Wild Frontier

beck

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第三章

望まれざる来訪者

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「わかりました。とりあえず俺と……セレナも来てもらっていいか?」
「当然参る。顔も見たく無い男ではあるが……逃げるのはもっとしゃくだ」

 セレナから異様な殺気を感じる。

「頼むから揉め事だけは起こさないでくれよ?」
「ああ──努力する──」

 あまり効果が無いようだ。
 そして何か問題が起こると、率先してどうにかしようとするのがベァナだ。

「私も行きます!」
「ベァナ。ザウロー家の長男はかなり好色だと聞いている。目を付けられてしまうのではないかと心配なのだ。今日の所は娘達と待機していてくれないか」
「ヒースさんがそうおっしゃるのでしたら……わかりました。妹達と一緒に大人しく待っています」
「ありがとう。頼むな」


 さて。
 いつか来るとは思っていたが、どんな相手なのだろうか。

 とにかく怒りで我を忘れないようにしなければ。




    ◆  ◇  ◇




 協会の待合室にある席にどかっと腰を降ろす男。
 態度の大きさから言って、あれが間違いなくケビンだろう。

 彼を連れて来たシアは、横の方に控えている。
 一瞬目が合ったが、すぐに目を逸らされてしまった。

 確かにケビンの前で、アイコンタクトなどしない方が良いだろう。
 あらぬ疑いを掛けられてしまうかもしれない。
 賢明な判断だ。

「おおっと、あんたが噂のヒースだな! 聞いてた通り、シアちゃんのお友達みてぇな見た目してるのな」
「初めましてケビン代行。私が旅の技術屋、ヒースです」
「技術屋? ああ職人さんね。最近の職人さんは剣も扱うんかぁ。へぇ~」

 話には聞いていたが、まんまチンピラのような話をする男だ。

虚勢きょせいを張りたがるのは、どこの世界でも同じか……)

 そう思うとなんだか非常に滑稽こっけいで、思わず吹き出しそうになった。
 だがそんな事をすれば、目の前の男は真っ赤になって怒り狂うだろう。
 ここは我慢だ。

「んで……あら、そちらの綺麗なお姉さん、どこかで見たことが──」
「セレナだ。ヒース殿の護衛を務めている」
「あんたも剣士なんだな。女剣士……あぁ、お前あの時の?」

 ケビンはセレナを指差して、大声で叫んだ。

「あの運が悪くて命を落としちゃった、あの男のコレか! 随分イイ女になったじゃねぇかよ、えぇ?」

 彼は突き出した人差し指を引っ込めると同時に、小指を立てた。
 なぜかこんな品の無い動作が、元の世界と同様とは。

「そういう関係では無い。単なる友人だ」
「まだ友人だったのかぁ、すまないなぁ。あの男とヤル前に殺しちまってよぉ」

 セレナの拳が白くなるまで握られていた。
 そろそろ話を逸らさないとまずい。

「ケビン代行、私に何か御用があるとお聞きしましたが」
「あぁ? 折角懐かしの再会を楽しんでるっつうのに、邪魔をすんのかよ?」

 どうやら本気で話にならない奴らしい。

「いえいえ。貴重なお時間を取らせるのも申し訳ありませんので、用件を先に済ませてしまえればと」

 貴重というのは、目の前のケビン人々の時間なのだが。

「まぁそうだなぁ。面倒くせぇけど親父の頼みだからちゃっちゃと片付けるか。んじゃお前だ、ヒース。お前、カークトンへ来い」
「なぜ私がカークトンへ行かねばならないのですか?」
「この町の仮領主様が来いって言ってんだ。つべこべ言ってねぇで黙って来いよ」
「あの申し訳ございませんが、私はとある商人様経由で、ここの領主様の依頼をこなすためにトレバーを訪れています。依頼はまだ終わっておりませんので、ここを離れるわけには行きません」
「めんどくせぇなぁ。そんなもの放っておけばいいだろうがぁ!」

 面倒臭いのはこっちのセリフだ、放蕩ほうとう息子が。

「私も商売としてこの依頼を受けているのです。それを途中で投げ出してしまっては信用を無くし、今後仕事が来なくなってしまいます。賢明なケビン代行なら、その意味がお分かりになられますよね?」
「なっ!?」

