシはヨゼフ・フォン・ヴェルトロじゃ。息子の言う通り、金はいらんよ」
ヨゼフはお礼を断ったアレクを見て、王都に着いたら、今回のご褒美にアレクにお小遣いを渡そうと決めた。
「私は王都の商会の会長をしております、ランドと申します。この子は娘のエリーです。荷馬車が壊れてしまったあと、娘が急に体調を崩してしまい、全てを捨ててここまで娘を背負ってきたのです。娘のこと、本当にありがとうございます」
ランドは貴族らしき二人が礼はいらないと言っているので、これ以上払うと言うのは不敬に当たると考えた。
「しかと礼の言葉は受け取ったでのぅ。早く娘さんを宿に連れて行ってあげなさい。これは少ないが路銀じゃ。返さなくてええからのぅ」
ランドが一文なしということが分かったヨゼフは、宿代と飯代と帰るための乗り合い馬車のお金を渡す。
「本当に何から何までありがとうございます。すぐ娘を宿に連れて行きます。このご恩は一生忘れません」
そう言うと、ランドは娘を抱きかかえたまま走って町へと入っていく。
その後、アレク達も門番の検査を受けたあと、宿に向かった。
一日目から大変なことが起こったなと思うアレクであった。
◆ ◇ ◆
町を出て、出発してから三日目。現在馬車は街道をひた走っている。もうすぐ王都に到着する予定だ。
一日目は少女を助けるというちょっとしたトラブルがあったが、昨日、今日と何も起こっていない。
変わったことといえば、王都に近付くにつれて人通りが多くなり、貴族が乗っていそうな豪華な馬車が増えたくらいだ。
「父上、母上、人が増えてきましたね。そろそろ王都でしょうか?」
多くなってきた人通りと、綺麗に舗装されている街道を見てアレクはそう尋ねる。
「もうすぐじゃな。王都の大きな壁と門が見えてくるはずじゃ」
「私も、王都は二十年ぶりくらいだわ。凄い楽しみよ」
カリーネは長らく病に臥せっていたため、王都にはしばらく行けていなかった。
やがて、高さ十何メートルはあろうかという王都の壁が見えてきた。大きな戦争が起こっても簡単には崩れないと感じさせる迫力だ。
「うわぁ~本当に大きいですね。オーガの一撃も耐えそうですよ」
アレクは以前戦ったオーガを思い出しながら話す。
するとヨゼフがしみじみと口を開いた。
「アレクにこの壁ができた理由を教えようかのぅ。この壁は二百年前に起こったスタンピードを教訓に作られたのじゃ。多くの魔物が王都に押し寄せ、あわや陥落というところまでいったらしいのじゃが、何とか殲滅に成功し、魔物を二度と王都内に入れないように強固な壁が建てられたと言われておる」
「そんな歴史があったのですね。まさか、王都が陥落するほどのスタンピードが起こるなんて……」
スタンピードとは森やダンジョンから大量の魔物が溢れ出すことである。
もし、陥落していたら今こうして王都を訪れることはできなかったし、そもそも、王国自体がなかったかもしれない。
「原因は不明じゃが、いつまた起きてもおかしくないからのぅ。もしかすると、ワシらの領に溢れ返るかもしれん。じゃが兆候はあるからのぅ。逃げる時間くらいはあるから心配せんでもええぞい」
アレクは、もしそうなったとしたら薬をどれだけ使っても、助けられる命は助けたいと思った。
ようやく王都の門に到着した。護衛として同行してくれていたロイス団長が馬車を降り、門番と話している。しばらくして門番がこちらにやってくる。
「申し訳ございませんが、馬車内の検査をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「構わんぞ」
「ありがとうございます。では一度馬車から降りていただけますでしょうか」
馬車から降りると、門番はあちこちを軽く叩いたり、中を覗き込んで目視確認をしたり、色々な検査を始めた。
