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11.俺も馬鹿だな
しおりを挟むさすがに疲れたな、と誠人はシャワーを浴びながら大きく息を吐いた。
大学の友人と一緒にいる海翔を見て、大学生か……、と今更のように年齢差を噛みしめた。
普段、突拍子もなく店に押しかけて来るが、忙しいことを察知すると、直ぐに何処かへ行ってしまうし、手間のかからない子だが、それは外に事足りる相手がいるということだ。
しかも、さっきのようなガキ臭い相手に身を委ねているのかと思うと、少々胸やけに似た消化不良を起こしそうになる。
一体全体、何に苛ついてるのか分からないまま、バスルームから出て、ベッドへ向かうと、薄っすら目を開けた海翔が「誠人さん」と手を伸ばしてくる。
「少し男を見る目を養った方いい」
「ん……」
「あんなの、見るからに犯るだけやって、ほったらかしにするタイプだろ」
「ああ、どうなんだろう? 俺に突っ込むというより、フェラしてもらいたかったのかも」
「は?」
「ほら、俺って無駄に顔がいいからさ、しゃぶられるの見てコーフンするんじゃない?」
むにーっと海翔が自身の頬を指で摘まむと、半身を起こし、「どうだっていい」と、ぼんやり虚ろな目で呟いた。
そんな投げやりな言葉を聞いて、初めて会ったあの日を思い出した。
傷だらけの海翔の姿を思い浮かべると、自分が傷を負った気分になる。あの時、面倒だと思ったのも本心だし、関わり合いになりたくないと思った。
けれど、傷ついたこの子を思い出すと切なくなるし、出来れば二度と傷ついて欲しくないと願う。だから、投げやりになって欲しくは無かった。
海翔は酔いが醒めてないのか、瞼を閉じると、もう一度ポスっとベッドへ沈む。綺麗な黒髪が白いシーツによく映えて、海翔の潤んだ瞳が誠人を捉えた。
「……誘われても抱かれる気なんて無かったし、俺は基本、自分からしか誘わないよ。それと学校の人間とか身近な人間は誘わないから」
自分からしか誘わないと言うが、今日に限っては誠人がいなかったから、お持ち帰りされていたことを注意した。
「けどな、今日に限っては、そんなこと言ってられる状態じゃ無かったぞ」
「今日は誠人さんがいるから、安心してた」
安全な男認定を受けた気がして、それは、雄としてどうなんだろうな? と自分が男として見られてないことに妙なざわつきを覚える。
は……、と小さく吐息を吐いたあと、海翔は口を尖らせて――、
「俺から誘わないと、手出せない奴ばっかりだよ……、現に誠人さんだって、あれから俺に手出せないでいるじゃん」
ぐうの音も出ないとはこの事か、と誠人は思い知らされる。
「お前の場合、いざとなると相手が尻込みするんだよ。若いのに手慣れ過ぎてて……、抱く側は結構プレッシャーを感じるんだぞ……」
「ふぅん、それなら誠人さんは大丈夫、今までの誰よりも上手い。俺、後ろで達ったの初めてだった」
「……」
「で、誠人さんは、いつになったら誘ってくれるの?」
気怠そうに、こちらを見る海翔に「主義がある」と返答した。
「主義?」
「同じ相手は頻繁に抱かないようにしてる」
「あー、情が移るから?」
「分かってるなら、しばらく大人しくしてろよ」
「俺の番が回って来るまで?」
「まあ、そうだな」
海翔が身体を起こすと、誠人の腰に腕を回してくる。
バスタオルを巻いている腰へと海翔の手が伸びてくると「ね、ここ……舐めていい?」と甘えた声を出してくる。
「だから、さっきの話聞いてたか?」
「もー……、お持ち帰りから助けてくれたお礼に、舐めて達かせてあげるだけだよ」
くすくす笑う顔が近付き、唇を奪われると、そのまま海翔は誠人をベッドへ引き入れ跨って来る。
「俺は、誠人さんが、誘うのを待ってるんだけど? 挿れたくない?」
「……お前ねぇ……」
「あっ、おっきくなった」
ああ、クソと罵倒したくなる。
どうしてこうも簡単に反応するのだろうか、自分の下半身が情けないのか、海翔の煽りが上手いのか、どちらにせよ、いいように扱われているのは間違いない。誠人の腰に乗ったままの海翔を横へ落とし「とにかく、今日はもう寝ろ」と、掛け布団をかける。
「酔っ払いの戯言をいちいち真に受けるほど暇じゃない」
「ちぇ……、せっかく勃ってるのに……勿体ない」
それはこっちのセリフだ、と誠人は眉を寄せた。
海翔は窃笑しながら、「仕方ないなぁ、まあ、抱きたくないならいいけど」と呟き、静かに目を閉じた。
一瞬、グラっと誠人の理性が傾いたが、それを堪えるように冷蔵庫からビールを取り出すと、一気に流し込んだ。
ベッドで静かな寝息を立てる海翔を見下ろし、起こさないように、そっと誠人も隣に体を沈める。
――俺も馬鹿だな……。
つくづく、そう思った。あの日、海翔を抱いた瞬間から、誰のことも目に入って来ない。自分の中にあった『主義』は、見事に打ち砕かれて、とっくに壊れている。
自由気ままで、裏表のない海翔の性格は可愛いと思うし、身体の相性も悪くない、正直なことを言えば、喉から手が出るほど抱きたい。なのに、主義を言い訳に使ったのは、自分の身の安全のためでもある。
抱く頻度が多くなれば多くなるほど、ただの情は愛情に変わる可能性が高くなるし、この歳で本気で誰かを好きになるのは避けたかった。
人の気も知らないで、幸せそうに眠る海翔の頬にキスを落とすと、誠人は目を閉じた。
翌朝――。
自分に跨る海翔の重みで目が覚める。自宅で誰かが起こしてくれる新鮮さを噛みしめたいが、そんな色気とはかけ離れた起こされ方だった。
「誠人さんおはよ」
「……おはよ、あ、ぁっ、ちょっ、揺するな……っ、やめ――」
腰の上に跨れて、ゆっさゆっさ揺すられ、朝からは出てはいけない白濁した何かが出そうになる。
「いま何時?」
「七時半かな」
「げ、ちょっと退いて、仕入れいかないと……」
「あ、俺も学校行く準備しなきゃいけないから、家に帰るね」
そう言って、海翔は慌てて部屋を出て行こうとする。何故か二度と会えないような感覚に襲われ、誠人は慌てて腕を掴んだ。
掴まれて驚いた顔を見せる海翔が、「どうしたの?」と聞いて来る。
「あー……いや、気を付けてな」
「変なの……」
「ほら、早く行けよ」
「うん、じゃあね」
跳ねるように玄関から飛び出し、相変わらず振り返りもせず出て行った海翔に、誠人は苦笑し、溜息を零した――。
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