上 下
181 / 694
第5章 大和ノ国へ出発

第257話 粕汁うま〜からのノックスの憂いな表情!

しおりを挟む
今アレクは、せっせと粕汁を作っている。

「俺の家は特殊だったからな。具は細かくしてと...それから、こっちの鮭はどんな味がするんだろう?」

アレクは、大根とこんにゃくと人参を切っている。こんにゃくまで売っているとは思わず、見つけた時は驚いたものである。

「よし!野菜を煮立てていくぞ」

切った食材を煮立てながら大根が柔らかくなったところで、貰った酒粕と白味噌を少し加えてよくかき混ぜていく。

「いい具合に出来上がってきたな。味見味見と...うん!前世と同じ味だ。それに鮭の味が濃くてうまい」

普通は、長ねぎを先に入れたりするのだが、うちの家は青ネギを上からかけるのである。

「完成っと」

「作り方はわかったよ。それにしてもいい匂いだねぇ」

「うわぁ!ずっと見ていたんですか?」

アレクは、作るのに夢中で一切視界に入っていなかったのだ。

「また驚かせちまったみたいだね。あまりの手際の良さに魅入っちまったよ」

おばさんは、笑顔で話し始める。

「何回か作ったことがあるだけですよ。それより、向こうに持って行って食べましょう」

そう言って鍋とお椀と食器を運ぶアレクとおばさん。

「二人とも出来ましたよ。はい!どうぞ、食べてみて下さい」

お椀に粕汁を入れて3人に渡す。3人は、一斉に食べ始めるのだった。

「こりゃあ~うまい!ほのかに酒の香りがするのもいいな」

「確かに、うまいな!何杯でも食えそうだ」

「これはいいね~体が温まるよ。それにしても、酒粕に野菜と鮭がこんなにも合うとはねぇ~驚きだよ」

3人とも気に入ってくれたようで、おかわりまでしてくれたのだ。

「あぁ~懐かしい!おいしいな。めちゃくちゃいい酒粕まで手に入ってよかった」

アレクも、うまそうに粕汁を飲むのであった。





「おいしかった。師匠、そろそろ買う物決めて帰りませんか?」

あまり長居するのも、どうかと思ったアレクがノックスに尋ねる。

「それもそうだな。おっちゃん、さっき言ってたのをくれないか?」

「よし!包んでくるから待ってろ」

それから、綺麗に袋詰された酒を大量に買ったノックスは、ご満悦な表情を浮かべる。

「書いてくれたのは、今日から商品の横に並べさせてもらう。それと、これが酒粕だ。酒粕の新しい可能性を見出してくれたことに感謝だな」

酒粕が入った袋を大量に渡してくれた店主にアレクは「ありがとうございます」とお礼を言う。ちなみに食べた後、POPを大量に書かされたのは言うまでもない。

「またいつでもこいよ!二人なら大歓迎だ」

「は~い!また絶対来ますね」

アレクは、手を振りながら店を出るのであった。

「師匠、帝国についてどう思いますか?」

老永への帰り道に、ふと帝国のことが頭に浮かんで聞いてみるのだった。

「どうと言われてもな。行ったこともない。接点もないからな。だが、魔ノ国の連中に聞いた話だと最低な国らしいな。しかし、将軍には興味がある。最強との噂だ」

やはり、戦うことにしか興味がないノックスは、将軍一択なのである。

「やっぱり師匠は師匠ですね。でも、ラヴァーナ様も勝てない相手らしいですよ。なんでも異空間から無理矢理這い出てくるみたいですから」

ラヴァーナが、得意とする空間を操るスキルさえも通用しないのである。

「化け物だな。だが、それくらい骨のあるやつと戦いたい。いつかルシファーと戦うその時までに俺は今以上に強くならないといけないならな」

「師匠、正直今のままでもルシファーには勝てませんか?」

アレクから見ても対人最強だと思うほどに強いノックスだが、更に強くなろうとしている事実にまだまだ及ばない存在なのかと考えてしまう。

「勝てない...瞬殺されるだろうな...」

「薬を使ってもですか?」

「あぁ...負ける...」

普段は、絶対に口にしないようなことや表情をするノックスに不安を覚えるアレク。

「でも、こっちには強くなった仲間がいっぱいいます。それでも...」

アレクの言葉を途中で遮るように話すノックス。

「無理だ。あの時も今もやつの底が見えない。だから、もし現れたらアレク坊はヘルミーナを連れて逃げろ」

「師匠、何を言ってるんですか!絶対に逃げません。一緒に戦います」

アレクは、何を言い出すんだと強い口調になるのだった。

「最愛の者を失う気持ちをアレク坊に味わってほしくないんだ。失ってからでは遅いからな...ってこんな話をしていたら気が滅入っちまうな。やめだやめだ!」

「師匠...」

ノックスは、最愛の人のことを前々から深く話そうとはしない。だが、ノックスも深い闇を抱えているんだろうなと察するアレクは、これ以上聞き出すことが出来ないのである。

「帰ったら続きを飲むぞ。アレク坊は、ヘルミーナと過ごしてやれ。新婚旅行なんだしな」

「はい!そうします」

本当は、突っ込んだ話をしたかったが、これ以上は話してくれないだろうと考えて、素直に従うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

とじこめラビリンス

トキワオレンジ
児童書・童話
【東宝×アルファポリス第10回絵本・児童書大賞 優秀賞受賞】 太郎、麻衣子、章純、希未の仲良し4人組。 いつものように公園で遊んでいたら、飼い犬のロロが逃げてしまった。 ロロが迷い込んだのは、使われなくなった古い美術館の建物。ロロを追って、半開きの搬入口から侵入したら、シャッターが締まり閉じ込められてしまった。 ここから外に出るためには、ゲームをクリアしなければならない――

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。