25 / 59
24.
しおりを挟む────さて。
とりあえず聞きたいことも、準備することも沢山あるが、まずはうちひしがれているお嬢様の機嫌を上げてやらねばと心の腕まくりをしたサーシャだった。
それからの彼女の動きは早かった。
ミシェルに新しいお湯を替えに行かせ、アリアンナの着替えを手伝う。
お昼に食べ損ねたサンドウィッチを中心にアリアンナの好きなお茶受けを用意していくと、ミシェルが帰って来たのでアリアンナのお気に入りのお茶を淹れる。
まずは自分が座り、戸惑うミシェルを座らせ、そうして全部の用意が終わった時点で、長椅子に寝そべり背を向けたままのアリアンナに声を掛ける。
返事はないが聞こえてはいるだろう。
だったら、先に始めてしまえばこちらに来るだろうと見越して、普段なら絶対にしないお茶を飲み始める。
ミシェルはどうしていいか分からずに、おろおろとサーシャとアリアンナを交互に見ている。
「……もう!もう少し呼んでくれてもいいのに」
「お返事がなかったのでいらないのかと」
「……」
クッションを抱えたまま拗ねモードで近づいてくると着座する。
それを見計らい、ミシェルが新しくアリアンナの為にお茶を淹れる。
「で?ただのご挨拶ではなかったようですけど?」
「……」
答えたくないのか、お茶にも手を付けずにそこはかとなくやさぐれた態度で、アリアンナはティーカップを見つめている。
しかしサーシャはアリアンナを見ることなく、お茶を飲みながら先を促す。
「とにかく。話して頂けないことには何も出来ませんが?」
しれっと言い放つ。
「……ただの見習いではなかったの」
「はい?」
聞こえてはいたが、敢えて聞き返してみた。
「だから!ただの行儀見習いではなくてデルヴォーク殿下の花嫁見習いだったのよ!」
「きゃ──────っ!」
(……あ~ぁ。私が我慢して飲み込んだ悲鳴を、叫んじゃったわ……)
サーシャは突然の悲鳴に目が点になるアリアンナはさておき、さっき聞いたばかりの事実を改めて教えられ気を引き締める。
「ミ……ミシェル?」
「おめでとうございます!おめでとうございます!!!アリアンナ様付きになって、初日なのに驚くことばかりで正直、続けられるか心配になったんですけど!」
((えっ?!そんなこと思ってたの??))
立場は違えど、ミシェルと接した時間は同じアリアンナとサーシャは同時に同じことを思う。
「本当ですよ~、深窓の薔薇様のお噂は聞けど、実際に会われた方って誰もいらっしゃらなくて!要するに謎!謎のご令嬢だったんですよ、アリアンナ様。なのに、アリアンナ様って実際にお会いしてからも型破りもいいとこじゃないですか?!」
((…………こらこら))
「それなのに、デルヴォーク殿下のお妃様の座をゲットなさるなんて!尊敬します!大好きです!アリアンナ様に一生付いていきます!!」
「ちょっ、ちょーっと待って!お妃様の座は得てません!」
「へっ?」
「そうよ。ミシェル、ちょっと落ち着いて」
きらきらの輝く瞳に興奮状態のミシェルを二人で止める。
「どういうことですか~?」
「そんな一気に残念な顔をされても困るわ。お妃決定ではなくあくまで、花嫁候補。だいたい、私以外にもお二人いらっしゃるし。決定されるまで、半年も掛かるのよ!その間、私が選ばれるようなヘマをすると思って?」
「「?!」」
サーシャの耳に聞き捨てならない事が聞こえたような気がした。
「そうよ!私はここは魔術の為に来たのに!……そうだわ!自分を失い掛けてましたわ!今まで見てきた他の方々の数々の失敗を優雅に取り入れて、名に恥じぬよう立派に花嫁候補を落選してみせるわ!」
「えぇ~~?本気ですか?」
(……魔女会議サバト……)
ミシェルではないが、今アリアンナが決意したことには賛同しかねる。
しかねるどころか、反対…では生温い。
なおも目の前で繰り広げられてる光景は何かしら?
やっと、うちの大事なお嬢様が日の目を見るって時に!誰がこんな風にお育てしたのか!!
(…この私だ!!)
雷に打たれたような衝撃で猛省すれば、サーシャは今一度育て直すまでと、怒らず、焦らず、かつ迅速にと心に誓う。
サーシャは最大級の笑顔をアリアンナとミシェルに向けながら優しい声音で
「アンナ様。とにかく謁見の間の扉を開けたところから、一度全てお話頂きたく思います」
と、こめかみの青筋を隠さず言った。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる