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しおりを挟むぎこちなく礼をし、棒読みの挨拶を添える。
そんなアリアンナの自己紹介に短く返事を返すデルヴォークに椅子を勧めれば、侍女達の給仕が始まる。
アリアンナは、昨日今日と気まずさから真っ直ぐにデルヴォークを見られず、視線を外したままだ。
いざこうして相対あいたいせば、何を言われるかも想像できないので緊張が増してくる。
微妙な沈黙の中を茶器を用意する音だけが響き、そう長くない時間で卓上の支度を終えた侍女達が下がってしまう。
アリアンナからは何も言えず、デルヴォークの出方を伺っている本格的な沈黙が流れる。
「昨日は何をしていたんだ?」
お茶に口をつけながら、アリアンナを見る事なく唐突に話を始める。
デルヴォークは俯くアリアンナの肩が微かに揺れるのを目の端に捉えつつ、敢えて彼女からの返事を待つ。
アリアンナからすれば、のっけからこの話題かと背中に変な汗が流れるが、謝罪をすることは決めていたし、返事をお待たせするのも申し訳ないし、いっそ好かれる訳ではないのだと意を決して返事を絞り出す。
「……その…お茶をしようと……申し訳ございません」
謝罪を述べ、始めてまともにデルヴォークを見る。
今日も黒を基調とした騎士服だが、外套はせず襟も開けているので多少くだけた分、昨日の謁見の時に見た姿とは違って近寄り難い感じが薄れている。
そしてミシェル達が言っていた通り、長身に少し長めの黒髪に縁取られた顔は端正な美丈夫で、切れ長の翡翠の瞳も涼やかに見える。
(……確かに婦女子の皆様がざわつくお顔だわ…)
思わず今の立場を忘れ、デルヴォークを凝視してしまったアリアンナだ。
巷では脅威も含め黒獅子などと呼ばれているが、こうして目の前にいるデルヴォークはさすが王子殿下といった風情だ。
(?今…笑った?)
正面のデルヴォークは目を伏せているので、はっきりとは分からないが今、微かに口の端が上がったように見えた。
アリアンナは昨日弟が間に入った時にも笑われたことを思い出し、自然と顔に熱が上がる。
が、デルヴォークからすればデイヴェックと話したアリアンナの行動の答えが当たっていたので意識せずに笑みが漏れただけだ。
しかし、アリアンナはそんな些細なことだとは露程も分からないから致し方がない。
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