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第4話 わすれてた。
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料金を精算しタクシーを降りると春樹は、当たり前のように私の肩に手を回そうとする。私は俯いたまま、何歩か下がってそれを避ける。
「……乃愛ちゃん?どうしたの?」
たぶん、10時も過ぎてる頃だ。ホテルのドアマンもガラス張りの向こう側のだいぶ遠くの方に1人立っているだけだ。がらんとした地下駐車場には私達以外には誰もいない。タクシーの走り去るエンジン音が遠のいていく中で、私は呟くように、でもハッキリと聞こえるように言った。
「…………すいません。私、帰ります」
「ちょっと、緊張してきちゃった?怖がらなくても大丈夫だよ」
春樹は、にこやかな微笑みを浮かべたまま、私の肩に手を置いて安心させるように言った。
「ここまで来て……こんな事言うのは、私も悪いんですけど……でも、帰ります」
おそらく、彼にとってこんな事を言われるのは慣れたもんで、気にもとめてない様子だ。私の気分なんて、どうでもよくて、私の身体を味見してみたいだけなんだ。
「ここまで来て、それは悲しいなぁ。夜景の綺麗な上のラウンジだけでも行こうよ」
そういって、私をふんわりと優しく抱きしめようとする。
ここで……流されちゃ……ダメだ!もう、嫌なんだってば!!
私は春樹の手を振り払って、数歩後ずさる。
「────っ!?」
振り払われたまま固まった春樹の微笑みに、ぴしっとヒビが入る。
「ねえ?どうしたの?さっきまであんなに楽しそうだったのに?怯えて緊張してる乃愛も可愛いけどね」
……呼び捨てにされた。
春樹の言葉の端々に微かに苛立ちが滲む。私の頬に彼の手が伸びてくる。
「帰りますっ」
それを遮るように私は春樹の横を通って、外にでようとする──
「ちょっ……!?おいっ」
「あっ……」
腕を捕まれ引き戻され、黒い御蔭石張りの太い柱の影に連れ込まれる。どすっと背中に鈍い痛みが走る。
「痛っ──」
「あのなぁ……ここまでノコノコついてきて、そりゃねえだろ??」
春樹の声音も口調も一変する。私を見下ろす冷たい目に、ちらちらと怒りの炎が揺らめいている。春樹が、私の顔を覗き込む。
「ちょっと顔が可愛いからって、何か勘違いしてんじゃねえよ……」
「いっ……た」
私を掴む手に力が入り痛みが走る。……こ、こわい……どう、しよう……。すごい、怒ってる……。
──嫌だったとしても、おとなしく抱かれて、やり過ごせばよかった。
一瞬、そんな下らない後悔も過る。
「やめてくださいっ!」
地下駐車場に私の声が響き渡る。よかった。何とか声が出た。
ここまで来て急に心変わりしたんだから、私だって悪いと思っている。帰れるなら1発くらい平手打ちされても仕方ないと思う。
そりゃ、今まで別れ際に平手打ちくらいされたことはある。
酷い奴は、ヤッてる最中に繋がったまま、私を往復ビンタした。
やっぱりこんな風にテキトーな気持ちで抱かれるのは嫌だ。嫌だって気がついた。
だから、帰る。そう決めた。
でも、今の春樹は……獲物に牙をたてる肉食獣のような獰猛で、それでいて酷薄で冷たい目をして私を見下ろしていた。逃がさない気だ。
「ふん、幾らでも叫ぶといいよ。叫ぶ気も起きないようにするから」
「うっ……放してっ!!離れてよっ!!」
振り払って逃れようとすると、今度は乱暴に引き戻され、柱に打ち付けられる。
一瞬、息が詰まって、何も声が出ない。
「うーん、ちょっと趣向が変わっちゃうけど、仕方ないよな。言ってもわからないなら、身体でわかってもらおう」
スッと春樹の目が細くなり、ゆっくりと平手が振りかざされる。
な、殴られる…………。
目をつぶって身体を強張らせる。
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
「なっ……!?」
うっすら目をあけると、春樹の手を背後から抑えてる更に背の高い人影。
そして、振り返って愕然とする春樹の呻き。
「さ……相良3尉……!?」
「その呼び方はやめろ。もう辞めたのは知ってるだろ?」
相良と呼ばれた男は──三軒茶屋のバーで会ったアイツだった。
掴んだ春樹の手を軽く振ると、ひょいっと脇の壁際に春樹がよろけて放り出される。今まで立ちふさがれて逃れることもできずにいた私からすれば、ちょっとした魔法のよう。
「まったく、相変わらずだな、本城。守るべき国民の──それも、か弱い女性に手をあげるとは。お前、本当に服務の宣誓したのか?」
なんで、アイツがここにいるのか?
どうして私を助けたのか?
私は、ただただ混乱していた。
「もう、部外者の俺には宣誓など関係ないが。どうせ、電話で呼び出せば駆けつけてくる女の4~5人は東京にもいるんだろ?」
姿勢を伸ばして体裁を持ち直した春樹が、既に興味を失って肩を竦めた。
「もういいですよ。こんな面倒な子は。それじゃ、失礼します」
さっさとエントランスの自動ドアに向かって歩いていってしまう。
私は……柱に寄り掛ったまま、いつの間にかズルズルと滑り落ちて、しゃがみこんでいた。
「……どうして、こんなところにいるの?」
「ちょうど仕事が終わって、一旦帰ろうとしたら君らがモメてた。こっちも驚いた」
全然、驚いた素振りも見えなかった気もするけど……。
アイツ──何の表情もなく相良は、私に手を差し伸べてきた。
「立てるか?大丈夫なら、駅か家の近くに送る」
「だっ、だいじょうぶっ、ですっ」
私はなんだか知らないけど、狼狽えて慌てて立ち上がろうとして、よろけた。
結構、飲んでたのを忘れてた。
「───!!」
相良は、私の腕と脇に手を添えて倒れないように支えてくれた。
彼の手が私に触れた瞬間、まるで静電気が走ったかのようにビリビリっと痺れる感覚が走った。
「ひゃあっ!?」
私は、びっくりして飛び退いた。なっ、何!?いまの!?
「おい。大丈夫か?随分、酒が入ってるみたいだが」
ほんの僅かに心配そうな気配を浮かべて、相良がこちらに手を伸ばそうとした──その時。
駐車場の出入口のスロープを、物凄い高そうな黒のジャガーが、物凄い勢いですべり込んできた。急ブレーキにタイヤが悲鳴をあげ、車体が揺れるように振られながら、私達の目の前で急停車する。
バン!!
乱暴に後部シートのドアが跳ね開けられ、中から、物凄い勢いで人が飛び出してきた。
ダッシュで相良の前に駆け寄ってきて──
ぱあん!!
その人物──真希ちゃんは、相良の顔に思い切り平手打ちお見舞いしたのだ。
何故か真希ちゃんはずぶ濡れだった。
「うぐ……っ」
完全な奇襲攻撃に、冷静沈着そうに見える相良も、一瞬驚きの表情を隠せない。
「篠原先輩は、そんな安い女じゃないっ!本城とか言う浮かれたホスト男とどんな関係か知りませんが、これで失礼します!」
がっと私の腕をとって肩を抱えると、私をジャガーの後部座席に連れ込み、間髪入れずに運転手に「すぐ出して!行き先は麻布のマンション」と告げる。ドアのしまる音と同時に車は発進する。
ホテルのエントランスがあっという間に流れて小さくなり、車は内堀通りに出る。外は土砂降りの雨だった。
★ ★ ★
「あれだけ言ったのに!どーして着いて行っちゃったんですかっ!!」
真希ちゃんは私の両肩を掴んでガクガクと揺すりながら超真剣に怒ってた。
どうやら、真希ちゃんは、私が本城にお持ち帰りされたとわかった時点で即座に行動に出た。本城の話から推測して、あの辺界隈の高級ホテルを幾つか回ったらしい。
思いの外、カンが当たって、2つ目のホテルで私を発見したそうだ。
いちいち車を駐車場に入れてたら時間がかかる。路肩に停車させておいては、真希ちゃんが走ってロビーに飛び込んでは探してくれてたそうだ。そのせいで土砂降りの雨に直撃を受けてズブ濡れになってしまったのだ。
「……うぅ、ごめんなさい」
ここまで心配して、探しまわってくれて……もう、本当に申し訳ないとしか言いようが無い。
「あんなの、絶対にロクでもない事にしかなんないですよ!」
うぅ……仰るとおりです。
「今すぐヤれる女が、東京だけでも4~5人いる」って言ってたし……。
あの話しぶりじゃあ、セックスフレンドが20人くらいいて、恋人は5股くらいしてても、おかしくなさそう。
ほんとに……バカだ、私。
しょぼんと塞ぎこむ私を見て、真希ちゃんがタメ息ながら私の両肩から手を放して解放する。真希ちゃんがゆっくりと自分の手を、私の膝の上の手の甲に重ねる。
「でも……入口でモメてたってことは、先輩も嫌だって思ってたんですよね?」
「…………うん……タクシーに乗ってて……やっぱ、これは違うって……このまま流されるのは嫌だって思って、帰るって言ったら怒りだして」
「もっと自分のコト……大事にしてくださいよ……」
私は、何度も頷いた。真希ちゃん、ありがとうね。
こんな私でも、大事に思ってくれる後輩がいる。
「お嬢様、冷えますから、拭いてください」
信号待ちの運転手さんが、タイミングを見計らって、そう言うと大きなバスタオルを何枚か差し出してきた。
「うん。ありがと。スモーク閉めてくれる?」
「かしこまりました」
ずぶ濡れの真希ちゃんがタオルを受け取ると、前と後のシートの間にスモークの仕切りがせり上がって閉ざされる。
「先輩の服まで濡らしちゃって、すいません」
「大丈夫、カゼひいちゃうから、早く拭いて拭いて」
私も真希ちゃんの髪を拭くのを手伝う。襟元のボタンを外して、中にタオルを突っ込んでガシガシ拭いている彼女は、なんだか……可愛い感じがした。
「あ」
私は、大事な後輩に言わないといけない大事なことを、忘れてた。
「どうしました?」
真希ちゃんが手を止めて、こっちを見る。
「えっとね……さっきの短い黒髪の男の人ね。あの人…………本城とモメてる私をね……助けてくれた人なんだよ……」
真希ちゃんが硬直して固まること約30秒弱。
のろのろと頭を抱える動作に入る。
プルプルと震えながら真希ちゃんは叫んだ。
「う…う、うそぉん!?……思いっ切り、引っ叩いちゃっいましたよお!?」
「……乃愛ちゃん?どうしたの?」
たぶん、10時も過ぎてる頃だ。ホテルのドアマンもガラス張りの向こう側のだいぶ遠くの方に1人立っているだけだ。がらんとした地下駐車場には私達以外には誰もいない。タクシーの走り去るエンジン音が遠のいていく中で、私は呟くように、でもハッキリと聞こえるように言った。
「…………すいません。私、帰ります」
「ちょっと、緊張してきちゃった?怖がらなくても大丈夫だよ」
春樹は、にこやかな微笑みを浮かべたまま、私の肩に手を置いて安心させるように言った。
「ここまで来て……こんな事言うのは、私も悪いんですけど……でも、帰ります」
おそらく、彼にとってこんな事を言われるのは慣れたもんで、気にもとめてない様子だ。私の気分なんて、どうでもよくて、私の身体を味見してみたいだけなんだ。
「ここまで来て、それは悲しいなぁ。夜景の綺麗な上のラウンジだけでも行こうよ」
そういって、私をふんわりと優しく抱きしめようとする。
ここで……流されちゃ……ダメだ!もう、嫌なんだってば!!
私は春樹の手を振り払って、数歩後ずさる。
「────っ!?」
振り払われたまま固まった春樹の微笑みに、ぴしっとヒビが入る。
「ねえ?どうしたの?さっきまであんなに楽しそうだったのに?怯えて緊張してる乃愛も可愛いけどね」
……呼び捨てにされた。
春樹の言葉の端々に微かに苛立ちが滲む。私の頬に彼の手が伸びてくる。
「帰りますっ」
それを遮るように私は春樹の横を通って、外にでようとする──
「ちょっ……!?おいっ」
「あっ……」
腕を捕まれ引き戻され、黒い御蔭石張りの太い柱の影に連れ込まれる。どすっと背中に鈍い痛みが走る。
「痛っ──」
「あのなぁ……ここまでノコノコついてきて、そりゃねえだろ??」
春樹の声音も口調も一変する。私を見下ろす冷たい目に、ちらちらと怒りの炎が揺らめいている。春樹が、私の顔を覗き込む。
「ちょっと顔が可愛いからって、何か勘違いしてんじゃねえよ……」
「いっ……た」
私を掴む手に力が入り痛みが走る。……こ、こわい……どう、しよう……。すごい、怒ってる……。
──嫌だったとしても、おとなしく抱かれて、やり過ごせばよかった。
一瞬、そんな下らない後悔も過る。
「やめてくださいっ!」
地下駐車場に私の声が響き渡る。よかった。何とか声が出た。
ここまで来て急に心変わりしたんだから、私だって悪いと思っている。帰れるなら1発くらい平手打ちされても仕方ないと思う。
そりゃ、今まで別れ際に平手打ちくらいされたことはある。
酷い奴は、ヤッてる最中に繋がったまま、私を往復ビンタした。
やっぱりこんな風にテキトーな気持ちで抱かれるのは嫌だ。嫌だって気がついた。
だから、帰る。そう決めた。
でも、今の春樹は……獲物に牙をたてる肉食獣のような獰猛で、それでいて酷薄で冷たい目をして私を見下ろしていた。逃がさない気だ。
「ふん、幾らでも叫ぶといいよ。叫ぶ気も起きないようにするから」
「うっ……放してっ!!離れてよっ!!」
振り払って逃れようとすると、今度は乱暴に引き戻され、柱に打ち付けられる。
一瞬、息が詰まって、何も声が出ない。
「うーん、ちょっと趣向が変わっちゃうけど、仕方ないよな。言ってもわからないなら、身体でわかってもらおう」
スッと春樹の目が細くなり、ゆっくりと平手が振りかざされる。
な、殴られる…………。
目をつぶって身体を強張らせる。
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
「なっ……!?」
うっすら目をあけると、春樹の手を背後から抑えてる更に背の高い人影。
そして、振り返って愕然とする春樹の呻き。
「さ……相良3尉……!?」
「その呼び方はやめろ。もう辞めたのは知ってるだろ?」
相良と呼ばれた男は──三軒茶屋のバーで会ったアイツだった。
掴んだ春樹の手を軽く振ると、ひょいっと脇の壁際に春樹がよろけて放り出される。今まで立ちふさがれて逃れることもできずにいた私からすれば、ちょっとした魔法のよう。
「まったく、相変わらずだな、本城。守るべき国民の──それも、か弱い女性に手をあげるとは。お前、本当に服務の宣誓したのか?」
なんで、アイツがここにいるのか?
どうして私を助けたのか?
私は、ただただ混乱していた。
「もう、部外者の俺には宣誓など関係ないが。どうせ、電話で呼び出せば駆けつけてくる女の4~5人は東京にもいるんだろ?」
姿勢を伸ばして体裁を持ち直した春樹が、既に興味を失って肩を竦めた。
「もういいですよ。こんな面倒な子は。それじゃ、失礼します」
さっさとエントランスの自動ドアに向かって歩いていってしまう。
私は……柱に寄り掛ったまま、いつの間にかズルズルと滑り落ちて、しゃがみこんでいた。
「……どうして、こんなところにいるの?」
「ちょうど仕事が終わって、一旦帰ろうとしたら君らがモメてた。こっちも驚いた」
全然、驚いた素振りも見えなかった気もするけど……。
アイツ──何の表情もなく相良は、私に手を差し伸べてきた。
「立てるか?大丈夫なら、駅か家の近くに送る」
「だっ、だいじょうぶっ、ですっ」
私はなんだか知らないけど、狼狽えて慌てて立ち上がろうとして、よろけた。
結構、飲んでたのを忘れてた。
「───!!」
相良は、私の腕と脇に手を添えて倒れないように支えてくれた。
彼の手が私に触れた瞬間、まるで静電気が走ったかのようにビリビリっと痺れる感覚が走った。
「ひゃあっ!?」
私は、びっくりして飛び退いた。なっ、何!?いまの!?
「おい。大丈夫か?随分、酒が入ってるみたいだが」
ほんの僅かに心配そうな気配を浮かべて、相良がこちらに手を伸ばそうとした──その時。
駐車場の出入口のスロープを、物凄い高そうな黒のジャガーが、物凄い勢いですべり込んできた。急ブレーキにタイヤが悲鳴をあげ、車体が揺れるように振られながら、私達の目の前で急停車する。
バン!!