 ケビンの様子が不機嫌から怒りに変わろうとしていた。
 すると横にいたお目付け役と思われるごろつき仲間が、彼に助言を加える。

「ケビン様! お父上から揉め事は起こすなと言われていますので、何卒……」
「んなこたぁ、わぁってるよデニス! あー、なんか頭に来るなこいつ」

 自分の思い通りに行かない事など、今まであまり無かったのだろう。
 わかり易いくらい、精神年齢が低い領主代行様だ。

「てかお前、なんか隠れて作ってるらしいけど、何作ってんだ?」
「契約上の守秘義務がございますので、お話は出来かねます」
「俺は仮領主代行だぞ? 隠し事なんかして良いわけが無いじゃねぇか」
「私が契約を結んだのはケビン代行ではなく、前領主のマティウス様です。仮領主権限でマティウス様に開示命令を出していただければ問題無く明かせますが──」

 俺の言っている事の九割は、事実を巧妙に絡めたハッタリである。
 結局の所、仮領主に全権限があるわけではないのだ。
 しかしそれをしっかり確認出来るような人間なら──そもそもこんな形で町を訪れたりはしないだろう。

「わぁったよめんどくせぇなぁ! なんなんだこいつは……んじゃ今すぐ来いとは言わねぇ。いつなら来れるんだよ?」
「そうですね……とりあえずどんな依頼なのかを詳細にお伝え頂いた上、依頼に対する報酬に納得出来た後でしたら、そちらに伺えますが?」
「お前っ、俺を馬鹿にしてんのか!?」
「馬鹿にしている? すみません、私はせめて契約に必要なの情報をいただけませんか? とお願いしているだけなのですが」
「……」

 やばい。
 ケビンの目が座ってきている。
 ちょっと煽り過ぎたか。

 だがケビンのお目付け役も相当焦っているようで、止めに入った。

「ケビン様っ。一度、御父上にご報告されたほうがよろしいかと」
「……」

 ケビンは座った目のまま立ち上がり、そのまま出口へと歩いていく。
 子分共もその後を追うが、親分であるケビンが不意に立ち止まった。

 そしてこちらを振り向いて一言。



「ヒース……お前。ぜってぇ潰すからな」



 そう言い放った後、彼はそのまま係留していた馬車で帰って行った。




    ◇  ◆  ◇




「お前。ぜってぇ潰すからな! だって! アハハハハ!」

 ハンナがケビンの真似をして大笑いする。

「あまりそういった事で人を小馬鹿にするものじゃありませんよ、ハンナさん」

 流石にロルフは支部長だけあって、対応も紳士だ。
 そして先の事までしっかり考えている。

「でも少し危うい状況になりましたね」
「どういう事ですか?」
「仮領主のヘイデンは確かに悪徳領主ではあるのですが、実利にこだわるので直接トレバーに悪さをする事はありません」
「それはもしかすると、問題を起こすと仮領主の地位を剥奪はくだつされてしまう可能性がある、という事ですか?」
「その通りです。明らかな問題行動は連邦監察軍の耳に入り次第、確実に権利の剥奪に繋がるでしょう」

 その組織の名は、シアの父に手紙を出してもらう時に聞いていた。
 その手紙はマティウスに渡る直前に、連邦監察軍の手で一度検閲されるらしい。
 それは彼が今、連邦監察軍の手で事情聴取を受けているからだ。

 トーラシア連邦は、数多くの都市国家が集まって出来た国である。
 だから基本的に軍隊は各領地で持っているのだが、都市国家同士で争いが起きたりしないように中央政府、つまり『連邦政府』付きの団体によって監査が必要になる。
 そこで結成されたのが『連邦監察軍』らしい。
 日本の組織でいうと、『公安警察』のようなものか。

「だったらケビンも悪さなんてしないんじゃ無いですか?」
「あやつにそんな常識は通用せぬ」

 ハンナの意見を否定したのは、ケビンの言動にずっと耐えていたセレナだった。

「先程ケビンが自ら語っていたと思うが、ケビンは私の友人を殺している」
「それって殺人って事!? なんで罪に問われないの?」
「それは剣術大会で起きた『事故』として扱われたからだ。だがあいつの態度を見ていればわかるだろう? あいつには明らかな『殺意』があった」

 夜中に走らせていた馭者ぎょしゃ席で、彼の話をするセレナに強烈な怨恨えんこんを感じたのは、これが原因だったようだ。

「言い辛い話をしてくれてありがとうセレナ。そして、調子に乗ってケビンをあおってしまった事を詫びよう。すまなかった」
「いやそれはいいんだ。私もあんなケビンの姿を見れて、正直吹き出しそうになっていたからな!」


 ケビンが何もせずに町から退散した事で、場の雰囲気は明るい。


 しかしセレナの話が少々気になる。
 もしその話を事前に聞いていたなら、俺は絶対にあんな挑発はしなかった。
 何故なら彼が何の分別も持たない、ただの子供だったからだ。

 俺が事前に打った数々の布石は、相手が大人だった場合にのみ有効な手段だ。
 しかし後先考えない子供相手では、常識的な論理が一切通用しない。
 自分が嫌だと思った瞬間に、全てをぶち壊そうとする。


