18 / 59
17.
しおりを挟む
──────────────────────
王宮の廊下を侍従を三人ほど連れた紳士が歩いて行くのを捉える。
その集団に追い付こうと足早に駆け寄る。
駆け寄った相手はジィルトの父、ジョルト・R・キャセラック侯爵だ。
「……先程、姉上のところへ行って参りました」
「ん?」
娘が王への謁見となる為、仕事を抜けて謁見の間へと移動していると、息子ジィルトが合流をしてきた。
歩きながらの異動だが、書類に目を通していたので返事がおざなりになる。
「どうした?何かあったか?」
「……何かというより、いつも通りです」
「それのどこが悪い?」
サインをした書類を侍従に渡し、下がってもいいと手振りする。そして息子の顔を目の端で捉えても、あまり機嫌が良い様には見えない。
最近では騎士団で感情を顔に出さぬよう訓練をしている成果、元々あまり表情がなかった息子の顔だがなお無表情が増しているように思える。
が、そこは親なので何となくの雰囲気で分かる部分がある。
「……あの人は今回の事の重要性を分かっていないですよね」
(ふむ……)
「自分の立場を自覚されるべきだと」
「……あ~……」
「何か?」
「いや。何でもない」
(仕方がない、息子よ。残念なことに姉上は知らないのだよ)
「殿下達に何か言われたのか?」
「そんな事は……ただ」
「ただ?」
さっき姉の部屋で起こった殿下とのニアミスを父親にどう説明すればいいか、言い淀む。
でも自分は謁見には立ち会えない。だったら耳に入れておかねば、あの姉のことだ父親が対処を強いられる状況も招くかもしれないとジィルトは考える。
気持ち、居住まいを正すと、先程の出来事を話した。
「なので、姉上にもしもとなれば、殿下に迷惑を掛けることは必須と……」
「ははっ」
「父上?」
「そんなに姉は信用出来んか?」
滅多に声をあげて笑うことなどない父親に、盛大に笑われて顔が熱くなるのを感じるが、言ったことに偽りはないので質問の意味を考える。
本来であれば家柄から育ちを考えても姉が今回の件に絡めば、当然向かうところ敵なしになる結果は分かっている。
だが最近の姉を振り返ると、只ならぬ侯爵令嬢と化してきていることは間違いない。
いや、この姉の正体を父達が気付いておらぬやもしれない。
ならばやはり強く反対を申立てるのが臣下のそれではないか?と思う。
「信用に足るか足らぬかではなく、今日のような事をなされる姉上では務まるものも務まらぬと思うのです」
「なるほど。しかし最後にお決めになるのは殿下ではないかな?」
「……殿下次第ということですか……?」
「まぁ、こういう事は貴族たるもの本人が決める事も無きに等しいからな。王陛下次第であろうとも言っておこう」
「ただな」とジョルトは隣を歩く息子の顔を覗き、極上の笑みをもたらすと前置きをして話し始める。
「案外、運命というものは本人が気付かぬうちに動いていることもあると加えておこうか」
「……?答えになっておりませんが?」
まだ訝しむ息子の背中を軽く叩き、ジョルトの足取りは久し振りの楽しい期待に軽くなるのだった。
王宮の廊下を侍従を三人ほど連れた紳士が歩いて行くのを捉える。
その集団に追い付こうと足早に駆け寄る。
駆け寄った相手はジィルトの父、ジョルト・R・キャセラック侯爵だ。
「……先程、姉上のところへ行って参りました」
「ん?」
娘が王への謁見となる為、仕事を抜けて謁見の間へと移動していると、息子ジィルトが合流をしてきた。
歩きながらの異動だが、書類に目を通していたので返事がおざなりになる。
「どうした?何かあったか?」
「……何かというより、いつも通りです」
「それのどこが悪い?」
サインをした書類を侍従に渡し、下がってもいいと手振りする。そして息子の顔を目の端で捉えても、あまり機嫌が良い様には見えない。
最近では騎士団で感情を顔に出さぬよう訓練をしている成果、元々あまり表情がなかった息子の顔だがなお無表情が増しているように思える。
が、そこは親なので何となくの雰囲気で分かる部分がある。
「……あの人は今回の事の重要性を分かっていないですよね」
(ふむ……)
「自分の立場を自覚されるべきだと」
「……あ~……」
「何か?」
「いや。何でもない」
(仕方がない、息子よ。残念なことに姉上は知らないのだよ)
「殿下達に何か言われたのか?」
「そんな事は……ただ」
「ただ?」
さっき姉の部屋で起こった殿下とのニアミスを父親にどう説明すればいいか、言い淀む。
でも自分は謁見には立ち会えない。だったら耳に入れておかねば、あの姉のことだ父親が対処を強いられる状況も招くかもしれないとジィルトは考える。
気持ち、居住まいを正すと、先程の出来事を話した。
「なので、姉上にもしもとなれば、殿下に迷惑を掛けることは必須と……」
「ははっ」
「父上?」
「そんなに姉は信用出来んか?」
滅多に声をあげて笑うことなどない父親に、盛大に笑われて顔が熱くなるのを感じるが、言ったことに偽りはないので質問の意味を考える。
本来であれば家柄から育ちを考えても姉が今回の件に絡めば、当然向かうところ敵なしになる結果は分かっている。
だが最近の姉を振り返ると、只ならぬ侯爵令嬢と化してきていることは間違いない。
いや、この姉の正体を父達が気付いておらぬやもしれない。
ならばやはり強く反対を申立てるのが臣下のそれではないか?と思う。
「信用に足るか足らぬかではなく、今日のような事をなされる姉上では務まるものも務まらぬと思うのです」
「なるほど。しかし最後にお決めになるのは殿下ではないかな?」
「……殿下次第ということですか……?」
「まぁ、こういう事は貴族たるもの本人が決める事も無きに等しいからな。王陛下次第であろうとも言っておこう」
「ただな」とジョルトは隣を歩く息子の顔を覗き、極上の笑みをもたらすと前置きをして話し始める。
「案外、運命というものは本人が気付かぬうちに動いていることもあると加えておこうか」
「……?答えになっておりませんが?」
まだ訝しむ息子の背中を軽く叩き、ジョルトの足取りは久し振りの楽しい期待に軽くなるのだった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる