上 下
496 / 694
第3章 アレクを狙って

第570話 王都は、完全に魔の手に墜ちた。

しおりを挟む
「汚ないとこで悪いが、まずは座ってくれ」

「ジェイム殿、座っている暇はないのです!早く私を王都から出して頂けませんか?」

陛下をいち早く助けなければと考えるアントンは、こんな場所でのんびりしている暇はないと考えるのだ。

「急ぐ気持ちもわかるが、あんたを届ける案内人がじきにくる!それまで、のんびり寛いでくれ!」

ジェイムが、アントンを助けた時に、ジェイムの部下がすでに案内人の下へ向かっていた。

「そういうことでしたか!それとジェイム殿は、どこまで知っているのですか?」

アントンは、木の椅子に座って、バトラーから何を言われたのかを尋ねる。
ジェイムは、木のコップに水を入れてアントンに渡す。

「ありがとうございます......ふぅ~」

アントンは、一気に水を飲み干し、走ってカラカラになった喉を潤す。

「王城が、色々大変らしいな!バトラーさんからは、国王陛下に何かあった場合、あんたを逃がすと聞いていた。それと、手引きしてやってくれともな」

ジェイムの仲間達が、王都に潜伏しているので、逐一ジェイムへと情報が入ってくる。だからこそ、王都の状況を理解しているのだ。

「そうだったのですね!ジェイム殿、陛下の安否や王都の状況をわかる範囲で教えてはもらえませんか?」

「門と王都の商会や貴族の屋敷は、完全に制圧されてるな!それから、王城は大量の武装した兵に囲まれている状況だ!悪いが、王城内までは把握しきれていない」

ジェイムの情報を聞いたアントンは、深刻そうな表情をする。話を聞く限り、王都は完全に陥落してしまったことを意味するからだ。

「最悪の状況ですね......誰も殺されていなければよいのですが......」

アントンが、話していると急にドアが勢いよく開く。

「ジェイムさん、早く逃げて......」

血相を変えてやってきた青年は、最後まで話す前に崩れ落ちて倒れる。そして、倒れた青年を見ると背中を刺されて血だらけになっているのだ。

「まさか、スラムに逃げ込んでいるとは思いませんでしたよ!スラムの人間を買収して正解でしたね」

「チッ!流石に、この人数は厳しいな」

6人の敵が、家を取り囲む。ジェイムは、アントンを庇いながら6人を一度に相手するのは、無理だと判断して、ここまでかと諦める。

「では、そろそろあの世に行って頂きましょうか」

「アントン、悪いな!約束を守れないようだ」

敵が、小屋に入ろうと一歩踏み出す。そして、ジェイムは逃がすことができなかったことを悔いて謝る。アントンは、その言葉を聞いて首を横に振る。

「な、なんだお前は!ぐはぁっ」

急に、後方にいた敵が、悲鳴をあげて次々に倒れていく。その声を聞いて、一番前にいた男が振り返り、何か言おうとしたが、振り返った瞬間に崩れ落ちて倒れる。

「間に合ってよかったです!ジェイムも宰相様も、ご無事で何よりでしたよ」

崩れ落ちた敵の前にいたのは、バトラーであった。ジェイムは、安堵の表情を浮かべて、王城にいるものとばかり思っていたアントンは驚いた表情を見せる。

「はぁ~、オヤジ!助かった......」

ジェイムは、死を覚悟していたこともあって、安心した瞬間、その場でへたり込んでしまう。

「バトラーさん、何故貴方がここにいるのですか?」

「話は、あとにしましょう!追手はまだまだいますからね!ジェイム、いつまでも座っていないで隠し戸を開けてください」

ジェイムは、バトラーの言葉を聞いた瞬間、スッと素早く立ち上がって床の隠し通路に繋がる戸を開けるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

とじこめラビリンス

トキワオレンジ
児童書・童話
【東宝×アルファポリス第10回絵本・児童書大賞 優秀賞受賞】 太郎、麻衣子、章純、希未の仲良し4人組。 いつものように公園で遊んでいたら、飼い犬のロロが逃げてしまった。 ロロが迷い込んだのは、使われなくなった古い美術館の建物。ロロを追って、半開きの搬入口から侵入したら、シャッターが締まり閉じ込められてしまった。 ここから外に出るためには、ゲームをクリアしなければならない――

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。