ちなみに、叩くのは変な空間がないかを調べるためだ。そうした空間に違法な物が隠されていることがある。
「――異常はないようですね。ご協力感謝いたします。それではどうぞお入りください」
何も問題がなかったようで、王都に入る許可が出た。
アレク達は、再度馬車に乗り込み王都内に入る。
「父上、王都ではいつもあのような検査があるのですか?」
「いや、普通はないのじゃが……晩餐会があるからかのぅ? まあ、気にせんでええぞい」
「はい。王都見物と晩餐会のことだけ考えておきますね」
「そうじゃな。明日はカリーネと楽しんでくればよい。小遣いもたっぷりやるからのぅ」
「父上、ありがとうございます。いっぱい楽しんできますね」
「よいよい。アレクが幸せなら、ワシもカリーネも嬉しいからのぅ」
「そうよ! アレクちゃん! 王都は楽しいところがいっぱいよ、たくさん楽しみましょう」
これぞ幸せな家庭といった感じの会話が馬車内で繰り広げられる。
セバンはその光景を目の当たりにし、目頭を押さえていた。
「なんと素晴らしいのでしょう。私も若返りましたし、家庭を持つのもいいかもしれませんね。第二の人生をアレク様に頂いたのですから」
王国を腐敗から立て直すための粛清部隊のボスとして気が抜けない中におり、家庭を持つことを禁じられていたセバンだが、今はそんな生き方をしなくてもよい。
「それはいいわね。セバンならきっと引く手あまたよ。セバンはどんな人が好みなのかしら?」
「そうですね……今まで女性とあまり関わりがありませんでしたから、多くは望みません。家庭を大事にしてくれて、子供と私を愛してくれる方ならどんな方でも構いません」
ヨゼフとカリーネとアレクは、見た目も性格もいいセバンならば、そのような女性はいっぱいいるだろうと思う。
「それなら、お見合いとかいいかもしれないわね。セバン以外にも結婚をしたい人を集めてお見合いをするのよ。ふふふ、楽しみになってきたわ」
カリーネはそんなことを口走る。
「カリーネ、セバンの意見もちゃんと聞くのじゃぞ」
なぜかノリノリの二人を見て、セバンとアレクは大変なことになりそうだと顔を見合わせるのであった。
無事に宿に到着し、翌日。
宿を出て歩きながら、アレクは昨夜のことで文句を口にする。
「お母さん、昨日は寝苦しかったよ。まさか、お父さんとお母さんに抱きつかれて寝ることになるとは思わなかった」
セバンが一人部屋でヴェルトロ一家は同じ大部屋に泊まったのだが、ヨゼフとカリーネはアレクを真ん中に挟んで、彼を抱き枕にしていたのである。
「だって、アレクちゃんが可愛いから仕方ないじゃない。お母さんのこと嫌いなの?」
カリーネはわざと悲しそうな表情を浮かべながら言う。
「お母さんのことは嫌いじゃないよ。でも、可愛い子ぶるお母さんは嫌いだな。普段のお母さんが好きだよ」
「うっ……そんな笑顔で言われたら私が悪いみたいじゃないのよ。はぁ~お母さんが悪かったわ。アレクちゃん、ごめんなさい」
カリーネは素直に謝る。
「いいよ。その代わり、今日はセバンも含めていっぱい楽しもうね」
アレクは王都見物の話に話題を変える。今日は馬車を使わずにのんびり王都見物をする予定だ。
色々な屋台やお店が気になって仕方ない。
それから、色々見て歩いていると人だかりができている場所を通りかかった。疑問に思ったアレクは立ち止まる。
「ねぇ、あの人だかりは?」
「なにかしらね?」
「なんでしょうか? 危険はなさそうですが」
セバンは護衛として危険がないか、〈気配察知〉というスキルを常に使いながら周囲を警戒していた。
背伸びをして観察を終えたセバンが正解を伝える。
「あれは腕相撲大会ですね。王者は《身体強化》を腕に集中させて一気に爆発させる技術を使っています。アレク様、肩車をしますので見てください」
《身体強化》とは魔法の一種で、自身の肉体を一時的に強化することができる。
肩車をされたアレクが見てみるも、感知スキルがないアレクには全く分からなかった。
魔法は訓練により習得できるものがほとんどだが、スキルは生まれ持った才能のようなもので、後天的に獲得することは難しい。
ちなみに、セバンは〈魔力感知〉というスキルで魔力の流れを感知しているから分かるのである。
「見ただけだと分からないな。でも、腕だけに集中させる技術……魔力操作に長けているんだろうね」
アレクがそう言うと、セバンとカリーネが反応した。
「アレク様、挑戦されたらどうですか? 修業の成果を見せる時ですよ」
「アレクちゃんが勝つところを見たいわ」
そこまで言われたらやってみたくなる。アレクはすぐに『腕力強化薬』と『瞬発力強化薬』を服用する。
ちょうどよく進行役が「挑戦者はいないかー?」と言っている。
「すみません。挑戦したいのですがどうすればいいでしょう?」
セバンが進行役の男に話しかける。
「お! 兄ちゃんやるかい? 金貨一枚を払って、もし勝つことができたら今日の勝ち分を総取りだ!」
テーブルに載っている箱の中には、結構な枚数の金貨が入っていた。
「挑戦するのはこちらのアレク様です。では金貨一枚払いますね」
周りからは「あんな小さい子が勝てるわけねぇだろ」とか「無駄な金を払うなら俺にくれ」などあまりいい声はない。ただ、何人かの女性からセバンとアレクに、「カッコいい」とか「可愛い」という声が上がった。
「まさか、この坊主が挑戦者かい? まぁ、金は払ってもらったんだ。構わないよ。じゃあ坊主、ルールを説明するぜ。ここに座って手を握り、三、二、一、始め!の合図で開始するんだ」
粗雑そうな進行役は意外にも、しっかりと説明をしてくれる。
だがもっと意外なことを目の前にいる王者の男が言ってきた。
「君、かなり強いね。流石にこんな小さい子に負けるわけにはいかないから、本気を出すね」
瞬時に実力を見抜かれ、やっぱり、王者はただの力自慢じゃないなとアレクは思った。
「はい! 本気で来てください。俺も本気でいきますから」
アレクは『武功』と《身体強化》を使って、さらに力を向上させる。
武功とは、体中に『気』を巡らせて肉体を強化する技で、アレクは薬を飲むことによってこれを習得していた。
そして手を握り合い、進行役の合図を待つ。
「ではお互い力を抜いて……三、二、一……始め!」
進行役の合図でお互いが力を入れるが、一向にその位置から動かない。
初めは子供相手だから力を抜いているのかと思っていた観客からも、次第に疑問の声が湧いてくる。
「ぐっ……やっぱり強いね。でも、負けるわけにはいかないから、これを使わせてもらうよ」
相手の力が急に強くなり、アレクの手がテーブルに付きそうになる。アレクも《身体強化》を腕に集中させてなんとか耐える。
「ぐぬぬぬ……」
アレクから耐える声が漏れる。
周りからは「頑張れ」とか「負けるな」などの声援が上がり、カリーネも「アレクちゃ~ん、頑張って」と叫んだ。
だが、勝負は呆気ない幕切れを迎えた。
二人のあまりの力に、テーブルが耐えきれず割れてしまったのだ。
「うわぁっ」
「うぉっ」
アレクと王者の男は思わず驚いた声を出す。
そして二人は倒れ込む。しかしその際も、お互いの手はしっかりと握られたままだった。
どちらが勝ったのか? 観衆が集まり二人を見ると、王者の男の手が上にあり、アレクの手が下にあった。進行役が叫ぶ。
412
お気に入りに追加
6,084
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。