6 / 43
絹毛の姫様
#06
しおりを挟む1999年12月21日午後2時ごろ、京都伏見区の京都市立日野小学校の校庭で遊んでいた当時小学2年生の児童が覆面の若者にナイフで刺殺され、犯人は自転車で逃走した。
逃走に車を使わず自転車を使っていることや背格好などから当初中学生から高校生の学生の犯行と思われた。
犯行現場には凶器となったナイフや金づちのほか、犯行声明と見られるコピーが6枚ほど残されており、そこには自分が小学校に恨みがあり攻撃をすること、そして自分を探さないようにという要求が
書かれており、まるでメモのように「わたしを識別する記号 てるくはのる」という言葉が添えられていた。
殺害の手口は冷静かつ残酷なもので、ジャングルジムで遊んでいた少年に抱きつき包丁で突き刺し、北門のほうへ平然と歩いて去って行ったという。
2年目に神戸で酒鬼薔薇事件が起きた余韻の冷めやらぬうちの事件である。
この「てるくはのる」にも隠された意味があるのではないか、とマスコミがくいつき、連日様々な推理合戦が繰り広げられた。
翌日小学校から300mほど離れた醍醐辰巳児童公園で犯人の遺留品と思われる血のついたズボン、青いフードのついたジャンパー、バイク手袋、黒い目だし帽、自転車、鞘に収められたナイフが発見された。
自転車は防犯登録番号から大阪府枚方市で販売されたものであることが判明した。
防犯登録の名義は「山室学」となっており、京都府宇治市の住所になっていたが警察が調べたところその住所はレンタルビデオ店になっていた。
12月30日になると現場から約4kmの宇治市のホームセンターで事件の2日前に事件で使われたものと同型のナイフと農薬を若い男が買っていることが明らかになる。
防犯ビデオに写っていたことからその映像を枚方市の自転車屋に問い合わせたところ、「山室学」に酷似しているという証言が得られた。
「山室学」はおそらく犯人の偽名であり、その男こそが犯人の正体である蓋然性が高くなったのである。
翌年の2000年1月28日、京都府警山科署はホームセンターのビデオを一般に公開した。
だが情報の提供を待つまでもなく、すでに警察は一人の男をマークしていた。
男の名は岡村浩昌、伏見区の団地で母親と一緒に暮らしている浪人生で、殺害動機を確認するため彼の経歴の内偵を進めていた。
すると岡村は高校時代、担任の教師に卒業を取り消して欲しいと強く迫っていたこと、そして現在の教育制度に強い不満を抱いていたことなどが判明した。
ビデオによく似た背格好、そして犯行声明に合致する動機、ホンボシとしての確信を得た府警は2月5日午前7時ころ6人の捜査員を派遣して岡村に任意同行を求めた。
だが岡村は「いきなりやってくるのは失礼だ。それに今日は友達と約束がある」と言って拒否。
捜査員はその場にいた母親にビデオを見せるなどして説得したところ、母親は「写真の姿が貴方に似ている。行って話してきなさい。信じているから」と息子に同行を促しはじめた。
それでも難色を示す岡村に1時間以上粘り強く説得を続けたところ、ついに岡村は近くの公園でなら話してもいいと承諾した。
午前8時20分、岡村の自宅から200mほど離れた向島東公園に場所を移すと岡村は捜査員二人と話しはじめた。残る4人の捜査員は公園内で待機していた。
それでもなかなか岡村は事件に関することに答えようとしなかったため母親が公園に呼ばれた。
午前11時、公園に母親が出向き無人となった岡村家で家宅捜索が開始された。
無断ですれば犯罪であるから、当然母親の許可を得ていたのであろう。
捜索の結果犯行を匂わせるメモが発見され、そのメモには自転車の持ち主である「山室学」のサインが書かれていた。
この発見を受け午前11時30分、捜査本部は逮捕状を裁判所に請求する。
ところがここからが大問題で、午前11時50分、何を思い立ったのか岡村は黒いバッグを捜査員に投げつけると隣接したスーパーの中へ逃走する。
そして6人もいた捜査員を振り切り現場から数十メートル離れた13階建ての公団住宅に逃げ込み屋上に登ると外側から鍵をかけた。
捜査員は午後0時30分には岡村を発見していたが、屋上の鍵を開けるのに手間取っている間に午後0時50分岡村は屋上から飛び降りて自殺してしまった。
京都地方裁判所が逮捕状を発行したのは自殺から5分後の午後0時55分であったという。
岡村が逃走時捜査員に投げつけたバッグからは約20通の手紙が発見された。
その宛先は小学校、中学校、高校の担任や教師に対するもので中退希望者を理解して素直に中退させて欲しかった、など学生生活への不満が長々と述べられていた。
自宅から発見されたメモにも同様の記述と、犯行を認めたとも見れる文章が発見された。
本人の死亡により謎のままとなった「てるくはのる」だが、人気番組ニュースステーションに視聴者からの推理が寄せられる。
21歳の犯人が21日に起こした犯行であることから「てるくはのる」を50音順に逆に読むと「らむかお」となり、これを並び替えると「おかむら」になるというのである。
これはなかなかに良い推理と思われたが後日捜査の結果それほど手の込んだものではなかったことが判明した。
岡村の自宅から押収されたもののなかに「名言名句集416ページ」というメモがあったので本棚にあった格言集「すぐに役立つ名言名句活用新辞典」という本を調べてみると、てるくはのるは「か行」の索引の
末尾の文字を左から右へ並べただけであることがわかったのである。
岡村は小学校のころはいじめられっ子で父が病死し、母が家計を一手に支えていたという。
中学のときは成績優秀で将来を期待されて地元進学校に進学したが2年にあがったころからから精神の均衡を崩し、退学を希望するも認められず一年の休学とカウンセリングを経て卒業したのだ が本人は
この卒業を納得しておらず「すっきりしないので卒業を取り消して欲しい」などと高校に直談判したようだ。
廊下でいつまでも外を眺めていたり、自転車にじっと触っているなどの奇行から近所では有名であったらしい。
ほぼ岡村の犯行であることは確実だが岡村が自殺してしまったため京都地方検察庁は被疑者死亡により岡村を不起訴処分とした。
死者に刑罰を科すことは不可能であるからだ。
要するにこの有名な「てるくはのる」事件は犯人が明らかでありながら、刑事訴訟法上は未解決事件に分類されてしまうのである。
2004年3月遺族が被害者の権利の確立を裁判所に訴えるのも当然と言えるかもしれない。
81
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる