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第6話 どきどき。
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朝食は、ルームサービスでセットを頼んだ。こういう時は便利だよね。
酒盛りの跡は、結構散らかってて大変な惨状になっていた。どう見ても、真希ちゃんが買い置き用に買った分のお酒も飲み尽くしている。後で片付けしよう。
顔を洗ったりしてる内に、カートに乗った朝食が届いた。
割り勘分のお金を真希ちゃんに受け取ってもらうのに苦労した。
真希ちゃんの提案で、リビングから外に続くウッドデッキで、朝ご飯を頂くことにした。
「すっげー……なにこれ!?」
「ははは、ホントに呆れるくらい無駄に豪勢ですよね、ここ」
ペントハウス+庭で屋上の四分の一くらいのスペースを占めている。かなり広い庭がついているのだ。そう、ちゃんと芝生が敷かれて幾つか植え込みや花壇なんかもあったり、背丈のある植栽もある。ペントハウス北側には、マンションの色々な屋上設備が置かれているみたい。
「こっちのゲストルーム側より、あっち側のメインの庭園の方が広くて世話するのは大変なんですけどねえ」
植え込みで目隠しされてて気づかなかったが、どうやらちょっとしたガーデンパーティができるくらいのメインの庭があるらしい。プールには真希ちゃんが自腹でブルーシートを買ってきてがっちり封印したらしい。
「ぷっ……もしかして、真希ちゃんってハウスキーピング要員?」
「はぁ……ホントにそれですよ、もお。税金対策で維持してるようなもんですし」
お父さんの会社のゲストハウスは汐留の方に、新しいのがあって、こちらは余り使わなくなってたらしい。こんなにゴージャスだと、そうそう買い手や借り手の見つかるような物件じゃないし。
作り付けの大きな倉庫から、真希ちゃんと折りたたみのウッドテーブルと椅子を出して、雑巾で綺麗に拭く。
「ずっと出しっぱなしにしとくと、あっという間に傷んじゃって……親に1セット弁償する羽目になったですよ」
苦笑いを浮かべながら、真希ちゃんは肩を竦める。
「もしかして、この庭の手入れも、真希ちゃん?」
「そうですよ。最初の頃は、全然わからなくて……ネットで調べたり、実家の庭師の人に聞いたりで」
二人で笑いながら、テーブルに朝食を並べていく。桁外れのセレブなお嬢様も、実は結構大変なんだなあ、と思った。
そんな感じで、青い空の下、美味しい朝食を頂く。
スクランブルエッグにベーコンとソーセージとフライドポテト。
サラダとフルーツの入ったヨーグルトのスムージー。
あとは、カットしてあるバゲットにロールパンと紅茶。
まあ、いかにもなホテルの朝食っぽいセットだけど、とても丁寧に調理されてて、すごく美味しい。綺麗なウッドデッキとか、眺めのいい景色とか、そんな雰囲気的なものもあるんだろうけど。
「今日、私は特に用事ないんだけど、真希ちゃんは大丈夫なの?」
「ええ、飲み会の次の日は、なるべく空けるようにしてるので」
ちょっと紅茶を飲んで、ふと思った。
「そういえば、昨日、結構飲んだのに割と平気だなあ」
「ああ……そういえば、そうですねえ」
「結構、楽しかったからかなあ。後半は記憶曖昧だけど、すっごい楽しい気分だったのは憶えてるし」
「……先輩、どこまで……憶えてます?」
ちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべて、真希ちゃんが聞いてくる。
「う……。ほら、アレだよ……一人でする時どうしてる?とかってバカな話してた辺りくらいまで……」
うう、ホントにバカな話してたな。頬がかあっと熱くなる。
真希ちゃんも、自分で話を振ったクセに赤くなってる。
「先輩、五反田の何か専用ホテルに一緒にいって、新しい世界の扉を二人で開こう!とか言ってましたけど…………」
「ひえっ!?忘れてください。お願いします。すいません。忘れて」
なんてコト言ってるんだ、私は。
「あはは、怖いもの見たさで、ちょっと行ってみてもイイかな、なんて私も言っちゃってたので……」
「ぶっ、真希ちゃんも相当酔ってたんだね……」
ちょっと小首をかしげて顔を顰めると彼女は考えこむように言った。
「でも、私も憶えているのは、その辺くらいまでで……」
うーん、その後は…………朝のアレだ。
「どこをどうすると、ああなるのかなあ」
「むー、謎ですね……」
ちょと、朝の出来事を思い出し……真希ちゃんのすべすべの肌や生の“色々なところ”の感触、甘くてとてもイイ匂い、可愛い寝顔やら何やら……あわわわ、やめやめ!回想中止!!
私は軽く首を振って、妄想を頭から追い出した。
これといって用事のない私達は、麻布十番をちょっと散策することにした。
真希ちゃんに手を繋がれ、あちこち案内してもらった。ちょっとした雑貨を買ったり、買い食いしたり……お昼に美味しい海鮮丼のランチを食べたりして。午後のオヤツ用に話題のスイーツとかいうのも買ってみた。夕飯の食材も、色々と買い込んで。
こういう休日も、なんだか久しぶり。息抜きサイコー!