 そしてあのケビンは残念ながら、その力を持ってしまっている。


「ひとまず何も起きずに済んだが、あのケビンがそのまま引き下がるような輩とは思えない。今後も何かしらちょっかいをかけて来るとは思う」
「私もそう思います。彼はどんな手を使ってでも、己の欲を満たそうとします」

 シアが同意する。
 彼女はケビンからずっと付きまとわられ続けて来たのだ。
 その意見には説得力がある。

「だが今回目のかたきにされているのは俺だ。だからみんなは何かあっても決して自分だけで対応せず、俺に伝えて欲しい。対応は俺が責任持って行う。宜しく頼みます」


 結局、この場はそのまま解散となった。


 ケビンが何か仕掛けてくる事は確実だ。
 ただ問題なのは、彼の行動に合理性が全く見られない事にある。

 俺をカークトンに連れて行くというのは、父であるヘイデンの要望らしい。
 だが彼の態度から受けた印象は『言われたから来た』というだけのものだ。


(ああ……そう言う事か)


 つまるところ、彼はなのだ。
 親の言いつけを嫌々やっていただけに過ぎない。

 となると、それがうまく行かなかった彼の次の行動は……



『八つ当たり』



 それしか考えられない。


(これは……本当に覚悟をする必要があるな)


 分別が無い上、平気で人殺しをするような人間だ。
 水の供給時には今まで以上の警戒が必要になるだろう。


 俺は今後、町の巡回に必ず同行する事を決めた。





    ◇  ◇  ◆




「決めたわ──」

 ケビンは帰りの馬車の中で、お目付け役のごろつきに呟く。

「何をお決めになったので?」
「トレバーを襲わせる」
「そ、そんな事をすればヘイデン様のお怒りが……」
「俺は親父から直々に『代行』を任されてるんだ! その俺がやるっていうんだから問題無いだろうが」
「いや……しかしですね……」

 お目付け役のデニスはケビンの父、ヘイデンから遣わされた人間だ。
 だからその命がケビンによって奪われる事は無い。

 ただそうは言っても、お目付け役としての役目が達成出来なかったなら……
 それは自分の命運が尽きるのと同義だ。
 だからこそ、彼はケビンの蛮行を必死で止める必要があった。

「わぁってるよ! 要は俺が直接手を下さなければいいんだろう? トレバーを監視させてる連中は元々、街道を根城にしていた盗賊団だ。あいつらに襲わせればいい」
「それは……なんのために襲わせるのでしょうか?」
「町人の一人や二人掻っ攫かっさらわせれば、あのヒースとかいう連中はそいつらを追うだろう。なんでもダンケルドじゃ人助けとかしてたらしいじゃねぇか」
「自分もそう聞いております」
「だろう? トレバーに盗賊団と戦えるような連中は残ってねぇ。魔法協会のへっぽこ連中もこういう件では一切動かない。だから間違いなく盗賊を追うのはヒースと取り巻きの連中しかいない」
「ケビン様は、それでヒースという者を始末すると?」
「いや。奴は親父が目を付けるような剣士だ。そんなもんでくたばるようなタマじゃねぇな」

 目付け役のデニスは正直、ケビンは考え無しの放蕩ほうとう息子とばかり思っていた。
 しかし実際は思ったより多くの情報を集め、ある程度は頭が回るようだ。

「それでは一体……」

 もしかしたら領主ヘイデンのような機転が息子にも備わっているのかも知れないという、ちょっとした期待を込めて聞いてみたのだが……

「んーと……この先の話については、とりあえず伝令を出してからだ。トレバーの見張り連中に俺の指示を伝えてくれ」
「あの、その指示の内容を事前に教えて頂く事は?」
「敵をあざむくにはまず味方からって言うだろ? まぁ後でちゃんと教えてやっからさっさと使いを出せや!」

 何か妙案があるのだろうと踏んだデニスは、言われるがままに使いを出す。
 襲わせるのが盗賊団なら、最悪尻尾斬りを行えば良いだけだ。


(これで目付け役としての勤めをしっかり果たせる!)


 その考えが間違いだった事に気付くのは、しばらく後になってからの事だった。


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仕事しながらなので大体土日に更新してます。
そしていつも眠いので誤字脱字大量にあるかも。ごめんなさぃぃ

現在プロットの大枠はほぼ終了し、各章ごとの詳細プロットを作成中です。
読んでいただいて本当にありがとうございます。

※ 11/20追記
年末に向けて本業が忙しく、ちょっと更新が滞るかも知れません。なるべく毎週一回は追加していきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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