黒獅子公爵の悩める令嬢

碧天

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30.

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 一週間とは実に早いものである。



 今日はデルヴォークとの二度目の対面日だ。

 早めの昼食を済ませ、デルヴォークが寄越したジィルトと共に厩舎で待つ。

 ジィルトが騎乗する馬にサーシャ達が用意してくれた簡易的な茶器道具とお茶請けをつける。

 デルヴォークが甘いものがあまり得意ではないと聞いたので、珈琲に甘さを控えナッツやドライフルーツを入れたパウンドケーキを入れたのだが、折角彼の機嫌を取るべく準備をしたのに、ここに来てまたも不意な出来事に見舞われた。

 デルヴォークが言った『外へ出る』が普通の場所ではなく、タルギス最北の砦ヴィドナへの視察を兼ねてということになったのだ。

 それを聞いてサーシャが喚わめいたのだが、アリアンナですら唖然としたのは事実だ。

 けれどこうして当日になっても目的地の変更がなかったということは、この視察を知らぬはずがない父キャセラック侯が殿下へ変更の意をしなかったことになる。

 よってアリアンナが異論を唱えられるはずもなく、この場にいる。



 ただ……。

 現在アリアンナは男子のそれと変わらぬ服装である。

 勿論、サーシャだけではなくミシェルにも大反対され止められた。

 しかしジィルトから聞いた砦までの距離はドレスで横掛けで騎乗して行くには遠すぎる。

 なので、弟を通して馬で行くことを殿下に伝えたのだ。

 サーシャ達には馬車を出して貰うなり、ジィルトに相乗りさせてもらうなりと散々煩く言われもしたが、魔術を見せるなら乗馬姿を見せても変わらないと反論をして今に至る。



 まぁそれだけが猛反対の理由ではないのだが。



 そもそも、アリアンナの予定はデルヴォークから落選されなければならない。

 侯爵令嬢としての矜持に邪魔をされ、王城という雰囲気にのまれもしたが、落ちた看板は立て直すのではなく、廃棄して貰えばいいことだと思い直せば失敗を重ねることに意欲的にならねばなるまい。

 公爵家の者として王族に対する行動ではないことを率先してする。物凄く恥ずかしくともやり遂げないととアリアンナは決意を新たにしたのだ。

 例え部屋に迎えに来たジィルトがアリアンナを見て盛大に溜息を吐いたとて想定内だ。



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