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10.書道サークル?
しおりを挟む数日後、海翔が大学の友人を連れて現れたが、最初に言ってた通り真面目な人間を連れて来た。
海翔を入れて五人、一人は女の子だったが、今どきの女の子と言うよりは、如何にも真面目な感じの子で、礼儀正しく挨拶をされ、誠人の方も畏まりそうになった。「あっちの六人掛けにどうぞ」と店内にある一番大きなテーブルへ案内すれば、「はーい」と学生らしい元気のいい返事をしながら六人掛けのテーブルへと座った。
女の子の横に座った男が、懸命に話しかけている所を見ると、海翔と残りの友人は二人の仲を取り持って場を設けたことが分かった。
へえ、青春じゃないの? と何処かの下世話な親父並みの科白を頭の中で吐き、微笑ましい風景を眺めた。
海翔が席を立ちカウンター越しに誠人へ「言った通り、大人しいタイプでしょ?」と笑みを浮かべる。
「確かに、いかにも文系だな、何の集まりなんだ?」
「書道サークル」
「しょ、書道?」
意外な気がしたが、でも似合いそうだな、と素直に思う。海翔が和装して筆を持つ姿を想像して、何故かムラっと妄想が湧きたった。
――和服……いい……な。
自分で勝手に想像しておいて何だが、仕事中に妄想してはいけないことを想像して自己嫌悪に陥る。「あー、料理出すから、席に戻ってろ」と席へ戻るように伝え、海翔を追い払うと作業に集中した。
しばらくすると、常連客やら一般のお客やらで店内は一杯になり、注文がひっきりなしに入り始める。
ランチ時間は誠人だけでまわすので、日替わりランチしか出さないが、ディナーは流石に様々な注文が入る。なので狭い店内とはいえ厨房に一人とレジ兼ホール係に一人雇っていた。
店内の慌ただしさを横目に、海翔を見れば、あれだけ酒は飲むなと言ったのにも関わらず、ワインを飲み、陽気な様子だ。
友人の誕生日だし、海翔も翌々月には成人するらしいので、今日は大目に見ることにしたが……、ふと、隣の男の目線が気になった。
舐めまわすように海翔を見る視線は、男が放つ特有の物で、狙ってます感が漂ってくる。仮にそうだとしても、誠人が口を出すのは変だと目を一旦背け、注文に集中したが、どうしても気になってしまう。
無防備に酔っぱらって頬を染めて、とろんと目尻を下げながら、そんな目で見つめるから、男が勘違いをするんだろう! と内心ハラハラしてくる。
「オーナー? 焦げます」
「ん、……うぉっ」
昼間に海翔が味見したラム肉のハーブ焼きに注文が入り、焼きを入れている最中に余所見をし、危うくラム肉が台無しになる所だった。
反省をしながら料理に集中しようとしたが、どうにも気になる。気にした所で誠人にはどうしようもない、なぜなら自分は彼氏でもなければ、保護者でもないのだから。
――ん、いいや、俺は保護者だな。
最後の一品を作り終えると、パタンと厨房からホールへと外へ出る。
「海翔?」
「あー、コイツ、もう落ちちゃってます」
「……そんなに飲ませないであげてくれるかな、その子が酒を飲まないことくらい友達なら知ってるだろう?」
ジロリと男に圧をかけ、海翔を抱えると「すぐ戻るから」と従業員に声をかけ、自宅へとお持ち帰りした。弱いのに飲み過ぎるなよ、と文句を言いながらベッドに落とし、そっと頬を撫でる。
「大人しく寝てな……」
海翔をそのまま部屋に残し店へと戻ると、海翔の友人達が帰るところだった。「海翔はどうしたんですか?」と聞いて来る男に「今日は俺と約束があってね」とニッコリ微笑んだ。
男の顔に苛立ちが見えたが、そもそも酔わせて何処かに連れ込むというのが気に食わない。海翔が望んでいるなら分かるが、そうじゃない相手に連れ込まれて犯られるのかと思うと流石に見ていられなかった。
どうして自分が父親的ポジションにいるのか謎だが、仕事が終わったら叩き起こしてやるからな、と誠人は仕事に専念した。
「そろそろ、ラストオーダー」
「はーい」
ホールを歩き回るスタッフに最後の注文を取るように伝え、誠人はラストオーダーの料理を作りつつ、同時に片付けもする。
淡々と仕事を熟し、ようやく店内が静かになった頃、時刻は二十三時を少し過ぎていた。
従業員達を見送り、誠人も自宅へと戻る。いつもなら無いはずの他人の靴が玄関に置いてあるのを見て、部屋の中に自分じゃない人間がいる気配に暖かな感情が湧いた。
こんな風に誰かがいてくれることで安堵出来ると思えば、特定の相手を持つのも悪く無いと思える。まだベッドの上で眠っている海翔を見れば、子供のように、くるんと丸くなって寝ていた。
――暢気なもんだ……。
さっきまでは、叩き起こして説教をするつもりだったが、今から起こすのも可哀想だと思い、仕方なく誠人はシャワーを浴びることにした。
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