★ ★ ★
──とか言ってた時から、既に1週間が経過している。
なんだかんだと言って、私はずっと真希ちゃんちにいる。
ヤバイくらい居心地がいいのだ……。
一度、家に帰ってはいる。着替えとか取りに。
ああううー、こんなんじゃダメだあ!!何度、思ったことか!
遅くに帰れば、玄関まで真希ちゃんがご機嫌で出迎えてくれる。先に帰ってきて、夕飯を作って待ってれば、真希ちゃんは大喜びでご飯を食べてくれる。一緒に帰れば、夕飯の材料を買い物したり、外食したり、ものすごく楽しい。
一緒にくっついて、テレビみたり、ゲームしたり……勉強とかも教え合ったりして案外捗る。
それに、真希ちゃんは、普段の凛とした感じとは全然違ってて、一緒にいると子猫が甘えてくるみたいに、じゃれついてきてメッチャ可愛いのだ。常時、ぎゅうって抱きしめていたくなる。
それに、真希ちゃんと寝ると熟睡できるのだ……不思議だけど。
彼女も私と一緒で、けっこう精神的にストレスが多くて、あんまりちゃんと眠れなかったんだ。何かするって訳じゃなくて、ただぴっとりくっついて寝てるだけなんだけど。
とっても楽しくて、安心できる。自分が自分でいられる。
……そんなヤバいくらいの居心地の良さなのだ。
ソファに一緒に座って私にしなだれかかってる真希ちゃんを、そっと起こすと、これまで何度も言ったセリフを告げる。
「──真希ちゃん、もう1回……ちゃんと話し合おう」
「…………。」
真希ちゃんが、「またですか?」という顔しつつも居住まいを正す。
「このまま、ズルズルと居候するのは、やっぱり良くないと思うのよ」
「…………まぁ……そうですよね」
ちょっと俯き加減の真希ちゃんは見るからに元気がなくなっていく。ちくちくと罪悪感に苛まれる私。
「真希ちゃんのプライベートルームだけの間取りでも、この界隈で2人でシェアルームするとなると、家賃が1人10万とか15万しちゃう。私の三軒茶屋のワンルームより高いし」
「そりゃあ、ここを賃貸で借りたら月300万以上はするって言われましたもん」
…………は?……へ?
「うそ!?いやいや、マジで?」
「でも、ウチの所有ですから家賃関係ないです……維持費も税金対策で親が払っていますから、家賃もらっても困ります。私が払っているのは有料のサービス使った分だけですよ」
う……金銭で悟桐家が困窮する訳ないか……。
「それに、家の維持っていう点でも、私一人よりは乃愛先輩に手伝ってもらったほうが、遙かに効率いいですから、むしろ助かります」
い、いちおう、これでも本職のメイドさんの卵だしね。掃除洗濯に料理くらいは、できないと話にならんですよ。
「実家のメイドさん使うなら時給はお前持ち、って言われてるくらいなので、メイドさんの研修受けてる乃愛先輩がタダでいてくれるなら、私の方がありがたですよ?」
……ホントに出てく理由がない。どうしよう。
「でもさ、大学とかの他の友だちも『だったら私も一緒に住みたーい!』とか言い出したらどうするの?」
家賃シェアがゼロで、麻布十番にこの豪勢な最上階のペントハウスだよ??こんなヨダレがでるほどオイシい話は乗れるもんなら誰でも乗る。
「そりゃあ、先輩と同じ時間効率で、ペントハウス内を全部ピカピカに磨いたように掃除ができて、服やタオルとかも綺麗に畳んでバッチリ使いやすい感じで整頓して収納してくれたりとか……同じハウスキーピングができる人だったら考えますけど」
……ウチの大学でも、そうは居ないか。家政科自体メンツ少ないしなあ。ここ20年来ずっと右肩下がりだと教授もボヤいていたくらい。
卒業生の進路にしても、料理研究家、環境衛生学や食品会社の研究員とか、主婦向けの商品のマーケットリサーチ会社やシンクタンクとか……そんな感じの人が多くて。私みたいなメイド志望は、十数年ぶりだと聞いている。
「……でも、私も多少はいいのかなぁ、とは思います。漠然と、ですけど」
「うん……正直いうと、私も帰る理由がなさすぎて、却って不安になるというか……」
うーん……と二人で頭を捻る。これも毎度のパターンだ。
「……真希ちゃんさえ迷惑でなければ、だけどぉ……」
このセリフに物凄い勢いで真希ちゃんが身を乗り出す。瞳がキラッキラしてる。シッポがあったらぶんぶんと左右に激しく振ってるにちがいない。
「もうすぐメイドの研修が始まるんだけど……それ汐留なんだよ。ここから通うの凄く楽だからさ、研修終わるまでココいていいかな?」
「はいっ!!」
満面の笑みで私に抱きつく真希ちゃん。勢い余ってそのままソファに重なりあって倒れこむ。
「わーいっ!やったぁ!!」
「わぁ!?こらこら!何よぉ、喜びすぎだよお」
大喜びで私の胸元にむしゃぶりついている真希ちゃんを、何とか押しのけようとしてジャレあいながら……この無駄に豪華でバカみたいに広すぎる家に、一人きりでいるのは……真希ちゃんも寂しかったのかもしれないな、と思ったりした。
