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31.
しおりを挟む間もなくデルヴォーク達もやって来た。
アリアンナが名乗ると、殿下が連れて来た従者三人を紹介された。
二人は名乗るのみであったが、一人は丁寧に自己紹介をしてきた。
名をコーリー・ロウナン。
デルヴォークの騎士団の副団長だと言う。髪も瞳も明るい鳶色でアリアンナに向ける笑顔には人懐っこさが伺える。
ともかく、集合時間前ではあるが全員揃ったので出立となった。
途中、中継地点の村で休憩を挟んだが、行程三時間程であろうかまだ日の高い内にヴィドナに着くことが出来た。
「大したものだ。女の身でありながら、キャセラック嬢の実力は本物だな」
鞍から降り、手綱を従者に渡すとアリアンナの方へ真っ直ぐデルヴォークが歩いて来た。
手袋を外しながら、アリアンナへ労いの言葉を掛ける。
「ありがとうございます。ですが、私の為に休憩を入れて頂きましたから…本来ならもっと早くに着けていたはずですのに」
確かにアリアンナは女性としては乗馬が上手い方である。
多分、侯爵令嬢としての乗馬の腕前としては破格だ。
アリアンナが遅れを取ることはなかったが、途中休憩を入れさせてしまったことが申し訳なさに変わったとて仕方がない。
そうして話しながらデルヴォーク達と共に砦の騎士に中へと案内される。
その砦長たる隊長の部屋へ移動する間、アリアンナにとって予想外の出来事が起こった。
王城騎士団直轄地であるこのヴィドナ砦に詰める騎士達に女性は勿論おらず、その結果、月に一度見るデルヴォークより隊員の視線はアリアンナに集まることになったのである。
今まで自主的引きこもりをしていた身としては居心地の悪い事この上ない。
まして今日のアリアンナはドレスという令嬢の戦闘服ではない。
出掛けのサーシャからのお小言を思い出し何度目になるか分からない『次からは言う事をききます』を胸中ひたすら唱える。
そんな若い騎士達の熱い視線を一身に浴びながら、精神的にやっと辿り着いた隊長室で座ることもそこそこにデルヴォークに声を掛けられ、続きの隣室に二人で移動する。
間をおいてジィルトが持参した茶器道具が入った箱を持って来ると、早々に置き立ち去っしまう。
また部屋に二人きりになるとデルヴォークに椅子を勧められる。
「先程も聞いたが、体は大丈夫か?」
「それは本当に大丈夫です」
デルヴォークとしてはいくら本人からの申し出とはいえ、馬車の用意をしなかったことを心配してくれているのだ。
しかし、アリアンナからすればこの程度はまだ大丈夫なのでそう答えるしかない。
だがこんな事を聞くくらいで二人きりなのはどうしてなのか分からない。
「ではその言葉、信じるぞ」
「勿論です」
「それではだ。……約束の貴女の魔術を見せてもらおう」
「!」
一瞬、言葉に詰まるがやはりこの二人きりには意味があったのだ。
アリアンナからすれば一難去ってまた一難でも決意を新たにここまで来たのだ、デルヴォーク殿下には心ゆくまで見てもらおうと返事を返す。
「……謹んでご覧にいれます」
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