浮気な彼と恋したい

南方まいこ

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08.可愛くて憎たらしい

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 後孔に触れた途端、海翔の太腿に力が入っているのが分かり、初めてじゃないのに、何故そんなに緊張しているのか不思議に思った。

「どうした」
「え? なに……?」
「初めてじゃないだろ?」

 もちろん初めてじゃないと海翔は返事するが、体が強張っていることを誠人は指摘した。

「うーん、なんか、いつも挿れられる時……、緊張する……」

 そう言って苦笑いを見せる海翔が、いじらしく感じた。
 頬や首筋にキスを落とし、側に置いてあるジェルを手に取ると中へ注ぎ、指をそっと忍ばせる。
 これは誠人の憶測だが、ノンケの相手が多いせいで自分で解さないといけない状況が多かったのと、その日限りが多いせいで大切に扱ってくれる男が少なかったのだろう。
 痛い思いをしたことも多かったなら、その緊張も頷けるものだった。

「今度からノンケは相手にするなよ」
「どうして?」
「辛いことが多いだろ? 体も労わって貰えないし……」

 その言葉を聞き、海翔がコクリと頷くを見て、そっと中へ指を入れる。ほぐれてはいるが、ちゃんと愛撫してやりたいと思った。
 ゆっくりと肉襞の中にある敏感な部分を押してやると、緊張していた体が違う反応を見せ始める。

「っあ、……な、に……ン」
「いいから、そのまま集中してろ」

 海翔の背中にピタリと寄り添い、頼りなさげに見える腰を抱き寄せた。
 ぶるぶると快楽に震える背中に舌を這わせ、後孔を押し広げながら、何度も抜き差しする。その度に身を捩り、快楽に耐えている様子が可愛くて、あまり良くない感情が湧いて来る。
 これは、ただの情だとは思うし、可愛い物をいつくしむのはよくあることだ。だけど……? と思う。

「あんまり時間がないから、今日はこれで終わり……な?」

 そっと前に手を伸ばし、ペニスを扱き同時に後孔も抉り突けば、全身を痙攣させ悲鳴をあげた。

「あぁ、……だめっ……い――っ!」

 2回目の吐精は、随分と深い快楽だったようで、体を丸めながら荒い息を吐いている海翔の体を眺め、ごくりと誠人は喉を鳴らした。
 本当なら突っ込みたいところだが、抱けば後戻り出来ない気がして躊躇う。それに仕事の途中で、仕込みもしないといけないし……、と何故か急に冷静になった。

「少し休んでるといい。俺は、仕込み……っ、おい……」

 ベッドから下りようとする誠人の後ろから抱き付き、背後から器用にジジっとズボンのファスナーを下ろし始める。

「ここ……もうきそうなのに?」
「は……、生意気なこと言う」

 ――どうなっても知らないからな。

 と何故か海翔では無く自分に言い聞かせる。ドっと海翔を押し倒し、誠人は慌ただしく自身のズボンに手をかけると、前をくつろげ性器を取り出した。
 猛ったペニスにゴムを着けている最中、まじまじと眺められて、さすがに軽い羞恥が湧き起こった。ガチガチなのは見ればすぐに分かるからだ。

「立派なモノ持ってるね」
一言ひとこと余計だよ……。あー、後ろ向きな」
「ん……、前からがいい」

 そう言いながら海翔は頭を左右にふるふると振る。

「けどな、辛いだろ」
「平気、イってる顔見たい」

 どちらかと言えば誠人も後ろよりも前からの方が好きだった。
 相手が感じてるのを見るのが好きだと言うのは、雄が持つ特有の感情かも知れない。本人がいいと言うなら……、と膝を左右に広げ体を割り込ませた。
 それにしても、きめ細かい肌に柔らかな肉の感触がゾクゾクさせる。細い腰に手を回せば汗ばむ自分の掌を感じて、否応なしに誠人はどれだけ自分が興奮しているかを思い知る。
 目尻をぐっと落としながら、こちらをじっと見つめる海翔の深海のような真っ黒な瞳に、自分の疾しい心の中を覗かれている気がした。
 誠人は、これ以上ないほど硬くなったペニスを海翔の中へと押し入れ、肉襞を広げた。

「ン……あッ、あぁ……ぁ――」

 甘く喘ぐ姿に酔わされながら、徐々に埋まって行く己の肉の塊が僅かに敏感な所を刺激したのか、一段と甘い息を吐き、襞をぎゅうっと絡ませて来る。
 蕩けた海翔の顔を眺めてるだけで、あと五歳若ければ、その顔だけで果ててたかも知れないと、最奥のギリギリのところで留まり、肢体を上から眺めた。

「随分、元気がいいな?」

 また熱を集め出した性器を握って煽った。ゆるりと腰を回し奥深く穿てば、可愛い声を出し、快楽で歪む海翔の姿が、誠人をたまらない気分にさせた。
 腰へ足を絡ませてくる海翔に「もっと奥まで……ちょうだい」と強請れて、ドンと下っ腹に鈍い刺激が集まる。
 あー、これはマズイ、と何度も精を堪えながら、緩めに腰を回し愛撫をしてやれば、目に涙をためながら小さな声で「気持ちいい」と呟くのが聞えた。

 ――……っ、ツ……。

 優しくしてやりたかったが、喘ぎ声に紛れて譫言うわごとのように、気持ちいい、と連呼されては、誠人の熱も切羽詰まってくる。上がってくる欲求に火を点けられ、堪え切れず激しく腰を打ち付けた。

「それ、だ、めっ、あぁッ……ンッ――」

 海翔の顔が喜悦と苦痛に歪む。誠人が全力で抱けば、海翔は辛いだろう、だから辛いなら止めると言えば、涙をいっぱい浮かべた目で「やだ」と言う。
 元々タイプなのだから、当然、抱くのも楽しいし、海翔の外観だけでも十分過ぎるほど肉慾にくよくは掻き立てられる。

「何されるのがいい……?」
「ん……、誠人さんが……好きな抱き方で……いい」

 思わず息を詰めた。ピクンと動く海翔の内襞に、気を抜けば持ってかれそうになる。この期に及んで、まだそんな可愛いこと言えるとは……、と海翔が段々憎らしくなってくる。
 堪える身にもなって欲しいんだが? と誠人は目を眇めると、腰骨をぐっと持ち上げ、海翔の負担のかからない位置で固定し、ぐるりと腰を回し打ち付けた。
 セックスに夢中になる年でもないのに、誠人は久々に夢中で快楽を追いかけた。
 次第に配慮出来なくなり、そのまま怒張を抜き差しながら、激しく腰を使い、最後の一滴まで薄い皮の中へ吐き出した――。

 情事が終わった後、海翔はさっさと服を着替えて出て行こうとするが、このまま帰すのは、いくらなんでも薄情過ぎる気がして声をかけた。

「連絡先は?」

 自分から連絡先を聞いたのは初めてのことだ。
 誠人の問いに海翔は、「ここに来たら会えるのに?」と不思議そうな顔をして見せた。

「いや、まあ、そうだけど……、突然来られても相手出来ない」
「ああ、それに関してはいいよ、相手には困らないし」

 今まで、抱いた相手から投げかけられたことが無い言葉だからだろうか、何故か寂しい言葉だと思った。
 海翔から見れば、誠人も執着するまでも無い相手で、量産するワインのラベルを貼るが如く「その他」に分類された気がした。
 今まで一度だって、そんな扱いを受けたことが無く、ショックに似た憤りを感じる。

「他ね、さっき忠告しただろ?」
「……うん、けど、特定の相手はいらない、誠人さんもでしょ?」
「そうだよ。けどな、俺はちゃんと選んでる。海翔も今後は抱かれる相手は選べって言ってるんだよ」
「選ぶ……? そっか分かった」

 彼は視線をこちらに向けると「またね」と言い、玄関へと歩いて行く、誠人は溜息を吐き、出て行く男の背中を眺めた。

 ――ベッドから降りると途端に可愛くないな、振り向きもしないのか……。

 誠人が見ているのを承知の上で、そうしてるなら生意気だが、多分、海翔はそう言うタイプじゃない。結局そのまま、振り返ることなく出て行った。
 やはり手を出してはいけない相手だったなと、若干、後悔をしながら、後ろの首筋に手を回すとヒリっとした。
 さっきの行為で引っかかれたのだろう。くすりと笑みを溢し、シャワーを浴びると誠人は仕事へ戻った――。
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