★ ★ ★
いちおう、ケジメとして、居候するのは研修の終わる2ヶ月間と決めた。家主の真希ちゃんが「やっぱり出てってほしい」と宣言したら、すぐさま出て行くということにした。
その先のことは、2ヶ月後に話し合って決めよう。
真希ちゃんは「好きなだけいてくれて、いいのに」と不満そうに唇を尖らせていた。でも、実際、今週1週間は問題なかったけど、この先、暮らしてみたら、案外不満とか出てくるかもしれない。そんな時に仲のいい友達のまま、モメずにいたいもん。
マンションの有料サービスを使うときは、割り勘。もしくは自己負担。他にも共同生活で必要とあれば話し合ってルールを決めるとかして解決する方向で。
「今更ですが……しばらく厄介になりますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、無駄に広すぎてお掃除とか大変でしょうが、よろしくお願いします」
お互いにソファの上に正座して、三つ指をついてお辞儀。ぺこり。
「「ぷっ……」」
顔を見合わせると、思わず吹き出してしまい、そのままゲラゲラと笑い出してしまった。
ぼちぼち、夜も更けてきたので、色々と寝る支度。
お肌のお手入れとか、まぁ……いろいろあるのだ。
そして、いつものように同じベッドに入って、横になって目の前の真希ちゃんの顔をみる。こうして間近でみると、すごい可愛い。
やっぱり……名前も似てるけどゴマキに顔つきも似てる。恐ろしく機嫌が悪くなるから言わないけど。
真希ちゃんが、意を決したように……でも少し不安そうに目線を外して
「……あのぉ……せっかくだから、脱いじゃいません?」
「えっと……裸で寝る?」
「うん……気分的な安心感が……かなり違うというか……乃愛先輩が嫌じゃなければ」
私も、たぶん真希ちゃんも裸族癖はないと思うんだけど……こないだの“全裸で抱き合って寝ちゃってた事件”の時……ものすごく快適で気持よく眠れてしまったのも事実で。
「うん、やってみようか」
「……ありがとうございますっ」
真希ちゃんの嬉しそうな声と一緒に吐息が首にあたって、とても甘い感じにくすぐったい。
お互いに少し身体を起こすと、キャミとパンティーを、するするっと脱ぐ。
無為に男に抱かれる時と違って、憂鬱な気分とかは全く湧いてこない。ちょっと、どきどきするけど、安心感とか癒され感が半端ない。
真希ちゃんは大丈夫。接待に裏切ったりしないし、見捨てたりしないという安心感と信頼感の実績が、今までのロクでもない男とかとは桁違いなのだ。まあ、女の子同士だしね。
そんな風に、真希ちゃんも感じてくれてたら嬉しいな。
布団をかぶると、おずおずと寄り添うように身体をくっつける。くすっと笑い合うと、そっとお互いの身体に腕を絡める。真希ちゃんのすべすべの肌は、ものすごく触り心地がいい。
おっぱいが、ぷよんっと押し付けられて、お腹も腰も密着する。
脚の収まりのいい具合を探して二人とも苦笑しながらモゾモゾさせてると……ここだ!みたいな脚の絡む塩梅が良いとこが見つかる。なんか、太腿同士を挟み合って密着しちゃってるけど……。
こうなると、真希ちゃんの慎ましい乳首の感触も、やわらかい下の陰毛の感触も、はっきりわかってしまう。
「はふ……やっぱり、すごい落ち着きます」
私の鎖骨のあたりに顔を埋めて、真希ちゃんが吐息を漏らしながら、ヒソヒソと囁いた。
「真希ちゃんの抱き心地性能は最高だよ」
「ふふふ、乃愛先輩の抱き心地を味わえないから、そういう事言えるんですよ」
くすくすと真希ちゃんが笑う。……そりゃ、自分の抱き心地なんてわかんないって。
仕返しに、ぎゅうって抱きしめちゃうと、真希ちゃんは甘いタメ息を漏らす。
「……ふぁあん」
「そういう時に出る真希ちゃん声って、普段と全然違ってメッチャ可愛い」
「やぁん……もお、いじわる……」
薄暗い部屋の中で、潤んだ瞳の真希ちゃんは、かなり色っぽく見える。こんな可愛い子が、自分の腕の中に裸でいるのがウソみたいだ。
「真希ちゃん、おやすみ……」
「おやすみなさい……乃愛先輩」
そんな真希ちゃんの身体は暖かくて、抱きしめてるだけでほわほわとしたイイ気持ちになってくる。
真希ちゃんを見ると、眠たそうな顔して子猫のような小さな欠伸をしている。そんな彼女を見ていると幸せな気分になって、私もトロトロと溶けていくように深い眠りに落ちていく。
そういえば、いつの間にか真希ちゃんは、私のことを乃愛先輩って呼ぶようになってたなあ……。
★ ★ ★
翌日は、二人とも、ものすごく良く寝た感とスッキリした目覚めて、真希ちゃんは「これが……裸族効果なのかっ!?」とふざけてた。
ちょっとクセになるほどの快眠効果だ。あんまり、人様には言えない快眠法だけどね。
真希ちゃんは2年生で私より講義が多いので、早くに学校へ行った。私は、朝食の後片付けをして、部屋の掃除と洗濯。お昼は待ち合わせをして学食でいっしょに食べることになっている。
ちょっと調べ物とか勉強を少しして、お昼前に身支度を整えて出かける。
私一人の時には、さすがに真希ちゃん専属運転手の井出さんのお世話になる訳にもいかないので、地下鉄だ。もっとも、真希ちゃんも朝の渋滞はイヤみたいで、今日とか時間が早い時は地下鉄に乗っていく。
学食に行くと、少し早かったのか真希ちゃんの姿は見当たらない。
出入り口が見える席にすわって、読みさしの文庫本を開く。
しばらく、本の世界に没入。
ふと、本から目線をずらすと、入り口のあたりに真希ちゃんが何かしてるのが見える。
お?……何か同じ年くらいの男の子と一緒だ。
なんだか、ぼやーっとした感じで、ものすごく長閑な雰囲気の人。
真希ちゃんよりも背丈もあるのに、なんだかガミガミ叱られている様子で、申し訳なさそうにしている。だが、のどかな雰囲気が足を引っ張って、真面目に話を聞いているように見えない。
なんか、真希ちゃんがバンバン背中を叩いてハッパを掛けている。くくくっ……「シャキッとしなさい!」とか言われてるのかな。
ふむ、何かレポートみたいなものを見せて、真希ちゃんに教わっている。男の子が手にしたレポートに何か書き込んでは彼女に見せてる。ん……?「ちがうちがう!そうじゃなくて!」とか真希ちゃんが言ってる。
何度も書いては見せているが、その度に真希ちゃんが様々な「ダメ!違う!」っぽいリアクションをしている。……なにこれ!?面白いじゃないの。
遠いところでやってるので、声は聞こえないが、サイレントムービーのコントみたいで、思わず笑いが漏れてしまう。
あ!痺れをきらした真希ちゃんが、レポート用紙とペンを奪い取ると、近くのテーブルで何か書き込んでる!
ばっと書き込んだレポートを彼に突き出す。彼はペコペコお辞儀をして立ち去ろうとして振り向いた瞬間──後から来た大柄の男性にぶつかってしまう。男性は作業着姿なので出入りの業者さんなのか。彼だけが尻もちをついてて、何かアセアセしてる。
慌てて立ち上がって真希ちゃんと二人で、ぶつかった人にペコペコ謝ってるよぅ…………くくっ……お、面白すぎる!
怪訝そうにぶつかられた男性は立ち去る。真希ちゃんが彼のズレた襟元とかを直して、ホコリを払ってあげたりしてる。甲斐甲斐しいな。さすが真希ちゃんだ。
いかにも彼が「ありがとう」というような身振りで立ち去っていく。真希ちゃんはため息を付いて肩をすくめている。
と、背を向けてた真希ちゃんが、くるりとこちらを向く。思い切り私と目が合うと、びくっと驚いた顔になり、あわあわとこちらに駆け寄ってくる。
「うわー、乃愛先輩……今の見てたんですか!?」
「何言ってるのかは聞こえなかったけど、かなり面白くて」
「もぉー、人が悪いですよぉ」
まだ時間に余裕があるので、飲みかけのペットボトルをテーブルに置くと、真希ちゃんは私の向かいの席に座った。
「いまのノンビリした感じの彼は?」
「あぁ、高校の時の同級生で、海原っていう奴ですよ」
「へええ?真希ちゃんの高校って、あの悟桐学園だよね?」
真希ちゃんの実家の本家がやってるセレブな学校だ。それなりに裕福な家じゃないと通えないのだ。
「でも、フツーの家の奴です。ああみえて、主席特待生で」
「おおー、能ある鷹は爪を隠す、だねえ」
真希ちゃんは呆れ笑いを浮かべながら、やんわりと毒を吐く。
「そんな大層なもんじゃないです。あいつ、その気ならないと全く使い物にならないんで。学苑でも『昼行灯』って呼ばれてたくらいですもん」
「ぷっ……くくくっ、それじゃ今のレポートか書類かなんかは、ぜんぜんヤル気でないやつだったんだ」
「ええ、何かウチの学祭に屋台出すサークルの手伝いしてて、その許可申請を押し付けられたみたいで」
まさか、何か不備があって戻ってきてないよね?と不安そうに出入り口の方を振り返る。うはははは、そういうのがデフォの人なんだ。
「学歴だけはイイんですけどねえ……加藤先輩の後輩だし」
ウチのサークルと仲良しの赤門大学サークルの前会長だ。
「ってことは、東大の人!?」
「です。しかも、文Ⅰです」
うへ……そのまま行けば法学部かあ……。
「でも、あそこの大学……変な人多いんだね」
「…………確かに」
二人で、思わず笑い出してしまう。……まあ、たまたま知り合いが変なだけかもだけど。加藤先輩とあの変なサークルの面子と、いまの海原くん位しか知り合いいないけどさ。
……それは、後の内閣総理大臣、海原誠一郎の若き日の姿であった。
とか、言ってみたりして?うひひひ。
