1 / 142
序章
終わりの始まり
しおりを挟む
『既視感』という言葉がある。
心理学や脳神経学で使われるだけでなく映画や小説でも良く耳にするし、誰でも一度や二度そういった経験がある、割と馴染みのある言葉だろう。
過去に見た記憶情報が組み合わさって起こるとされるごく一般的な現象なのだが、それは主に瞬間的なイメージ、例えば「この風景見たことある」とか「このシチュエーションには覚えがある」といったように、ある一部分だけの記憶として思い起されるものだ。
実際俺もそういった既視感を感じることは普通にあるのだが、中には明らかに断片的でない記憶が呼び起こされることが今まで何度となく起きていた。
覚えている限りで一番古い既視感は、幼稚園に通っていた頃のものだ。
その日は遠足で、俺は近所の森林公園に向かって歩く園児達の列にいた。
暫くは町中を歩いて居たのだが、目的地の森林に入った瞬間、鮮明な既視感に襲われたのだ。
それは歩兵の列が妖怪に襲われるという奇妙なものだった。
更に付け加えると、その妖怪を今まで見たことが無いはずなのに、なぜか見た事があるものと認識していた。
幼稚園児にとって妖怪とは恐ろしい存在である。
実はその時、既視感を感じたという事実は覚えているのだが、あまりの恐怖のせいか自分自身がその後どういう行動を取ったのかは全く覚えていない。
自分がどんな様子だったのかは後年になって地元の友人達から、過去の黒歴史として教えてもらった。
それによるとその時俺は大きな叫び声を上げた後、「シロー、シロー」と言って泣きながら道の端にうずくまっていたらしい。
シロというのは俺が3才の頃に貰ってきた雑種の犬の名前で、老犬になった今でも一緒に暮らしている大事な家族だ。
大声で叫んでしまうような既視感は後にも先にもその時だけだったのだが、小学校の林間学校でおこなったオリエンテーリングでも似たような既視感に襲われた。
当日は6人で班行動をしていたのだが、その時も自分を含めた戦士の姿と共に
『この6名であれば必ずや任務を達成出来るだろう』
というような、根拠の無い自信が沸き起こる既視感を感じていた。
だが実際にはオリエンテーリング中、リーダーの方向音痴が発覚。
メンバー同士で不毛な罵り合いを散々した挙句、サブリーダーの俺が地図を奪取。
自らが先頭に立ち、速攻ですべてのチェックポイントを回ったのだが……
健闘むなしく2着でフィニッシュという結果に終わってしまった。
野外活動好きな俺にとっては本当に悔しい思い出だ。
例を挙げるとキリが無いのだが、俺が感じる既視感の特徴としては、まず記憶が断片的ではなく、ある程度のエピソードが付随してくるという事である。
他の人がどんな既視感を感じるのか気になったので色々な人に確認してみると、大抵は俺が話を盛っているという結論に至る。
確かに話を盛って場を盛り上げるのは好きなのだが、自分のデジャブを盛って話をしても、変人扱いされるだけだろう。
よってこれに関しては完全な冤罪である。
あとは参考になる文献もかなり読みまくった。
本に書いてある事をまとめると、俺が感じているのは既視感よりも妄想癖か幻覚のほうが近いようだ。
ただ俺自身の考えからすると既視感とは別にちゃんと妄想はしているし、それぞれの区別もしっかり出来ている。
だから多分、妄想癖が原因というわけではない。
また幻覚についても違うと断言出来る。
その理由は俺がその変わった既視感を感じる時というのは、必ず古い建造物を目にした時や自然の中にいる時だけなのだ。
自宅や学校、都会や街中などでは一切起こったことが無い。
幻覚であれば時や場所は選ばないはずである。
最初は何かの病気なのでは? と不安を感じていたのだが、他の人たちよりも感受性が高いだけなんだ、と思うようにしてからは特に気にならなくなった。
むしろ他の人には起こらないような何かを持っているって、これは何か特別存在なのでは!? などと高校2年頃まで本気で思っていた自分を、今では恥ずかしく思っている。
結局今までの所、特別な何かというものなど一切発生しなかったからだ。
それでも一つだけ。
いや、一か所だけ俺にとって不思議で特別な存在があった。
それは家から少し離れた川辺の堤防。
初めて来た人にとってはちょっと眺めがいいくらいの
何の変哲もない盛り土の上。
南方に城を思わせるような建造物。
南西には尖塔のようなビル。
北には川岸を木々に埋め尽くされた広い川が滔々と流れ
そして目の前に広がる田園風景。
ここに立って辺りを見回すと、なぜか必ず色々な思いを感じるのだ。
懐かしさ。
悲しみ。
喜び。
怒り。
そして焦り。
特に絶景というわけではないこの景色は
多分俺にとってのみ、特別な意味を持っているのだろう。
それは俺がそう感じるから、という以外に
説明出来る言葉は何も思い浮かばないのだった。
心理学や脳神経学で使われるだけでなく映画や小説でも良く耳にするし、誰でも一度や二度そういった経験がある、割と馴染みのある言葉だろう。
過去に見た記憶情報が組み合わさって起こるとされるごく一般的な現象なのだが、それは主に瞬間的なイメージ、例えば「この風景見たことある」とか「このシチュエーションには覚えがある」といったように、ある一部分だけの記憶として思い起されるものだ。
実際俺もそういった既視感を感じることは普通にあるのだが、中には明らかに断片的でない記憶が呼び起こされることが今まで何度となく起きていた。
覚えている限りで一番古い既視感は、幼稚園に通っていた頃のものだ。
その日は遠足で、俺は近所の森林公園に向かって歩く園児達の列にいた。
暫くは町中を歩いて居たのだが、目的地の森林に入った瞬間、鮮明な既視感に襲われたのだ。
それは歩兵の列が妖怪に襲われるという奇妙なものだった。
更に付け加えると、その妖怪を今まで見たことが無いはずなのに、なぜか見た事があるものと認識していた。
幼稚園児にとって妖怪とは恐ろしい存在である。
実はその時、既視感を感じたという事実は覚えているのだが、あまりの恐怖のせいか自分自身がその後どういう行動を取ったのかは全く覚えていない。
自分がどんな様子だったのかは後年になって地元の友人達から、過去の黒歴史として教えてもらった。
それによるとその時俺は大きな叫び声を上げた後、「シロー、シロー」と言って泣きながら道の端にうずくまっていたらしい。
シロというのは俺が3才の頃に貰ってきた雑種の犬の名前で、老犬になった今でも一緒に暮らしている大事な家族だ。
大声で叫んでしまうような既視感は後にも先にもその時だけだったのだが、小学校の林間学校でおこなったオリエンテーリングでも似たような既視感に襲われた。
当日は6人で班行動をしていたのだが、その時も自分を含めた戦士の姿と共に
『この6名であれば必ずや任務を達成出来るだろう』
というような、根拠の無い自信が沸き起こる既視感を感じていた。
だが実際にはオリエンテーリング中、リーダーの方向音痴が発覚。
メンバー同士で不毛な罵り合いを散々した挙句、サブリーダーの俺が地図を奪取。
自らが先頭に立ち、速攻ですべてのチェックポイントを回ったのだが……
健闘むなしく2着でフィニッシュという結果に終わってしまった。
野外活動好きな俺にとっては本当に悔しい思い出だ。
例を挙げるとキリが無いのだが、俺が感じる既視感の特徴としては、まず記憶が断片的ではなく、ある程度のエピソードが付随してくるという事である。
他の人がどんな既視感を感じるのか気になったので色々な人に確認してみると、大抵は俺が話を盛っているという結論に至る。
確かに話を盛って場を盛り上げるのは好きなのだが、自分のデジャブを盛って話をしても、変人扱いされるだけだろう。
よってこれに関しては完全な冤罪である。
あとは参考になる文献もかなり読みまくった。
本に書いてある事をまとめると、俺が感じているのは既視感よりも妄想癖か幻覚のほうが近いようだ。
ただ俺自身の考えからすると既視感とは別にちゃんと妄想はしているし、それぞれの区別もしっかり出来ている。
だから多分、妄想癖が原因というわけではない。
また幻覚についても違うと断言出来る。
その理由は俺がその変わった既視感を感じる時というのは、必ず古い建造物を目にした時や自然の中にいる時だけなのだ。
自宅や学校、都会や街中などでは一切起こったことが無い。
幻覚であれば時や場所は選ばないはずである。
最初は何かの病気なのでは? と不安を感じていたのだが、他の人たちよりも感受性が高いだけなんだ、と思うようにしてからは特に気にならなくなった。
むしろ他の人には起こらないような何かを持っているって、これは何か特別存在なのでは!? などと高校2年頃まで本気で思っていた自分を、今では恥ずかしく思っている。
結局今までの所、特別な何かというものなど一切発生しなかったからだ。
それでも一つだけ。
いや、一か所だけ俺にとって不思議で特別な存在があった。
それは家から少し離れた川辺の堤防。
初めて来た人にとってはちょっと眺めがいいくらいの
何の変哲もない盛り土の上。
南方に城を思わせるような建造物。
南西には尖塔のようなビル。
北には川岸を木々に埋め尽くされた広い川が滔々と流れ
そして目の前に広がる田園風景。
ここに立って辺りを見回すと、なぜか必ず色々な思いを感じるのだ。
懐かしさ。
悲しみ。
喜び。
怒り。
そして焦り。
特に絶景というわけではないこの景色は
多分俺にとってのみ、特別な意味を持っているのだろう。
それは俺がそう感じるから、という以外に
説明出来る言葉は何も思い浮かばないのだった。
0
仕事しながらなので大体土日に更新してます。
そしていつも眠いので誤字脱字大量にあるかも。ごめんなさぃぃ
現在プロットの大枠はほぼ終了し、各章ごとの詳細プロットを作成中です。
読んでいただいて本当にありがとうございます。
※ 11/20追記
年末に向けて本業が忙しく、ちょっと更新が滞るかも知れません。なるべく毎週一回は追加していきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
そしていつも眠いので誤字脱字大量にあるかも。ごめんなさぃぃ
現在プロットの大枠はほぼ終了し、各章ごとの詳細プロットを作成中です。
読んでいただいて本当にありがとうございます。
※ 11/20追記
年末に向けて本業が忙しく、ちょっと更新が滞るかも知れません。なるべく毎週一回は追加していきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる