それは先生に理解できない

南方まいこ

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~Main story~

14.結局のところ

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 葵は解決出来ない難問にぶつかり、解決出来そうな人物に連絡をし、 指定された店へ出向いた。
 待ち人を待っていると、友人の嵩原が颯爽と現れ、軽く手を上げ近付いて来る。ポスっと席に着くと彼は呆れた顔で口を開いた。

「それで、結局、絆されたのか…」
「好きになったら…と約束しまして…」
「まあ、いいんじゃない? 数回ヤレば飽きるだろ」
「た、嵩原!」
「だから、お前が本気になる前にヤレ」
「簡単に言うなよ…」

 相談に乗ってもらうつもりだったが、身も蓋もない発言をされ、相談相手を間違えたと気が付いた。
 
「最初は結構辛いからな、しかも相手が高校生だろ? 壊されないよう気を付けろよ」
「…どうすれば…いい?」

 仕方がないなと嵩原にメモを取る様に言われ、彼から必要最低限のことを教えてもらった。広げるための道具とかも揃えなくてはいけないと聞き、そんな事までするのかと絶句した。

「俺…、無理かも…」
「経験豊富な男を最初に選んだ方がいいな」
「そう…かな」
「男、紹介しようか? 俺の知る限り一番巧いから、安心して天国に逝ける」
「言い方…」

 クスクス笑いながら、その天国男の写真を見せられる。流石、嵩原の選ぶ男だと思った。高級感を漂わせながら、色気のある年上っぽい男が微笑んでいた。
 イタリアン料理店のオーナーだと言い、いつもフリーだから安心しろと言われ、何を安心したらいいのか分からない。見せられた携帯を手で伏せると、正直な気持ちを嵩原に伝えた。

「あのさ…、変かも知れないけど、俺はやっぱり…」
「好きな相手がいい?」
「…うん」
「その高校生を好きになったか…」

 言葉が返せない、キスをしてから数日経つが、学校で顔を合わせても、適当に会話を切り上げ逃げていた。
 本当にどうしたらいいのか分からない。
 ある日突然、顔面偏差値の高い男が、変態告白をしてきて、熱のある視線を投げかけてくる日々に慣れた頃、キスをされ、はじめてキスをすると告白してきた。
 兎野が初めての相手に自分を選んだと言うことが誇らしく思えて、嬉しくなった。少し経って冷静になり、ウソかも知れないと思ったが、あれは嘘じゃないと感じたのは、ほんの少し兎野の手が震えていたからだ。高校生の分際で偉そうなことを言うし、少し、いや、絶対に変態だが、どこか可愛いところがあって憎めない。

「俺からアドバイスできることは無さそうだな」
「そんな…」
「もう覚悟きめろよ」
「嵩原みたいに経験豊富じゃないんだよ。俺が相手に本気になっても、相手は…なんか違う感情を抱いてる見たいだし…、なんか抱かれ損する見たいな気がして」

 本心はそこだった。自分だけが相手に夢中になり、どっぷり浸かるのが怖い。

「あー、なるほどね。高校生だしな、気も変わりやすいか。まあ、その時は慰めてくれる男を何十人でも用意してやるから」

 そう言って妖艶に微笑み、天国男の写真を表示しながら、フリフリと携帯を振った。嵩原が用意する男達に間違いはないだろうが、安易に生徒と関係を持てるわけも無く。
 生徒と教師だと言う関係を忘れないで欲しいと言うと、そんな禁忌どうってことないと、嵩原は呆れた顔をした。
 
「なあ、嫌なら本気で拒めよ」
「本気…」
「生徒だからって遠慮してる場合じゃないだろ? 所詮自分の気持ち次第だ」

 ガツンとくる一言だった。自分の気持ちで決めろと言われ、それが出来ない理由を考えろと言われた。
 一通り話を終えると、嵩原は後日談を楽しみにしてると言い、学生時代によく見かけた、艶のある笑いを浮かべた――――。



 
 嵩原との食事が終わり、自宅へと戻った。結局、何の成果も得られず、ぼんやりと嵩原の言葉を思い出した。覚悟を決めろと言うが、そんなに簡単に決められるわけない。
 教えられた道具類をネットで調べると、ワラワラと様々な物が出て来る。うわっと思ったが、流石にいきなり挿れられるよりは、自分である程度ならした方がいいのか…。
 そこまで考えて少し自分で弄ってみることにした。
 服を脱ぎ、風呂場に入り全身を洗う、少し指を滑らせ触るが、無理だった。

――怖くて無理だ…。

 どう覚悟すればいいんだ。体を泡だらけにしながら、自分の尻を触る、これじゃまるで、自分の方が変態に思えてくる。
 けど実際問題、抱く方を想像出来ない時点で、受け入れる側なのは理解していた。やはり道具買った方が良さそうだと、自分で指を入れるのは断念した――――。






 数日後、昼休みに校内で兎野と偶然すれ違った。

「先生…あのさ…」                                
「ん、放課後、準備室に来い」

 逃げてばかりもいられないと、葵は兎野に放課後、化学準備室に来るよう伝えた。自分で結論を出すしかない。
 兎野は不安な顔を見せ、何か言いたそうだったが、それも数時間後には解決する。ポンと肩に手を置き「後で」と言い残しその場から離れた。
 全授業が終了し溜息を吐くと、隣の金田が疲れてますね?と声をかけてくる。

――ええ、貴女のクラスの生徒のせいです

 と、言いたくなるのを我慢した。
 ふと、期末テストの結果のことを忘れていたことを思い出し、金田に兎野の順位を聞けば、やはり1位だった。しかもオール満点だったと言う。

「へぇ…、流石ですね」
「けど、本人はあまり嬉しそうでは無かったですね」

 きっと当たり前すぎて面白くないのだと思った。毎回、自分がトップの成績だと、感覚も麻痺してくるのだろう。葵は机の上を片付け準備室へ向かうことにした。
 席を立ち、職員室を出ると中庭を通り抜ける際に、人影を見つけたが兎野と雪城だった。何か話し込んでいる様子を見て、前回同様、モヤモヤしてくる。
 自分でも理解している感情に取りあえず蓋をし、準備室のカギを開け中に入り、待ち人が来るのを外を眺めながら待った。
 カタっと小さな音がし、そっと扉が開く気配に振り返った。

「あれ…、どうした?」

 入って来たのは兎野ではなく高柳だった。

「先生が入っていくのが見えたから」
「そっか、俺は、ちょっと明日の準備…っ…」

 ゆっくり葵の元へ歩みを進めて来る様子に、これは嫌な感じがする…。と背中に悪寒が走った。

「あー、何か…よ、うじだったか?」

――震えるな声…

「先生に用事があって…」
「う、ん、なんだった…?」

 忍び足で近寄ってくる生徒に嫌な予感がする。高柳は真面目な生徒だが、そういう生徒ほど色々なものを溜め込みやすい。ストレスを含め、発散方法は人それぞれだが、高校生にもなれば、その方法は大体がひとつに絞られる。目の前に立ちふさがると高柳は屈託くったくなく微笑んだ。

「ふ…、先生、どうして震えるの?」
「…っ…」

 怖いからだと言いたいのに、何故か言えなかった。以前、同じように兎野に上から見下ろされた時は、怖いと伝えることが出来たが、高柳には言えない。
 背も兎野より小さいが、圧倒的に違うのは目だった。視線を泳がせて身体をずらし扉まで走るが捕まった。
 
「うぁ…、ちょっと、やめ…!」
「先生、細いね」

 後ろから羽交い絞めにされ、更に身体が震える。

「な、ちょっと! おち、つけ」

 こんな時、思い出す光景は色々だ。過去の嫌な出来事や、兎野の馬鹿な発言…? ふっ、と何故か笑みが込み上げて来た。
 そうだ目の前にいるのは馬鹿な高校生。クルっと正面を向き、高柳と顔を合わせると、両手で頬を掴んだ。

「先生、なに…?」
「じっとしてろ…」

 驚いて目を丸くする高柳に勢いをつけて、思いっきり頭突きをした――――。





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