酒盛りの跡は、結構散らかってて大変な惨状になっていた。どう見ても、真希ちゃんが買い置き用に買った分のお酒も飲み尽くしている。後で片付けしよう。
顔を洗ったりしてる内に、カートに乗った朝食が届いた。
割り勘分のお金を真希ちゃんに受け取ってもらうのに苦労した。
真希ちゃんの提案で、リビングから外に続くウッドデッキで、朝ご飯を頂くことにした。
「すっげー……なにこれ!?」
「ははは、ホントに呆れるくらい無駄に豪勢ですよね、ここ」
ペントハウス+庭で屋上の四分の一くらいのスペースを占めている。かなり広い庭がついているのだ。そう、ちゃんと芝生が敷かれて幾つか植え込みや花壇なんかもあったり、背丈のある植栽もある。ペントハウス北側には、マンションの色々な屋上設備が置かれているみたい。
「こっちのゲストルーム側より、あっち側のメインの庭園の方が広くて世話するのは大変なんですけどねえ」
植え込みで目隠しされてて気づかなかったが、どうやらちょっとしたガーデンパーティができるくらいのメインの庭があるらしい。プールには真希ちゃんが自腹でブルーシートを買ってきてがっちり封印したらしい。
「ぷっ……もしかして、真希ちゃんってハウスキーピング要員?」
「はぁ……ホントにそれですよ、もお。税金対策で維持してるようなもんですし」
お父さんの会社のゲストハウスは汐留の方に、新しいのがあって、こちらは余り使わなくなってたらしい。こんなにゴージャスだと、そうそう買い手や借り手の見つかるような物件じゃないし。
作り付けの大きな倉庫から、真希ちゃんと折りたたみのウッドテーブルと椅子を出して、雑巾で綺麗に拭く。
「ずっと出しっぱなしにしとくと、あっという間に傷んじゃって……親に1セット弁償する羽目になったですよ」
苦笑いを浮かべながら、真希ちゃんは肩を竦める。
「もしかして、この庭の手入れも、真希ちゃん?」
「そうですよ。最初の頃は、全然わからなくて……ネットで調べたり、実家の庭師の人に聞いたりで」
二人で笑いながら、テーブルに朝食を並べていく。桁外れのセレブなお嬢様も、実は結構大変なんだなあ、と思った。
そんな感じで、青い空の下、美味しい朝食を頂く。
スクランブルエッグにベーコンとソーセージとフライドポテト。
サラダとフルーツの入ったヨーグルトのスムージー。
あとは、カットしてあるバゲットにロールパンと紅茶。
まあ、いかにもなホテルの朝食っぽいセットだけど、とても丁寧に調理されてて、すごく美味しい。綺麗なウッドデッキとか、眺めのいい景色とか、そんな雰囲気的なものもあるんだろうけど。
「今日、私は特に用事ないんだけど、真希ちゃんは大丈夫なの?」
「ええ、飲み会の次の日は、なるべく空けるようにしてるので」
ちょっと紅茶を飲んで、ふと思った。
「そういえば、昨日、結構飲んだのに割と平気だなあ」
「ああ……そういえば、そうですねえ」
「結構、楽しかったからかなあ。後半は記憶曖昧だけど、すっごい楽しい気分だったのは憶えてるし」
「……先輩、どこまで……憶えてます?」
ちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべて、真希ちゃんが聞いてくる。
「う……。ほら、アレだよ……一人でする時どうしてる?とかってバカな話してた辺りくらいまで……」
うう、ホントにバカな話してたな。頬がかあっと熱くなる。
真希ちゃんも、自分で話を振ったクセに赤くなってる。
「先輩、五反田の何か専用ホテルに一緒にいって、新しい世界の扉を二人で開こう!とか言ってましたけど…………」
「ひえっ!?忘れてください。お願いします。すいません。忘れて」
なんてコト言ってるんだ、私は。
「あはは、怖いもの見たさで、ちょっと行ってみてもイイかな、なんて私も言っちゃってたので……」
「ぶっ、真希ちゃんも相当酔ってたんだね……」
ちょっと小首をかしげて顔を顰めると彼女は考えこむように言った。
「でも、私も憶えているのは、その辺くらいまでで……」
うーん、その後は…………朝のアレだ。
「どこをどうすると、ああなるのかなあ」
「むー、謎ですね……」
ちょと、朝の出来事を思い出し……真希ちゃんのすべすべの肌や生の“色々なところ”の感触、甘くてとてもイイ匂い、可愛い寝顔やら何やら……あわわわ、やめやめ!回想中止!!
私は軽く首を振って、妄想を頭から追い出した。
これといって用事のない私達は、麻布十番をちょっと散策することにした。
真希ちゃんに手を繋がれ、あちこち案内してもらった。ちょっとした雑貨を買ったり、買い食いしたり……お昼に美味しい海鮮丼のランチを食べたりして。午後のオヤツ用に話題のスイーツとかいうのも買ってみた。夕飯の食材も、色々と買い込んで。
こういう休日も、なんだか久しぶり。息抜きサイコー!
