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しおりを挟む会話を聞いたサーシャとしては、明らかにアリアンナの敗北を感じてはいたが、まさか本格的にアリアンナが誤作動を起こしたと痛烈に思った。
「帰る」とは何事か?!
旦那様のお返事は?!
「ふむ。じゃぁ……」
「お待ちください!」
普通であれば絶対に口など挟まないサーシャも、キャセラック侯の返事次第で帰宅にするわけにはいかないと、何としてでも止めなくてはと思った。
「どうした、サーシャ」
「お話の途中口を挟むことをお許し下さい。先程、予期せぬ王子殿下との対面をいくらお嬢様のご意思とはいえ、お止めせず大変失礼になったこと、私からもお詫び申し上げます。ですから、帰宅だけはご容赦頂きたく思います」
「先程……。あぁ。庭園でのことかい?あれはアンナが殿下と話せば解決するから、サーシャが気に病むことはない。そして、帰りたいと言っているのはアンナで、私は帰すつもりはないからね」
旦那様の口から帰宅の許可を出さないと聞いて、一安心し、無礼ながらも口を挟んだ甲斐があったというものだ。
安心したサーシャは謝罪と共に頭を下げる。
「さて。アンナ、帰りたいとは忘れ物か何かかい?」
「……い、いいえ」
たった今までは帰宅するのが名案だと思って言ってみたが、許可が下りないのを聞いてからなお主張するのは難しいことこの上ない。
思い付きまかせで勢いよく立ってもみたが、父からそろりと目を逸らす。
「では、家に帰るとは?」
「え、え~……と」
完全に父から顔を逸らして返事にならない返事をする。
「あ~…っと。そうですわ!殿下のお好きな茶葉!茶葉が分かれば家から持って来ようかと!」
(お可哀そうに、お嬢様……。完全に棒読みです)
聞いている侍女側からしても明らかに旗色が悪くなる一方に不憫になる。
(今日の明日で茶葉の心配なんて、これじゃ、お茶をしなくてはならないじゃない!)
「なるほど。ではジャスティンに言って用意させよう」
「あ、ありがとうございます」
「他になければ、改めてここでの生活がアンナにとって実りあるものになる事を祈っているよ」
「……はい」
「明日はアンナらしく会ってみたらどうかな?それと。入学はさせないと言ったが出入りの許可は取れるんだから王立魔術学院アカデミーにもきちんと行きなさい」
「……は、い」
キャセラック侯は言い終えると席を立つ。
アリアンナはその場でお辞儀をして挨拶にかえる。
サーシャは見送りの為、キャセラック候より先に扉へと向かう。
アリアンナの下げた頭にキャセラック候から「明日の衣装は華美にならぬように」と言われた。
顔を上げた時には歩き始めたキャセラック候が扉の外へ出るところで、その背に「はい」と返事を返せば、キャセラック侯を部屋の外で待っていた従者達に隠されてしまった。
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