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~Main story~

06.サプライズ

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 せっかく嵩原がカットに連れて来てくれたと言うのに、この自分勝手な生き物のせいで、台無しにされた。
 ギロっと睨むと、兎野はしおらしく落ち込んで見せた。

「お前は何がしたいんだ?」
「…髪の毛切った?」

 悲しそうな目をし、前髪に触れようとする兎野を阻止した。

「友人と会う前に自分で少し切ったんだよ」
「どうして、そんな勝手なこと…、俺は我慢してるのに」
「はあ…? お前…、自分で言ってること分かってる?」

 頭痛がした。目の前の男が何を言っているのか理解が出来ず。泣きそうな顔で、そんなことを言われ、教師としてどう対処すべきなのか分からない。取りあえず順番に解決すべきだと感じた。

「我慢って何が?」
「従わせて、怯えさせて…自分の物にしたい」
「待て!」

――今、何言ったコイツ…?

 自分の耳を疑った。このままでは貞操の危機と言うより、己の命の危険を感じる。やばくないだろうか?百歩譲って葵に好意を持っているとしても、歪み過ぎてる気がした。
 ふと、先程の嵩原の言葉を思い出す「年下だけはやめておけ」あの嵩原が言うくらいだ、間違いなく危険だと感じる。
 自分から、こんなことを考えるのは自惚れかも知れないが、ひとつの可能性を考え口を開いた。

「あー…、兎野? その…俺のこと好きなの?」
「違う」
「は? だって、今、自分の物にしたいって…」
「そうだよ。ペット見たいな…感じ?」

 本当に驚いた。ペットという言葉を、高校男子に言われる日が来るとは思っても見なかった。

「…お前って、頭いいのに…、残念な男だな…」

 本当に、残念なヤツだと思った。持って生まれた容姿と努力して手に入れた頭脳が、粉々に砕ける瞬間を見たと思った。
 仮にも、自分の物にしたいと思っている相手に、ペットって言いますかね?そこはウソでも好きだと甘く囁くべきところだろう?女を口説いたことないのか…。と、そこまで考えて、兎野の容姿をまじまじと確認し、無さそうだと自己完結した。

――いや、口説かれても困るし…。

 数秒前の自分の考えも大概おかしいと思えた。
 ウソでも甘く囁けなんて…、口説かれたい女のような思考を、目の前のに一瞬でも持った自分に平手打ちしたい。
 溜息を大きく吐きながら、取りあえず問題児を何とか正しい道へ導くことが先決だと思った。

「あー、兎野、悪いけど困るんだよ。そういう、特別な感情? ペットとか従わせたいとか…、よく分からないが、あまりいい響きじゃないだろ? お前だって言われたらどう思う?」

 少し目を細め兎野は、自身の顎に手を置くと、うんうんと頷いた。葵の問いに理解出来たのか、ニッコリと微笑み口を開くと。
 
「俺は言葉選びを間違えた…」
「そうだな」
「先生を抱きたいと思うよ。従わせる≒抱きたいだ」
「…………は?」
「そう、抱きたいの間違いだった」
「いや、え?」
「今日はこれで帰る」

 この世のサプライズを全て、今日ここに集めたのだろうか? 爽やかに自分の元から去っていく青年から、たった数十分の間にどれだけの驚きの告白を受けたのか、きっと世界中を探しても葵くらいだろうと思った。

 急いで嵩原に電話をしようとしたが、彼はちゃんと遠巻きに様子を見てくれていたようだった。ゆっくりと近付いて来ると。

「…大変そうだな」
「うー…、嵩原ちょっと相談に乗って欲しい」
「基本、放置がいいぞ」

 間髪入れること無く嵩原は放置をオススメしてきた。

「それで解決する?」
「いや、時が来たら大変なことになる」
「全然ダメじゃないか…」

 彼は軽く咳払いをすると絶対に隙を見せるな。と力強い言葉を放った。
 
「一体、アイツなんなんだ…、わけが分からない」
「だから言ったろ? 年下の図体のデカい男は、皆ちょっと思考回路がおかしいんだよ」
「嵩原、年下と付き合ってるんだ?」
「まあ、俺のことはいいから…」

 嵩原は冷めた表情を見せ、とにかく、完全な無視と放置は良くないかも知れないと言い、少しずつ遠ざけることがベストだと言われる。兎野は、よく欠席をする生徒だが、本人が学校に来れば毎日顔合わせると訴えた。

「…とにかく頑張れ」
「そんな…」

 不意に嵩原の携帯が鳴り、溜息を吐くと用事が出来たと言い、今度、また会おうと言う話になった。何かあれば連絡をくれと言い、嵩原は去って行った。葵も冷静に考える時間が必要だと思い、ひとりになれて丁度良かったと思った。
 自宅に戻り荷物を下ろすと冷蔵庫からビールを取り出した。とにかく飲みたかった。酒に酔って何もかも忘れたい。
 一気に飲み終えるとフラフラとベッドへ行き、そのまま体を沈めた。

――アイツ…、なんなんだ…。

 熱の籠った目で、好きだと言われるならまだ分かるが、従わせるとか、怯えて欲しいとか、大丈夫か…?その対象が自分だと思えば危機感を感じて当然だと思う。

 ただ不思議と嫌悪感は湧かなかった。たぶん、初めて同性から好意と言う名の興味を抱かれたことで、少しだけ気分が高まっている気がした。
 と思える要素を含んだ告白だったが、それでも兎野の総合スペックを考えれば、気分は悪くなかった――――。



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