★ ★ ★
──とか言ってた時から、既に1週間が経過している。
なんだかんだと言って、私はずっと真希ちゃんちにいる。
ヤバイくらい居心地がいいのだ……。
一度、家に帰ってはいる。着替えとか取りに。
ああううー、こんなんじゃダメだあ!!何度、思ったことか!
遅くに帰れば、玄関まで真希ちゃんがご機嫌で出迎えてくれる。先に帰ってきて、夕飯を作って待ってれば、真希ちゃんは大喜びでご飯を食べてくれる。一緒に帰れば、夕飯の材料を買い物したり、外食したり、ものすごく楽しい。
一緒にくっついて、テレビみたり、ゲームしたり……勉強とかも教え合ったりして案外捗る。
それに、真希ちゃんは、普段の凛とした感じとは全然違ってて、一緒にいると子猫が甘えてくるみたいに、じゃれついてきてメッチャ可愛いのだ。常時、ぎゅうって抱きしめていたくなる。
それに、真希ちゃんと寝ると熟睡できるのだ……不思議だけど。
彼女も私と一緒で、けっこう精神的にストレスが多くて、あんまりちゃんと眠れなかったんだ。何かするって訳じゃなくて、ただぴっとりくっついて寝てるだけなんだけど。
とっても楽しくて、安心できる。自分が自分でいられる。
……そんなヤバいくらいの居心地の良さなのだ。
ソファに一緒に座って私にしなだれかかってる真希ちゃんを、そっと起こすと、これまで何度も言ったセリフを告げる。
「──真希ちゃん、もう1回……ちゃんと話し合おう」
「…………。」
真希ちゃんが、「またですか?」という顔しつつも居住まいを正す。
「このまま、ズルズルと居候するのは、やっぱり良くないと思うのよ」
「…………まぁ……そうですよね」
ちょっと俯き加減の真希ちゃんは見るからに元気がなくなっていく。ちくちくと罪悪感に苛まれる私。
「真希ちゃんのプライベートルームだけの間取りでも、この界隈で2人でシェアルームするとなると、家賃が1人10万とか15万しちゃう。私の三軒茶屋のワンルームより高いし」
「そりゃあ、ここを賃貸で借りたら月300万以上はするって言われましたもん」
…………は?……へ?
「うそ!?いやいや、マジで?」
「でも、ウチの所有ですから家賃関係ないです……維持費も税金対策で親が払っていますから、家賃もらっても困ります。私が払っているのは有料のサービス使った分だけですよ」
う……金銭で悟桐家が困窮する訳ないか……。
「それに、家の維持っていう点でも、私一人よりは乃愛先輩に手伝ってもらったほうが、遙かに効率いいですから、むしろ助かります」
い、いちおう、これでも本職のメイドさんの卵だしね。掃除洗濯に料理くらいは、できないと話にならんですよ。
「実家のメイドさん使うなら時給はお前持ち、って言われてるくらいなので、メイドさんの研修受けてる乃愛先輩がタダでいてくれるなら、私の方がありがたですよ?」
……ホントに出てく理由がない。どうしよう。
「でもさ、大学とかの他の友だちも『だったら私も一緒に住みたーい!』とか言い出したらどうするの?」
家賃シェアがゼロで、麻布十番にこの豪勢な最上階のペントハウスだよ??こんなヨダレがでるほどオイシい話は乗れるもんなら誰でも乗る。
「そりゃあ、先輩と同じ時間効率で、ペントハウス内を全部ピカピカに磨いたように掃除ができて、服やタオルとかも綺麗に畳んでバッチリ使いやすい感じで整頓して収納してくれたりとか……同じハウスキーピングができる人だったら考えますけど」
……ウチの大学でも、そうは居ないか。家政科自体メンツ少ないしなあ。ここ20年来ずっと右肩下がりだと教授もボヤいていたくらい。
卒業生の進路にしても、料理研究家、環境衛生学や食品会社の研究員とか、主婦向けの商品のマーケットリサーチ会社やシンクタンクとか……そんな感じの人が多くて。私みたいなメイド志望は、十数年ぶりだと聞いている。
「……でも、私も多少はいいのかなぁ、とは思います。漠然と、ですけど」
「うん……正直いうと、私も帰る理由がなさすぎて、却って不安になるというか……」
うーん……と二人で頭を捻る。これも毎度のパターンだ。
「……真希ちゃんさえ迷惑でなければ、だけどぉ……」
このセリフに物凄い勢いで真希ちゃんが身を乗り出す。瞳がキラッキラしてる。シッポがあったらぶんぶんと左右に激しく振ってるにちがいない。
「もうすぐメイドの研修が始まるんだけど……それ汐留なんだよ。ここから通うの凄く楽だからさ、研修終わるまでココいていいかな?」
「はいっ!!」
満面の笑みで私に抱きつく真希ちゃん。勢い余ってそのままソファに重なりあって倒れこむ。
「わーいっ!やったぁ!!」
「わぁ!?こらこら!何よぉ、喜びすぎだよお」
大喜びで私の胸元にむしゃぶりついている真希ちゃんを、何とか押しのけようとしてジャレあいながら……この無駄に豪華でバカみたいに広すぎる家に、一人きりでいるのは……真希ちゃんも寂しかったのかもしれないな、と思ったりした。
