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愛しの番
#24
しおりを挟む彼の男根がじわじわと抉じ開けて来る。既に全身が惚けているせいで、襞を押し広げ入って来る彼の性器がリュシアの弱い部分を掠めてくる。
「っひぅ……ん」
「大丈夫ですか?」
「もう……そんなこと、聞かないで欲しい……」
リュシアの中はとろとろに解れているのに、大丈夫かなんて確認はしないで欲しかった。
めいいっぱい彼の性器で満ち足りた肉孔が、きゅうと凝縮して彼の男根を締め上げた。
「あっ……あ……」
自分で勝手に彼の性器を締め上げて喘ぐなんて、淫乱だと思ったが、番う相手に体が昂っていく高揚感は、どうにもならない物なのだとリュシアは思った。
どうして……、と不安を覚えるほどに体中が、セレスを切望し震え始める。
快楽よりも深い愛情という奈落にどっぷりと嵌ってしまったような感覚は、他人には分からない物だ。
「……リュシア……」
「うん……」
番だと分からないわけがなかった。
今まで自分は半身だったのではないかと思うほど、セレスと繋がっていることが当たり前のように感じた。それと――、彼が欲しいと心の底から願う卑しい心が湧いた。
「二人で一人って感じがする……」
「あなたは魔力が無いので、きっと私ほど感じないのかも知れませんが、満ち足りるとはこういうことだと思います……」
考えて見れば、目が合うだけで番う相手だと分かるのだから、こうやって体を繋げれば、その想いはより強固になって行くは当たり前のことなのかも知れない。
――……僕の番……。
深くて底の無い愛に目覚め、改めてセレスが〝番〟なのだと確信し、繋がった余韻にうっとり身を委ねていると、彼の茎がどくんと脈打つのを感じて、さらに愛しい気持ちが膨れ上がる。
彼の何かを堪えるような熱い吐息に、絆されて「セレス……」と名を呼べば、それに応えるように彼が抽挿を開始した。
「……っ辛くないですか?」
「うっ、あぁ、ん……」
返事をしたけど、喘ぎが混ざり合い、ちゃんと答えることが出来なくて、恥ずかしくなる。セレスも返事だと分かっているはずなのに、「本当に大丈夫ですか?」と何度も聞いて来るので、その度にリュシアは喘いだ。
怒張でゆるゆると揺すられ、突き抜けるほどの刺激ではないけど、それが却って身悶えするほど気持ちが良くて息が上がる。
時折、聞える「ふっ」と漏れる彼の吐息と、結合部分の濡れた音が快楽を押し上げた。
「あ、ぁ……ぅ、あぁぅ――」
緩やかな動きだけれど確実にリュシアの弱い部分を狙って突いて来る。まるで、こちらの反応を愉しんでいるように、一突きごとに性器で襞を舐られるようだった。
彼から労わってもらっていることを感じて、身体よりも心が満たされて、つい――、「ごめんね……」とリュシアから謝罪の言葉が出た。
「こんな時に……っ、謝らないで下さい……」
ずんっと最奥に腰を落ち着けたまま、するすると彼の手がリュシアの胸元へ伸びる。尖り切ってしまった先を指で弾かれて、思わず彼の手に縋り付いた。
そのまま弄られ、最奥で留まっていた怒張が動き出すと、リュシアの視界が歪んだ。
「っ……ん、あぁあ……、ぁあ……!」
労わるように抱かれ、彼の優しさが心の奥に深く突き刺さる。一緒にはいられない番など愛してはいけないのに、理屈ではどうにもならないことを今更のように知る。
切羽詰まったような、彼の途切れ途切れの呼吸音を聞き、たまらない気分にさせられ、次第に自分が何者であるかなど、どうでも良くなった。
深く穿たれたまま、身悶えるほどの快楽を受け止め、彼の飛沫を最奥に受けた。
最初で最後の番との交わりは、この世で最も残酷な暮夜となった――。
彼に抱き込まれ、うつらうつら、と微睡む意識の中で、リュシアは急に怖くなった。本当はこんなことをしてはいけなかったのかも……? と恐々とセレスに問いかけてみた。
「もしかして、これは魔の契りを交わしたことになるの?」
「いいえ、あなたは魔法が使えませんので、私の隷属魔法を受け取る器がありません」
「そっか……、契りを交わすって魔法契約なんだ……」
ほっとする反面、切なくて胸が苦しくなる。それは番の証を受け取る資格がないのだと言われたも同然だからだ。
彼はそんなつもりで言ったわけでは無いことくらい分かるけど、契りを結べない番など意味が無いと思った。
――そっか……、僕に魔力が無いから……。
だからセレスは、捨てるなら今のうちだと言ったのだと知る。
子を産んで魔力が宿れば、自分に隷属魔法を受け取る器が出来てしまうから、そうなる前に捨てろと言ったことが分かり、自然と涙があふれて来た。
「セレスは……、優しい人だね、僕に隷属魔法をかければ、もう逃れられないのに……」
「いいえ、優しくはないですよ。本当は、このまま無事に子供が生まれて魔力が戻るのを待つ心算でした。あなたに器さえ宿ってしまえば、私から逃れることは無理ですから……」
淡々と言う彼の言葉を聞きながら、どうしてそうしなかったのだろう、とリュシアは思った。
その疑問を投げかける前にセレスから、「けれど、出来なかった」と言う。
「どうして?」
「……ただ、選んでもらいたかったんです」
小さく息を飲む彼が、きゅっとリュシアの手を掴み指を絡めた。
「番の契りを交わして隷属させることで得る愛よりも、ちゃんとあなたに選んでもらいたかった」
「うん……」
それなのに、その結果が彼との決別なんて、自分がどれだけ酷いことをしているのか身を持って知る。
自分はセレスに何もかも忘れて幸せになってもらいたいと思ってた。
本当に、そう思っていた。けれど、身体を重ねた瞬間、相手を求める気持ちの強さと絆の深さに、抗う術はないのだと知った。
どれだけ拒絶しようとしても、勝手に愛しい気持ちが溢れて来るのが防げないなんて、とリュシアは〝番〟に出会うことに憧れていた自分を後悔した。
「セレスは国に帰ったあとどうするの?」
「……そうですね、サザンディオへ向かおうと思います」
「あ……、隣国の?」
「はい、あなたを逃がしてしまった責任を取ると言えば、父も心置きなく除籍してくれるでしょう」
王国ベルヴィルより東に位置する小国で、その国も魔力持ちだけが住む国だが、魔力が枯渇した者ばかりが生活していることもあり、のんびりとした風情が漂う国だった。
「あの国なら、あなたの情報も入って来ることはありませんし……」
「……そっか……」
――僕を忘れてしまうの?
と彼ではなく自分の心に問いかけた。
自分から忘れろと言っておいて、彼が目の届かない場所へ行くことを知ると途端に引き戻したくなるなんて、リュシアは自分がこんなに身勝手な人間だったとは思いもしなかった。
「さあ、もう寝ましょう」とセレスに掛け布をかけられ、彼に促されるまま眠りに付いた――。
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