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しおりを挟む「そうなられる為に一つ、一つ。頑張りましょう!」
と侍女たちに手を握られ円陣を組みながら
(名家の侍女としては満点の二人だけど、私との方向性の違いが否めないわね……)
二人からの圧に「嫌だ」と言えずに耐える。
その侍女らの思惑はさておいても、自分以外の花嫁候補の令嬢二人を迎える茶会の用意はしなくてはならない。
三人で茶会の流れを確認していると、サーシャより連絡がいったキャセラック家より届けられた箱が部屋に運び込まれる。
勿論、箱にはすべてキャセラック家の紋章入りだ。
それら箱から茶道具をサーシャ達が卓に並べてくれ、同じ模様で一揃えずつ吟味していく。
始めは王道のストレートの紅茶に合わせて白磁に薄桃色の小花が散った茶道具にする。
次も茶葉の香りや色身の雰囲気に合わせて計三種で、各々同じ色、模様の統一された道具を用意し、それぞれのお茶に合った菓子も選んでいく。
それからテーブルクロス、ランナー、活ける花の色合い、カトラリーに至るまで細かく指示をしていく。
自他ともに認める社交界からの引きこもりを自覚している身とあって、家で催された母親の茶会の手伝いだけは完ぺきにしていたので、決め事が沢山あっても不自由なくサーシャ達とも準備が進められた。
今日用意されたお菓子の数々はすでに卓に並んでいて、これもすべてキャセラック家からのものだ。
王城の台所へ頼んでも良かったのだが、初めての茶会でまたも家名に恥じぬ一線を!と張り切っているサーシャに、お母様からの援護という威光が加わってこうなった。
確かによくある王室御用達のようなキャセラック家御用達の品々を並べることは、上流階級社会においてやるべき見栄の張り合いなのだろう。
と、そうこうする内に、滞りなく準備を終えた頃にエマ・ウィラット伯爵令嬢の到着が告げられる。
私より頭一つ小さいかしら?
全体的に小柄な方だ。
アリアンナと違い、濃い金髪に緩やかなウェーブ、小さな顔に大きめの青い瞳で人形のような可憐さがある。
挨拶を交わし椅子を勧める。
サンディーノ嬢が来るまでたわいもない話をしていると、ウィラット家はキャセラック家の本領に当たる領地の東隣に位置しており、ウィラット辺境伯としてその昔にキャセラック家に仕えていたそうだ。
名前だけは頭の片隅にあった領地名だが、まさかうちが奉公先とは聞いてみないとわからないことだ。
だからなのか、よそよそしさに加えての低姿勢が相まって、会話が続かない。
そして、自分へのもの凄い「憧れのお姉様」の圧を全身から感じるのは………勘違いではないはず。
(……そんな情熱的に見つめられても)
ただ、アリアンナ的にはそれ程重要なことは話していないのだが、緊張しながらも一生懸命話を聞く姿勢などは好感が持てる。
私より二つ下と聞いているし……
ジィルトのような弟ではなく、妹がいたらこうなのかしら?などと徐々に打ち解け始めたところで、ジャネス・サンディーノ侯爵令嬢が到着したと告げられた。
挨拶を交わそうと、エマ嬢と扉の方へ移動をする。
「お初にお目にかかります、ジャネス・サンディーノでございます」
最新のドレスに身を包み、色もゴールドとドレスだけのきらびやかさではない自信が歩いているようである。
(…苦手な方ってどうしてすぐ分かってしまうのかしら……)
アリアンナは心中で盛大な溜息を吐く。
ただでさえこういう駆け引きめいた会話が続くお茶会などが嫌で、特に社交界で友達を作ることもせずいたのだ。
まして、この面子で今から茶会など出来る事なら延期したい。それも自分が招いたからではなく、頼まれて、母からの秋波も感じ、開いたのだ。
ただただ、面倒だと思う。
その上、主催者であるなら場を盛り上げなくてはならない。
誠にもって憂鬱である。
最近会得したばかりだが、すでに名人級の取り繕った猫の笑顔をしっかり被り、心のなかで獅子の毛皮の紐を固く結び直さねばと思った。
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