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いちおう、ケジメとして、居候するのは研修の終わる2ヶ月間と決めた。家主の真希ちゃんが「やっぱり出てってほしい」と宣言したら、すぐさま出て行くということにした。
その先のことは、2ヶ月後に話し合って決めよう。
真希ちゃんは「好きなだけいてくれて、いいのに」と不満そうに唇を尖らせていた。でも、実際、今週1週間は問題なかったけど、この先、暮らしてみたら、案外不満とか出てくるかもしれない。そんな時に仲のいい友達のまま、モメずにいたいもん。
マンションの有料サービスを使うときは、割り勘。もしくは自己負担。他にも共同生活で必要とあれば話し合ってルールを決めるとかして解決する方向で。
「今更ですが……しばらく厄介になりますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、無駄に広すぎてお掃除とか大変でしょうが、よろしくお願いします」
お互いにソファの上に正座して、三つ指をついてお辞儀。ぺこり。
「「ぷっ……」」
顔を見合わせると、思わず吹き出してしまい、そのままゲラゲラと笑い出してしまった。
ぼちぼち、夜も更けてきたので、色々と寝る支度。
お肌のお手入れとか、まぁ……いろいろあるのだ。
そして、いつものように同じベッドに入って、横になって目の前の真希ちゃんの顔をみる。こうして間近でみると、すごい可愛い。
やっぱり……名前も似てるけどゴマキに顔つきも似てる。恐ろしく機嫌が悪くなるから言わないけど。
真希ちゃんが、意を決したように……でも少し不安そうに目線を外して
「……あのぉ……せっかくだから、脱いじゃいません?」
「えっと……裸で寝る?」
「うん……気分的な安心感が……かなり違うというか……乃愛先輩が嫌じゃなければ」
私も、たぶん真希ちゃんも裸族癖はないと思うんだけど……こないだの“全裸で抱き合って寝ちゃってた事件”の時……ものすごく快適で気持よく眠れてしまったのも事実で。
「うん、やってみようか」
「……ありがとうございますっ」
真希ちゃんの嬉しそうな声と一緒に吐息が首にあたって、とても甘い感じにくすぐったい。
お互いに少し身体を起こすと、キャミとパンティーを、するするっと脱ぐ。
無為に男に抱かれる時と違って、憂鬱な気分とかは全く湧いてこない。ちょっと、どきどきするけど、安心感とか癒され感が半端ない。
真希ちゃんは大丈夫。接待に裏切ったりしないし、見捨てたりしないという安心感と信頼感の実績が、今までのロクでもない男とかとは桁違いなのだ。まあ、女の子同士だしね。
そんな風に、真希ちゃんも感じてくれてたら嬉しいな。
布団をかぶると、おずおずと寄り添うように身体をくっつける。くすっと笑い合うと、そっとお互いの身体に腕を絡める。真希ちゃんのすべすべの肌は、ものすごく触り心地がいい。
おっぱいが、ぷよんっと押し付けられて、お腹も腰も密着する。
脚の収まりのいい具合を探して二人とも苦笑しながらモゾモゾさせてると……ここだ!みたいな脚の絡む塩梅が良いとこが見つかる。なんか、太腿同士を挟み合って密着しちゃってるけど……。
こうなると、真希ちゃんの慎ましい乳首の感触も、やわらかい下の陰毛の感触も、はっきりわかってしまう。
「はふ……やっぱり、すごい落ち着きます」
私の鎖骨のあたりに顔を埋めて、真希ちゃんが吐息を漏らしながら、ヒソヒソと囁いた。
「真希ちゃんの抱き心地性能は最高だよ」
「ふふふ、乃愛先輩の抱き心地を味わえないから、そういう事言えるんですよ」
くすくすと真希ちゃんが笑う。……そりゃ、自分の抱き心地なんてわかんないって。
仕返しに、ぎゅうって抱きしめちゃうと、真希ちゃんは甘いタメ息を漏らす。
「……ふぁあん」
「そういう時に出る真希ちゃん声って、普段と全然違ってメッチャ可愛い」
「やぁん……もお、いじわる……」
薄暗い部屋の中で、潤んだ瞳の真希ちゃんは、かなり色っぽく見える。こんな可愛い子が、自分の腕の中に裸でいるのがウソみたいだ。
「真希ちゃん、おやすみ……」
「おやすみなさい……乃愛先輩」
そんな真希ちゃんの身体は暖かくて、抱きしめてるだけでほわほわとしたイイ気持ちになってくる。
真希ちゃんを見ると、眠たそうな顔して子猫のような小さな欠伸をしている。そんな彼女を見ていると幸せな気分になって、私もトロトロと溶けていくように深い眠りに落ちていく。
そういえば、いつの間にか真希ちゃんは、私のことを乃愛先輩って呼ぶようになってたなあ……。
★ ★ ★
翌日は、二人とも、ものすごく良く寝た感とスッキリした目覚めて、真希ちゃんは「これが……裸族効果なのかっ!?」とふざけてた。
ちょっとクセになるほどの快眠効果だ。あんまり、人様には言えない快眠法だけどね。
真希ちゃんは2年生で私より講義が多いので、早くに学校へ行った。私は、朝食の後片付けをして、部屋の掃除と洗濯。お昼は待ち合わせをして学食でいっしょに食べることになっている。
ちょっと調べ物とか勉強を少しして、お昼前に身支度を整えて出かける。
私一人の時には、さすがに真希ちゃん専属運転手の井出さんのお世話になる訳にもいかないので、地下鉄だ。もっとも、真希ちゃんも朝の渋滞はイヤみたいで、今日とか時間が早い時は地下鉄に乗っていく。
学食に行くと、少し早かったのか真希ちゃんの姿は見当たらない。
出入り口が見える席にすわって、読みさしの文庫本を開く。
しばらく、本の世界に没入。
ふと、本から目線をずらすと、入り口のあたりに真希ちゃんが何かしてるのが見える。
お?……何か同じ年くらいの男の子と一緒だ。
なんだか、ぼやーっとした感じで、ものすごく長閑な雰囲気の人。
真希ちゃんよりも背丈もあるのに、なんだかガミガミ叱られている様子で、申し訳なさそうにしている。だが、のどかな雰囲気が足を引っ張って、真面目に話を聞いているように見えない。
なんか、真希ちゃんがバンバン背中を叩いてハッパを掛けている。くくくっ……「シャキッとしなさい!」とか言われてるのかな。
ふむ、何かレポートみたいなものを見せて、真希ちゃんに教わっている。男の子が手にしたレポートに何か書き込んでは彼女に見せてる。ん……?「ちがうちがう!そうじゃなくて!」とか真希ちゃんが言ってる。
何度も書いては見せているが、その度に真希ちゃんが様々な「ダメ!違う!」っぽいリアクションをしている。……なにこれ!?面白いじゃないの。
遠いところでやってるので、声は聞こえないが、サイレントムービーのコントみたいで、思わず笑いが漏れてしまう。
あ!痺れをきらした真希ちゃんが、レポート用紙とペンを奪い取ると、近くのテーブルで何か書き込んでる!
ばっと書き込んだレポートを彼に突き出す。彼はペコペコお辞儀をして立ち去ろうとして振り向いた瞬間──後から来た大柄の男性にぶつかってしまう。男性は作業着姿なので出入りの業者さんなのか。彼だけが尻もちをついてて、何かアセアセしてる。
慌てて立ち上がって真希ちゃんと二人で、ぶつかった人にペコペコ謝ってるよぅ…………くくっ……お、面白すぎる!
怪訝そうにぶつかられた男性は立ち去る。真希ちゃんが彼のズレた襟元とかを直して、ホコリを払ってあげたりしてる。甲斐甲斐しいな。さすが真希ちゃんだ。
いかにも彼が「ありがとう」というような身振りで立ち去っていく。真希ちゃんはため息を付いて肩をすくめている。
と、背を向けてた真希ちゃんが、くるりとこちらを向く。思い切り私と目が合うと、びくっと驚いた顔になり、あわあわとこちらに駆け寄ってくる。
「うわー、乃愛先輩……今の見てたんですか!?」
「何言ってるのかは聞こえなかったけど、かなり面白くて」
「もぉー、人が悪いですよぉ」
まだ時間に余裕があるので、飲みかけのペットボトルをテーブルに置くと、真希ちゃんは私の向かいの席に座った。
「いまのノンビリした感じの彼は?」
「あぁ、高校の時の同級生で、海原っていう奴ですよ」
「へええ?真希ちゃんの高校って、あの悟桐学園だよね?」
真希ちゃんの実家の本家がやってるセレブな学校だ。それなりに裕福な家じゃないと通えないのだ。
「でも、フツーの家の奴です。ああみえて、主席特待生で」
「おおー、能ある鷹は爪を隠す、だねえ」
真希ちゃんは呆れ笑いを浮かべながら、やんわりと毒を吐く。
「そんな大層なもんじゃないです。あいつ、その気ならないと全く使い物にならないんで。学苑でも『昼行灯』って呼ばれてたくらいですもん」
「ぷっ……くくくっ、それじゃ今のレポートか書類かなんかは、ぜんぜんヤル気でないやつだったんだ」
「ええ、何かウチの学祭に屋台出すサークルの手伝いしてて、その許可申請を押し付けられたみたいで」
まさか、何か不備があって戻ってきてないよね?と不安そうに出入り口の方を振り返る。うはははは、そういうのがデフォの人なんだ。
「学歴だけはイイんですけどねえ……加藤先輩の後輩だし」
ウチのサークルと仲良しの赤門大学サークルの前会長だ。
「ってことは、東大の人!?」
「です。しかも、文Ⅰです」
うへ……そのまま行けば法学部かあ……。
「でも、あそこの大学……変な人多いんだね」
「…………確かに」
二人で、思わず笑い出してしまう。……まあ、たまたま知り合いが変なだけかもだけど。加藤先輩とあの変なサークルの面子と、いまの海原くん位しか知り合いいないけどさ。
……それは、後の内閣総理大臣、海原誠一郎の若き日の姿であった。
とか、言ってみたりして?うひひひ。
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「アナタとワタシ」
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