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第8章 復学生活の始まり

第334話 クーザーの悲しき過去とやり直す未来!

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「これは、どういうことですか?」

クーザーは、アレクの屋敷に訪れたのだが、珍しく声を荒らげているのだ。

「どういうことって約束した通りだよ」

「約束したのは、今までの暮らしと学院に通えるよう手助けして頂けるだけだったはずです。それが、なんですか?あの屋敷は!」

アレクは、男爵程度の屋敷をクーザーにあげたのだ。しかも、メイドや執事までいるのである。

「一人で暮らすには広いだろうけど、二人なら必要かなって」

「二人?どういうことですか?」

クーザーは、アレクの言っていることがわからないのだ。

「第一夫人ソフィアさん!クーザー殿の本当の母上と言えばいいですか?」

クーザーは、目を丸くする。そして、おもむろに立ち上がりアレクの目の前にやってくる。

「何故、母上が出てくるのですか!母は、私を捨てて出ていきました!まさか...」

察しのいいクーザーは、アレクが何を言おうとしているのか薄々気付きだす。

「アサシンいるんだろ?あの件と言えばわかるからファビロに伝えてきて」

クーザーとアレクしかいないはずの部屋の中で、アサシンの名前を出して命令をする。アサシンからは、何の返答もないのだが、暫くするとドアがノックされる。

「ファビロです。連れて参りました」

「入ってもらって」

アレクが、許可を出すと茶色いロングヘアーの綺麗な女性が入ってくる。

「お母様...ですか...」

クーザーは、一目で気付きはしたのだが、会えるはずもないと思っていたので驚くのだ。

「クーザー...大きくなったわね...」

ソフィアは、クーザーを見て涙を流しながら言うのだ。しかし、その後はお互い沈黙が続く。お互いに話したいことはあるのだが、長い間の溝はすぐには埋まらないのである。

「はぁぁ、せっかく会えたのに話さないの?じゃあ、俺が聞いちゃうよ。ソフィアさん、何故クーザーを捨てて家を出たのですか?」

二人を見兼ねたアレクが、話を切り出す。ソフィアは、ハッとしてアレクを見るが、言い出しづらいのだろう。下を向いてしまう。クーザーは、気になっていることを悟られたくない為に、目だけ動かして様子を窺うのだ。

「もう一度聞きますよ。どうして出て言ったのですか?もし答えたくないのであれば、もう二度とクーザー殿とは会えないと考えて下さい」

アレクは、一見酷いような言い方をするが、どうにか二人のわだかまりを解く足掛かりを掴もうとしているのだ。

「申し訳ございません!タカハシ辺境伯様!ここまでして頂いたにも関わらず...」

「俺は、外に出ているから二人で話すといいよ。アサシンも一緒に出るよ」

アレクが、そう言うとどこに潜んでいたか?アサシンが急に現れて礼をした後、アレクと共に部屋を出るのだ。
そして、クーザーとソフィアだけとなり、また沈黙が続くが、ソフィアから話を切り出すのだ。

「クーザー、ごめんなさい!どんな理由があったにしても、あなたを捨てて行った事実は変わらないわ...本当にごめんなさい」

ソフィアは、泣きながらクーザーに謝る。それを見たクーザーは、膝の上で手を握り拳にしたままグッと力を入れる。

「お母様、何故僕を捨てて出ていったのですか?」

謝られても、理由を一切知らないクーザーからすると許せないのだ。

「あなたを産んでからあの人は、私に見向きもしなくなったわ。毎日他の女性と遊んでばかりいて...それに、使用人からも蔑むような目で見られる毎日...だから屋敷を出たのよ」

「では、何故その時に僕も連れて行ってくれなかったのですか?僕がどんな気持ちで毎日過ごしてきたと思っているのですか!」

クーザーは、幼き頃の苦い過去を思い出して、思いの丈をソフィアにぶつける。

「ごめんなさい!あなたを連れていく余裕がなかったのよ...育てる余裕もない...って言い訳よね...本当にごめんなさい」

経済的余裕もなく、精神的余裕もなかったソフィアは、クーザーを捨てて出ていったのだ。今思い返すとなんと最悪なことをしたのだろうと悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいなのだ。

「僕は、裕福な暮らしより貧乏でもお母様といたかったです!あの時は、正直恨みました」

「本当にごめんなさい!ずっと悔やんでいたわ。でも、一度出て行ってしまっては、もうあの家には戻れなかったのよ...」

ずっと泣きながら謝るソフィアに対して、クーザーは大きく息を吐いてから話しだす。

「お母様、今からでもやり直しませんか?せっかくタカハシ辺境伯様から頂いた機会なのですから」

クーザーは、過去のことや恨みをずっと抱え込むより、今をどうするかを考えたのだ。

「クーザー...こんな母を許してくれるの?」

「許すとか許さないではなく、1から親子としてやり直しましょう。思い出も全然ありませんからね。今からいっぱい作りましょう」

「クーザー...」

この言葉を聞いたソフィアは、救われると同時に、なんていい子に育ったのだと思うのだ。

「そろそろ、話し合いは終わったかな?」

見計らったかのようなタイミングでアレクが部屋へと入ってくる。クーザーとソフィアは、驚いて同時に「タカハシ辺境伯様!」と言うのだ。

「その表情からして、どうやら話し合いは終わったみたいだね」

アレクは、笑顔で二人を見てうまく話し合ったんだなと安堵する。

「はい!これから親子としてやり直そうと話していました」

「じゃあ、ちょうどよかったよ。あの屋敷に二人で住んだらいいよ」

アレクは、よかったよかったと頷くのだ。

「タカハシ辺境伯様、母と再会させて頂けただけで十分です。それ以上貰うわけには...」

「あの屋敷は、侯爵から巻き上げた...違った貰った金貨で買った屋敷だよ。今まで迷惑を被った賠償金だと思ってお母さんと一緒に暮らしたらいいよ。それと、辺境伯からの命令でも聞かないつもりかい?」

アレクは、ウッドストック侯爵のお金をクーザーの生活費と学院の費用と屋敷の費用に当てたのだ。

「タカハシ辺境伯様、それは卑怯です。断れないではないですか...」

クーザーは、困った顔をしてアレクを見る。

「ソフィアさん、次はクーザーを悲しませないようにして下さい。辺境伯命令です」

「は、はい!タカハシ辺境伯様に誓ってクーザーを悲しませないように致します」





「お母様、言って参ります」

「行ってらっしゃい!気をつけて行くのよ」

制服に身を包んだクーザーが、ソフィアに手を振りながら走って学院に行く。それを、見送るソフィアもまた笑顔で手を振るのだった。
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