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────とにかく落ち着いて。
お父様に聞かなくてはならないことを整理しなくてはね……
謁見を終え、王宮内に与えられた部屋へと向かう間アリアンナは、たった今聞かされた登城の本当の意味を父に問い質さねばとあれこれ考えながら歩いてきた。
部屋に入るとサーシャ達が労いの言葉と共に出迎えてくれる。
一方サーシャはこれは何かあったと気付いた。
焦点の合わぬ目でブツブツ言いながら戻って来た主アリアンナの顔を見る。
共に戻ったキャセラック侯は至っを見れば普段と変わりはない。
多分、アリアンナだけが失敗をしてきたのだと思う。
いつもなら、お小言の一つも言って(決して一つどころで終わった試しはないが)何があったか聞くのだが………
(旦那様との様子の違いが……)
アリアンナの侍女としてベテランのサーシャは、主の異変に気付いたことを顔に出さずアリアンナの元へ近寄る。
キャセラック侯といえば、部屋の奥にある応接用の長椅子にゆったり腰を掛けると、ミシェルにお茶を入れるよう声を掛けている。
対するアリアンナは、扉の前で立ち止まったままだ。
一応声は掛けたが、サーシャの声に無反応でブツブツ言っているだけなので、背中を押し強制的に椅子に座らせる。
それにしても、一体何があったのか。多少最近の故障具合(?)は知っているつもりだが、元々の侯爵令嬢としてのアリアンナには絶対の信頼がある。
こんな風になるような出来事……
アリアンナの前に茶器を置くと、改めて「お嬢様!」と大きな声で呼び掛ける。
「はっ!」
はっきりと覚醒し、声をあげたアリアンナが、卓に思い切り両手をつくと立ち上がる。
「お父様!」
「何かな?」
「何かな?ではございません!この登城の意味はご存知でしたの?」
「知るか、知らぬかで言えば、知っていた」
「まぁ!ではデルヴォーク殿下の妃候補見習いと知っていて私に言わなかったのですか?!」
「正確には候補者の選定見習いだがね」
こんなに自分が声を荒げて父に問い正したことはないのに、キャセラック侯は優雅に香りを楽しみつつ、お茶を飲んでいる。
アリアンナに視線を合わせることすらしていない。
「お父様!」
「アンナはもしかして怒っているのかな?」
「え?えぇ、怒っております」
「……ふむ」
サーシャは二人の会話を聞いていたが、事は登城の真の意味が妃見習いであったとは!
アリアンナでなくとも驚くなという方が無理だ。
それでも口を挟むわけにはいかないので、サーシャは声を上げぬようお腹に力を入れる。
親子の会話はまだ続いており、見つめる先の二人は変わらず、娘の剣幕にのんびり答えている父である。
「まず、知っていたことを言わずにいたのは謝ろう。ただ、私はね。アンナを花嫁見習いとして登城をさせたつもりはないんだよ」
「……え?……えぇ?」
「驚くかい?私はお前に王城で出来うる経験をしなさいとは言ったが、花嫁になって欲しいとは思ってもいなかったのでね、言わずにいたんだが」
「…はぁ」
アリアンナは記憶を辿るような返事になってしまう。
確かに手紙を見せられた時に、父から言われた台詞だ。
もう何からどう驚けばいいかが分からなくなってきた。
お父様に聞かなくてはならないことを整理しなくてはね……
謁見を終え、王宮内に与えられた部屋へと向かう間アリアンナは、たった今聞かされた登城の本当の意味を父に問い質さねばとあれこれ考えながら歩いてきた。
部屋に入るとサーシャ達が労いの言葉と共に出迎えてくれる。
一方サーシャはこれは何かあったと気付いた。
焦点の合わぬ目でブツブツ言いながら戻って来た主アリアンナの顔を見る。
共に戻ったキャセラック侯は至っを見れば普段と変わりはない。
多分、アリアンナだけが失敗をしてきたのだと思う。
いつもなら、お小言の一つも言って(決して一つどころで終わった試しはないが)何があったか聞くのだが………
(旦那様との様子の違いが……)
アリアンナの侍女としてベテランのサーシャは、主の異変に気付いたことを顔に出さずアリアンナの元へ近寄る。
キャセラック侯といえば、部屋の奥にある応接用の長椅子にゆったり腰を掛けると、ミシェルにお茶を入れるよう声を掛けている。
対するアリアンナは、扉の前で立ち止まったままだ。
一応声は掛けたが、サーシャの声に無反応でブツブツ言っているだけなので、背中を押し強制的に椅子に座らせる。
それにしても、一体何があったのか。多少最近の故障具合(?)は知っているつもりだが、元々の侯爵令嬢としてのアリアンナには絶対の信頼がある。
こんな風になるような出来事……
アリアンナの前に茶器を置くと、改めて「お嬢様!」と大きな声で呼び掛ける。
「はっ!」
はっきりと覚醒し、声をあげたアリアンナが、卓に思い切り両手をつくと立ち上がる。
「お父様!」
「何かな?」
「何かな?ではございません!この登城の意味はご存知でしたの?」
「知るか、知らぬかで言えば、知っていた」
「まぁ!ではデルヴォーク殿下の妃候補見習いと知っていて私に言わなかったのですか?!」
「正確には候補者の選定見習いだがね」
こんなに自分が声を荒げて父に問い正したことはないのに、キャセラック侯は優雅に香りを楽しみつつ、お茶を飲んでいる。
アリアンナに視線を合わせることすらしていない。
「お父様!」
「アンナはもしかして怒っているのかな?」
「え?えぇ、怒っております」
「……ふむ」
サーシャは二人の会話を聞いていたが、事は登城の真の意味が妃見習いであったとは!
アリアンナでなくとも驚くなという方が無理だ。
それでも口を挟むわけにはいかないので、サーシャは声を上げぬようお腹に力を入れる。
親子の会話はまだ続いており、見つめる先の二人は変わらず、娘の剣幕にのんびり答えている父である。
「まず、知っていたことを言わずにいたのは謝ろう。ただ、私はね。アンナを花嫁見習いとして登城をさせたつもりはないんだよ」
「……え?……えぇ?」
「驚くかい?私はお前に王城で出来うる経験をしなさいとは言ったが、花嫁になって欲しいとは思ってもいなかったのでね、言わずにいたんだが」
「…はぁ」
アリアンナは記憶を辿るような返事になってしまう。
確かに手紙を見せられた時に、父から言われた台詞だ。
もう何からどう驚けばいいかが分からなくなってきた。
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