乱暴に後部シートのドアが跳ね開けられ、中から、物凄い勢いで人が飛び出してきた。
ダッシュで相良の前に駆け寄ってきて──
ぱあん!!
その人物──真希ちゃんは、相良の顔に思い切り平手打ちお見舞いしたのだ。
何故か真希ちゃんはずぶ濡れだった。
「うぐ……っ」
完全な奇襲攻撃に、冷静沈着そうに見える相良も、一瞬驚きの表情を隠せない。
「篠原先輩は、そんな安い女じゃないっ!本城とか言う浮かれたホスト男とどんな関係か知りませんが、これで失礼します!」
がっと私の腕をとって肩を抱えると、私をジャガーの後部座席に連れ込み、間髪入れずに運転手に「すぐ出して!行き先は麻布のマンション」と告げる。ドアのしまる音と同時に車は発進する。
ホテルのエントランスがあっという間に流れて小さくなり、車は内堀通りに出る。外は土砂降りの雨だった。
★ ★ ★
「あれだけ言ったのに!どーして着いて行っちゃったんですかっ!!」
真希ちゃんは私の両肩を掴んでガクガクと揺すりながら超真剣に怒ってた。
どうやら、真希ちゃんは、私が本城にお持ち帰りされたとわかった時点で即座に行動に出た。本城の話から推測して、あの辺界隈の高級ホテルを幾つか回ったらしい。
思いの外、カンが当たって、2つ目のホテルで私を発見したそうだ。
いちいち車を駐車場に入れてたら時間がかかる。路肩に停車させておいては、真希ちゃんが走ってロビーに飛び込んでは探してくれてたそうだ。そのせいで土砂降りの雨に直撃を受けてズブ濡れになってしまったのだ。
「……うぅ、ごめんなさい」
ここまで心配して、探しまわってくれて……もう、本当に申し訳ないとしか言いようが無い。
「あんなの、絶対にロクでもない事にしかなんないですよ!」
うぅ……仰るとおりです。
「今すぐヤれる女が、東京だけでも4~5人いる」って言ってたし……。
あの話しぶりじゃあ、セックスフレンドが20人くらいいて、恋人は5股くらいしてても、おかしくなさそう。
ほんとに……バカだ、私。
しょぼんと塞ぎこむ私を見て、真希ちゃんがタメ息ながら私の両肩から手を放して解放する。真希ちゃんがゆっくりと自分の手を、私の膝の上の手の甲に重ねる。
「でも……入口でモメてたってことは、先輩も嫌だって思ってたんですよね?」
「…………うん……タクシーに乗ってて……やっぱ、これは違うって……このまま流されるのは嫌だって思って、帰るって言ったら怒りだして」
「もっと自分のコト……大事にしてくださいよ……」
私は、何度も頷いた。真希ちゃん、ありがとうね。
こんな私でも、大事に思ってくれる後輩がいる。
「お嬢様、冷えますから、拭いてください」
信号待ちの運転手さんが、タイミングを見計らって、そう言うと大きなバスタオルを何枚か差し出してきた。
「うん。ありがと。スモーク閉めてくれる?」
「かしこまりました」
ずぶ濡れの真希ちゃんがタオルを受け取ると、前と後のシートの間にスモークの仕切りがせり上がって閉ざされる。
「先輩の服まで濡らしちゃって、すいません」
「大丈夫、カゼひいちゃうから、早く拭いて拭いて」
私も真希ちゃんの髪を拭くのを手伝う。襟元のボタンを外して、中にタオルを突っ込んでガシガシ拭いている彼女は、なんだか……可愛い感じがした。
「あ」
私は、大事な後輩に言わないといけない大事なことを、忘れてた。
「どうしました?」
真希ちゃんが手を止めて、こっちを見る。
「えっとね……さっきの短い黒髪の男の人ね。あの人…………本城とモメてる私をね……助けてくれた人なんだよ……」
真希ちゃんが硬直して固まること約30秒弱。
のろのろと頭を抱える動作に入る。
プルプルと震えながら真希ちゃんは叫んだ。
「う…う、うそぉん!?……思いっ切り、引っ叩いちゃっいましたよお!?」
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よかったら、本編の方もご覧ください(*´Д`*)
「アナタとワタシ」
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