黒獅子公爵の悩める令嬢

碧天

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 「…………」

 はあぁぁ。と大きな溜息をついたサーシャは

 「ミシェル、お庭は普段、人通りとかどうなってますか?」

 「?こちらは西の庭園となるのであまり人は来ないかと……」

 「……旦那様がお知りになられたら何と言われるか……」

 「お父様も喜んで来て頂けると思うけど。じゃあ、いいのね?」

 「……大変不本意ですが、致し方ありません」

 「きゃぁ!ありがとう、サーシャ」

 サーシャからのお許しが出て、胸の前で小さく拍手をしてしまう。

 「いいですか、お嬢様に負けたのではなくて、お天気に負けたんですよ」

 一言余計に付けつつも、ついつい主の我儘を許してしまうサーシャは、渋々ながら道具を片付け、ミシェルにもう一つの箱を持たせバルコニーへ移動を促す。

 ミシェルはまだ訳が分からず、とりあえずアリアンナとサーシャについて行くだけだ。

 バルコニーへ続くガラスの窓を開け放ち、三人で出てみる。

 なるほど、確かに、人影もなさそうな庭で、東屋もそう遠くなく見て取れる。

 「じゃあ、私が先に行くわね。それからテーブル……それだと大きいから衣裳部屋にあった小さい丸卓をこちらに用意しておいて。その後、椅子とあなた達を下ろすから」

 「ではお嬢様。荷物を全部下ろし終えてから、皆で東屋に向かうんですからね」

 「分かっているわ。丁寧に下ろすから任せておいて」

 とアリアンナは言い終えると、ふわりと浮き上がり下へと落ちた。

 「お嬢様!」

 ミシェルは慌てて叫んで、手摺に駆け寄り、下を見れば笑顔で手を振っているアリアンナを見れる。

 そう。アリアンナは無事だ。大怪我をしていてもおかしくない高さから落ちたのに!

 いつの間にか横に来ていた、サーシャを見れば、苦笑を返してくる。

 「あれがうちのお嬢様。名門侯爵令嬢にして風の魔術をお使いになられるの。しかも、か・な・り・」

 開いた口が塞がらないというか、辛うじて口は閉じたままだったが、驚きは隠せない。

 そんな話をしている間にもお茶の道具が入った箱は、ふわりと浮かび下ろされる。

 「さ、驚きながらでもいいから、丸卓を運ぶの、手伝って」

 衣裳部屋へ向かうサーシャの背中を、小走りに追う。



 丸卓は、二人で運べば案外簡単に移動できた。それをバルコニーへ置き、椅子も三脚用意する。家具が揃ったところで、下に声を掛ける。

 下で待っていたアリアンナは、その家具たちを浮かせ下ろす動作をする。

 注意深く魔術を使っていると、後ろで枝を踏み折るような音が聞こえたような気がした。

 気がしたが、慎重に家具を下ろしている手前、よそ見をするわけにもいかず、家具と地面との距離が残り二、三メートルとなった、その時。



 「何をしている」

 「?!」
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